赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第261話 水月の剣

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ホムラが獣の姿で走り、馬車のランプの明かりに向かうと、その傍らにいる木綿のドレスのシルエットがどんどん近づく。
だが、警戒したのかメイド姿のパドルーが、片手をドレスの脇に入れて駆け寄り、身構えるのが見えた。

「私です!リリ……リリスで……うぷっ!」

声を上げる彼の口を、変化した翼で押さえてホムラがスピードを落とし、パドルーの様子を見る。
パドルーが、リリスの声を聞いて立ち止まり、声を潜めた。

「私です、パドルーでございます!」

声を聞いて、ホムラが小走りで彼女の元に急ぐ。
リリスを背に縛り付けていた翼を緩め、そのままブルリと震えて、リリスを抱えたまま人の姿に戻った。

「ああ…パドルー様…」

リリスがパドルーに手を伸ばす。
ホムラが彼を抱いたままパドルーの元に駆け寄り、彼を地に降ろした。
足が震えて、上手く立てない。
パドルーがホムラとアイコンタクトして、うなずき、小柄でも15歳の彼の身体を軽々と抱き上げた。

「えっ、あ、あの…」

「ご心配めさるな。私は水月の戦士、このくらい軽い物。
その犬は?」

「この方は地龍様の…」

吐き気がこみ上げ、言葉が途切れた。
ホムラが森へ戻りかけて、数歩引き返す。
迷う彼の姿に、リリスがグッと我慢して声を上げた。

「行って下さい、ホムラ様。私は足手まといでしかありません。
どうか皆様をお願いします。
風よ、火の神官たちにご加護を!あれは悪霊が相手、手を貸して下さい!」

彼の言葉に呼応するように、風の精霊が集まる。
ホムラが、その場に片膝付いて頭を下げた。

「承知、お任せを!
戦士殿、お任せしてよろしいか。」

本当ならば、自分はリリスの元を離れてはいけないのだ。
だが、過去からずっと共に来た他の神官たちが危うい。
彼らも、もう失いたくない。

苦渋の決断をするホムラに、一本角の犬がバフッと吠えた。
行けと、まるでそう言うように。

「巫子を頼む。」

一本角の犬が、まかせろとでも言うように身体が一回り大きくなり、リリスの傍らに座る。
ホムラはまた獣の姿に変化すると、風のように走り去った。

ホムラを見送り、リリスは緊張の糸が切れたように、ガクリとパドルーに身を任せてしまった。
悪霊の悪い気に当たったのは、あの閉塞された空間で、吸う空気までが重く感じられて吐き気がした。
精霊に囲まれて育っただけに、悪霊という悪いものに当たることは少ない。
セフィーリアにそう言う仕事が来る訳もなく、たまに山で出会う彷徨う霊も避けていた。

人が、死後あのように禍々しい物になるなんて、なんと業の深い生き物でしょう。
今の私にあれを浄化させる力は無い。
フレア様、…ああ、フレアゴート様……私に、力を……
うう、気持ちが悪い……誰か、助けて……

ぐったりした彼の様子に、ハッとパドルーがメイドドレスの端を持ち、彼の身体を隠すように巻き付ける。
無言で馬車に駆け戻り、中に彼の身体をそっと横たえると、大腿のベルトに刺している水月の剣をメイドドレスの脇から取り出し掲げた。

「水月!出番だ!」

水月の剣がブルリと震える。
柄の先端にある奇妙な動物の彫刻が、ニイッと笑った。

『 マ~カ~…… 』

「水の流れよ出でよ!貴き人を守る為、水の守りがたゆたえて、ここに無情の場を作るものなり。
ここはたまり水。地に水、天に月、水月のかなめよ来たれ。」

『 …セ~ロ~… 』

ゆっくりした言葉を呟き、水月の剣が青く輝いて透明の水が刃から湧き出した。
それはまるで幻の水、さざめくように馬車を包み、馬車などそこに無いかのようにかき消して行く。
そしてそこは、かなめになる小さな水たまりが、天の月を映して静かにそこにあった。



ガンッ!  ガンッ!  ギィンッ!

ガーラントが剣を振り、男の剣を弾く。
男は息が上がってるのに、無理矢理身体を動かされているようだ。
城内の一兵に過ぎない太刀さばきで、激しく黒い息を吐きながら表情は鬼気迫っている。
殺す訳には行かず、ひたすら剣を受け続ける。

「どうする?!様子がおかしい、殺すのはマズくないか?くそっ!月明かりだけでは暗い!」

グレンと共にナイフで戦うゴウカが彼に叫ぶ。

「グレン!この暗さは人には危うい!」

「わかった。明かりをともすが、目立つ!早々に片付けよ!!」

「承知!」

ガーラントの返答にグレンがうなずき、ゴウカに任せて相手をしていた男から数歩離れると、左小指の長い爪を一本折って空へ投げた。

「 火の神!火種はここに! 」

長い爪はカッと光り、辺りを煌々と照らす。

敵の姿がはっきりと見える。
3人の男は、騎士などでは無い。
顔も覚えていない様な一般兵だ。
しかも、顔に赤い血を付けた二人は壮年の、ここまで体力のあるような年齢には見えない。
そして何よりグレンとゴウカが相手をしている青年は、どう見ても死者にしか見えなかった。
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