264 / 303
24、黒い悪霊からの逃亡
第262話 死人の兵士
しおりを挟む
グレンの投げた爪が火種となって燃え上がり、一帯を明るく照らす。
ゴウカが灰となって周囲を巡り、結界を作る。
「結界を張りました、ただし、効果は一時ですが。無いよりはマシかと。」
「時間稼ぎには上々。」
結界で閉塞された空間では光が更に乱反射するのか、そのまぶしさに黒い息を吐く男たちの動きが鈍った。
ガーラントがこの時とばかりに剣を寝かせ、面の部分で思い切り男の右腕に打ち下ろす。
「 この! 」
ドカッ!
「…おお……」ガランッ!
衝撃に男が剣を落とし、ガーラントが男の背中を蹴って蹴り倒す。
グレンが長い髪を一本抜いてそれに飛びつき、髪を針のようにピンと張ると男の首元に刺した。
髪は何故か、指ほどの長さを残してスッと身体に吸い込まれる。
男はビクンと一瞬けいれんして、そのまま身動きが取れなくなった。
「殺したのか?!」
驚くガーラントに、ゴウカが首を振る。
「眠り針です!大丈夫。」
「よし!あと二人だ!」
ガーラントがブルースの加勢に向かう。ブルースが明るい顔で、叫んだ。
「くそっ、ガーラントに負けた!なるほど、剣は使いようか!」
「全力で振り回せ!」
「おう!」
壮年の男が、ガーラントに剣を振り上げる。
それを横から剣で叩き落とし、よろめいたところでブルースが一歩足を引いた。
剣を起こし、面で思い切り壮年の男の脇腹に打ち込む。
「せいっ!」
ドカッ!
思い切りやっただけに、男は身体をくの字に曲げて吹っ飛んでゆく。
「あ、つつ…ゴメンな。」
あばらが折れたかもしれない、ちょっとやり過ぎた。
倒れた男には、グレンがやはり髪を打つ。
「あと一人!」
あと、残るは一人。
ずっと剣を受け流しているゴウカの加勢に行く。
「はあっはあっ、助かります!」
ゴウカは術の影響で、やや小さくなった身体で、苦戦している。
いくつか刺したあとがあるが、その青年は灰色の顔で痛みさえ感じないようだった。
「こいつ、生きているのか?」
「わからん」
向かい合い、だんだん暗くなる明かりの中で見ると、表情が無い。
何より、明るくなって初めて気がついたが、彼の胸には沢山の血が流れたあとがあった。
「どうする?」
「刺しても切っても反応がありません。昔はこう言う者は燃やしていましたが、今の作法がわかりません。
巫子が微妙なお立場なので、後々禍根を残さぬようにせねば。」
そうなのだ、ここで死者を残すと容易にリリスへ責が来る。
跡を残さぬそんな都合のいいことなどあるのか…
ブルースとガーラントがジリジリにじり寄る。
グレンの明かりが、次第に明るさを落として行く。
このままでは、他の兵も呼んでしまう。
いや、もうこちらへ向かっているだろう。急がねばなるまい。
「グレン、あれを呼んで下さい。」
ゴウカが、彼に囁く。
「しかし……結界の中では、人の姿では声が届かぬ。」
戸惑う彼に、ゴウカが力強くうなずく。
「私を見ても、落ち着いていらっしゃった、大丈夫。」
グレンが前垂れを押さえ、唇を噛む。
「 致し方なし 」
頭巾が、耳の上から両側にもぞりと動いて後ろに突っ張る。
頭巾から伸びる長い髪に、何かムチ状のモノが伸びて混じった。
「マズいぞ、まずくないか?」
死人の青年が、剣をあげた。ブルースがうろたえて剣を受け流す。
人が来たら、この兵を殺したのは自分たちにされてしまう。
グレンの前垂れで見えない顔を見る。
グレンは何か、先ほどからずっと術を念じていた。
「どうするんだ?」
ゴウカが、代わって答えた。
「狭間に飛ばします。」
「はざま?さっき失敗したじゃないか?!」
グレンが、呪文を唱えながら答えた。
「死者とわかればやり方を変えるのみ。あるモノを呼んでいる、時間を稼げ。
三百年ぶりで、声が届くかどうか…時間がかかっている。」
「わかった。城の兵は?」
チリチリと、結界がゆるむ、ほころびの音がゴウカに聞こえる。
グレンは術に集中していて、彼に頼ることなど出来ない。
死者との戦いなど、見られたらどうなるのか。
「ああ…結界が……もう………」
時間がかかりすぎた。結界が、もう切れてしまう……
万全ではない身でかける術のなんと未熟な事よ。
焦るゴウカが、その時、思わず顔を上げた。
耳に、魔導師の杖が鳴らす澄んだ木の音が、心地よいほどに響いていた。
ゴウカが灰となって周囲を巡り、結界を作る。
「結界を張りました、ただし、効果は一時ですが。無いよりはマシかと。」
「時間稼ぎには上々。」
結界で閉塞された空間では光が更に乱反射するのか、そのまぶしさに黒い息を吐く男たちの動きが鈍った。
ガーラントがこの時とばかりに剣を寝かせ、面の部分で思い切り男の右腕に打ち下ろす。
「 この! 」
ドカッ!
「…おお……」ガランッ!
衝撃に男が剣を落とし、ガーラントが男の背中を蹴って蹴り倒す。
グレンが長い髪を一本抜いてそれに飛びつき、髪を針のようにピンと張ると男の首元に刺した。
髪は何故か、指ほどの長さを残してスッと身体に吸い込まれる。
男はビクンと一瞬けいれんして、そのまま身動きが取れなくなった。
「殺したのか?!」
驚くガーラントに、ゴウカが首を振る。
「眠り針です!大丈夫。」
「よし!あと二人だ!」
ガーラントがブルースの加勢に向かう。ブルースが明るい顔で、叫んだ。
「くそっ、ガーラントに負けた!なるほど、剣は使いようか!」
「全力で振り回せ!」
「おう!」
壮年の男が、ガーラントに剣を振り上げる。
それを横から剣で叩き落とし、よろめいたところでブルースが一歩足を引いた。
剣を起こし、面で思い切り壮年の男の脇腹に打ち込む。
「せいっ!」
ドカッ!
思い切りやっただけに、男は身体をくの字に曲げて吹っ飛んでゆく。
「あ、つつ…ゴメンな。」
あばらが折れたかもしれない、ちょっとやり過ぎた。
倒れた男には、グレンがやはり髪を打つ。
「あと一人!」
あと、残るは一人。
ずっと剣を受け流しているゴウカの加勢に行く。
「はあっはあっ、助かります!」
ゴウカは術の影響で、やや小さくなった身体で、苦戦している。
いくつか刺したあとがあるが、その青年は灰色の顔で痛みさえ感じないようだった。
「こいつ、生きているのか?」
「わからん」
向かい合い、だんだん暗くなる明かりの中で見ると、表情が無い。
何より、明るくなって初めて気がついたが、彼の胸には沢山の血が流れたあとがあった。
「どうする?」
「刺しても切っても反応がありません。昔はこう言う者は燃やしていましたが、今の作法がわかりません。
巫子が微妙なお立場なので、後々禍根を残さぬようにせねば。」
そうなのだ、ここで死者を残すと容易にリリスへ責が来る。
跡を残さぬそんな都合のいいことなどあるのか…
ブルースとガーラントがジリジリにじり寄る。
グレンの明かりが、次第に明るさを落として行く。
このままでは、他の兵も呼んでしまう。
いや、もうこちらへ向かっているだろう。急がねばなるまい。
「グレン、あれを呼んで下さい。」
ゴウカが、彼に囁く。
「しかし……結界の中では、人の姿では声が届かぬ。」
戸惑う彼に、ゴウカが力強くうなずく。
「私を見ても、落ち着いていらっしゃった、大丈夫。」
グレンが前垂れを押さえ、唇を噛む。
「 致し方なし 」
頭巾が、耳の上から両側にもぞりと動いて後ろに突っ張る。
頭巾から伸びる長い髪に、何かムチ状のモノが伸びて混じった。
「マズいぞ、まずくないか?」
死人の青年が、剣をあげた。ブルースがうろたえて剣を受け流す。
人が来たら、この兵を殺したのは自分たちにされてしまう。
グレンの前垂れで見えない顔を見る。
グレンは何か、先ほどからずっと術を念じていた。
「どうするんだ?」
ゴウカが、代わって答えた。
「狭間に飛ばします。」
「はざま?さっき失敗したじゃないか?!」
グレンが、呪文を唱えながら答えた。
「死者とわかればやり方を変えるのみ。あるモノを呼んでいる、時間を稼げ。
三百年ぶりで、声が届くかどうか…時間がかかっている。」
「わかった。城の兵は?」
チリチリと、結界がゆるむ、ほころびの音がゴウカに聞こえる。
グレンは術に集中していて、彼に頼ることなど出来ない。
死者との戦いなど、見られたらどうなるのか。
「ああ…結界が……もう………」
時間がかかりすぎた。結界が、もう切れてしまう……
万全ではない身でかける術のなんと未熟な事よ。
焦るゴウカが、その時、思わず顔を上げた。
耳に、魔導師の杖が鳴らす澄んだ木の音が、心地よいほどに響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる