赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第262話 死人の兵士

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グレンの投げた爪が火種となって燃え上がり、一帯を明るく照らす。
ゴウカが灰となって周囲を巡り、結界を作る。

「結界を張りました、ただし、効果は一時ですが。無いよりはマシかと。」

「時間稼ぎには上々。」

結界で閉塞された空間では光が更に乱反射するのか、そのまぶしさに黒い息を吐く男たちの動きが鈍った。
ガーラントがこの時とばかりに剣を寝かせ、面の部分で思い切り男の右腕に打ち下ろす。

「 この! 」

ドカッ!

「…おお……」ガランッ!

衝撃に男が剣を落とし、ガーラントが男の背中を蹴って蹴り倒す。
グレンが長い髪を一本抜いてそれに飛びつき、髪を針のようにピンと張ると男の首元に刺した。
髪は何故か、指ほどの長さを残してスッと身体に吸い込まれる。
男はビクンと一瞬けいれんして、そのまま身動きが取れなくなった。

「殺したのか?!」

驚くガーラントに、ゴウカが首を振る。

「眠り針です!大丈夫。」

「よし!あと二人だ!」

ガーラントがブルースの加勢に向かう。ブルースが明るい顔で、叫んだ。

「くそっ、ガーラントに負けた!なるほど、剣は使いようか!」

「全力で振り回せ!」

「おう!」

壮年の男が、ガーラントに剣を振り上げる。
それを横から剣で叩き落とし、よろめいたところでブルースが一歩足を引いた。
剣を起こし、面で思い切り壮年の男の脇腹に打ち込む。

「せいっ!」

ドカッ!

思い切りやっただけに、男は身体をくの字に曲げて吹っ飛んでゆく。

「あ、つつ…ゴメンな。」

あばらが折れたかもしれない、ちょっとやり過ぎた。
倒れた男には、グレンがやはり髪を打つ。

「あと一人!」

あと、残るは一人。
ずっと剣を受け流しているゴウカの加勢に行く。

「はあっはあっ、助かります!」

ゴウカは術の影響で、やや小さくなった身体で、苦戦している。
いくつか刺したあとがあるが、その青年は灰色の顔で痛みさえ感じないようだった。

「こいつ、生きているのか?」

「わからん」

向かい合い、だんだん暗くなる明かりの中で見ると、表情が無い。
何より、明るくなって初めて気がついたが、彼の胸には沢山の血が流れたあとがあった。

「どうする?」

「刺しても切っても反応がありません。昔はこう言う者は燃やしていましたが、今の作法がわかりません。
巫子が微妙なお立場なので、後々禍根を残さぬようにせねば。」

そうなのだ、ここで死者を残すと容易にリリスへせきが来る。
跡を残さぬそんな都合のいいことなどあるのか…

ブルースとガーラントがジリジリにじり寄る。
グレンの明かりが、次第に明るさを落として行く。
このままでは、他の兵も呼んでしまう。
いや、もうこちらへ向かっているだろう。急がねばなるまい。

「グレン、あれを呼んで下さい。」

ゴウカが、彼に囁く。

「しかし……結界の中では、人の姿では声が届かぬ。」

戸惑う彼に、ゴウカが力強くうなずく。

「私を見ても、落ち着いていらっしゃった、大丈夫。」

グレンが前垂れを押さえ、唇を噛む。

「 致し方なし 」

頭巾が、耳の上から両側にもぞりと動いて後ろに突っ張る。
頭巾から伸びる長い髪に、何かムチ状のモノが伸びて混じった。

「マズいぞ、まずくないか?」

死人の青年が、剣をあげた。ブルースがうろたえて剣を受け流す。
人が来たら、この兵を殺したのは自分たちにされてしまう。
グレンの前垂れで見えない顔を見る。
グレンは何か、先ほどからずっと術を念じていた。

「どうするんだ?」

ゴウカが、代わって答えた。

「狭間に飛ばします。」

「はざま?さっき失敗したじゃないか?!」

グレンが、呪文を唱えながら答えた。

「死者とわかればやり方を変えるのみ。あるモノを呼んでいる、時間を稼げ。
三百年ぶりで、声が届くかどうか…時間がかかっている。」

「わかった。城の兵は?」

チリチリと、結界がゆるむ、ほころびの音がゴウカに聞こえる。
グレンは術に集中していて、彼に頼ることなど出来ない。
死者との戦いなど、見られたらどうなるのか。

「ああ…結界が……もう………」

時間がかかりすぎた。結界が、もう切れてしまう……
万全ではない身でかける術のなんと未熟な事よ。

焦るゴウカが、その時、思わず顔を上げた。
耳に、魔導師の杖が鳴らす澄んだ木の音が、心地よいほどに響いていた。
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