赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第263話 異形の神官たち

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魔導師の杖が床を突く音が鳴り響く。
ゴウカが、目を見開き思わず城を見た。


「この、術の気配!!」


コンコン、コーーーーンッ………


周囲を、ぐるりと見回す。
強力な結界に阻まれ、まるで周りの時間が止まったかのように音がしない。風が吹かない。

「加勢が…心強い加勢が、ああ、城の魔導師殿には借りが出来ました。」

フフッと笑って、ゴウカの緊張がほぐれた。

「城の魔導師とは…ああ、あの子はそうか、良かった。
ちゃんと生きていた。」

知っている者の気配がしたのか、そう言ってゴウカの表情が明るく笑ってグレンを見る。
グレンは集中しているのか、前垂れの向こうの顔は見えない。

死人の男が剣を振り上げる。
ブルースがそれを受け流し、ガーラントがまた剣の面で脇腹を殴った。
男は人形のように飛ばされ、身体をいびつに曲げたまま、また襲ってくる。

「こいつ、一体誰に殺されたんだ?!」

ブルースが、問いながら横から襲う剣を叩き落とす。

「わからん、城の誰かがあの悪霊に操られているのかもしれん。」

「操られて、殺しまでやってるって?」

ガーラントが、恐ろしいことを言う。
その背後でグレンが、長い爪をまたカラカラ言わせ始めた。
その音が、結界内で鳴り響く。


「オム、オム、我は輪廻を司る者の配下なり、狭間の主よ来たれ。

我に手を貸せ、死人を食らえ。巫子に仇成す死人を食らえ。

オム、オム、狭間の獣、死界の獣、来たれ!

オルフレクス!」


グレンがヒュッと空に向けて手を掲げる。

「来る……来るぞ!下がれ!」

慌てて騎士二人が、ゴウカが指さすところまで下がり、辺りを見回す。


オオオオオオオオ…………………

遠くから、風のような音が響いた。


ビシッ!


宙が軋んだ音を立てる。

と、森の木の間から、大きなは虫類のような目がぎょろりと開く。

「オルフレクスよ!」

ギョロリと目玉が動き、グレンが指し示す方を見ると、それは一瞬だった。

シャッ!

空を切って、大きな長い舌が伸び、目にも留まらぬ早さで死人の青年を巻き取って裂け目に消える。
大きな目は満足そうに目を閉じ、そして消えて行った。

呆然と、ブルースが立ち尽くす。

「一体…何が起きた?」

グレンの灯した明かりは次第に消えて行く。

ザザザ…ザザザザ……

後ろから、ホムラの変身した獣が駆けてくると、パンッと音を立てて結界が消えた。
突然現れた一同に、ホムラが足を滑らせながら止まる。

ゴウカが彼に駆け寄って、耳元に何か囁いた。
ホムラがうなずき、騎士二人に背を向ける。
この場から、一刻も早く退かねばならない。

「早く背に!人間たちが近づいてきます!」

ゴウカと共に、グレンが顔の前垂れを押さえながら二人に乗るように手で招いた。

「ホムラに乗って!あとで話します。
とにかくここを去りましょう。巫子が心配です。」

「お、おう、わかった。その二人はどうする?」

「私が運びます。この二人は生きている、巫子がいれば呪いは解けるでしょう。
話が聞ければ、聞いた方が良い。」

「そうか!じゃあ、任せた。行こう!」

騎士二人が乗り込むと、鞍が無く不安定な二人をたてがみがムチ状に伸びてしっかりと巻き付く。
そして、獣の姿のホムラは、風のように走り出した。
その横を、ゴウカが灰になって飛ぶ。
月明かりしか無い中で、木々の間を昼間のようなスピードで駆け抜けた。

ゴウゴウと向かい風に目を閉じ、ガーラントは下を向いてブルースの身体にしがみつく。
ふと、他に足音がしないことに怪訝な顔で、ガーラントが振り向く。
と、グレンの姿に驚愕した。
彼は両手に男たちを抱え、地を這うような高さを飛んでいた。

頭巾の前垂れが風にめくれ上がり、月明かりにチラチラと顔があらわになる。
その顔は、まるでは虫類のようにウロコに覆われ、身体はヘビのようにくねらせ飛んでいた。
両耳の上には、角のようなモノの根元がチラチラと見える。
背にはコウモリのような羽根が広がり、その根元からは長い棘の付いたシッポが生え、沢山のムチのようなものが髪に交じって風になびいていた。

ヘビ?いや、あれは……いにしえの書物で見た……本当の……ドラゴン?!

まさか!あれは言い伝えの聖獣で……

だから精霊王を、恐れと敬いを込めて、そう呼ぶんじゃ無いのか?!

まさか!それが、現実にいたのか?!



驚愕して、目を見開いて彼の姿を見つめた。
恐ろしいと、感じた訳じゃ無い。

だが、何故か、グレンと目が合ったような気がした。

「ハッ!」

見てはならないようなものを見た気がして、慌てて目をそらす。
どこかばつが悪く、ブルースの背中に顔を埋めた。

「どうした?ガーラント!落ちそうか?」

「いや、何でも無い。問題ない!」

「そうか、落ちそうな時は言えよ!ははっ!」

ブルースは見なかったようだ。
今は良かったと思う。色々ありすぎて、頭が追いつかない。
そう言えば、地の底の神殿にいた長老も身体がヘビだった。

普段見た目が普通の人間だったので……、しかもまさかのドラゴンだったので度肝を抜かれたが、そう言えば彼もミスリルだったと息を整える。

『不気味な物が信用出来なければ、私など誰からも信用されません』

リリスの声が、遠く耳に響く。
そうだったな、巫子殿。

でも、……なんだろうな、見られてよかったと、何故か胸が躍る。

彼は不気味と言うより不思議…と言った方がぴったりだ。
まさかの聖獣とは、恐れ入った。

昔のミスリルは、変身する者が多いのだろうか。
ならば、この時代目にするミスリルたちは、可愛いものだと思ってしまう。

以前の自分なら、とても許容できなかっただろう。
フフッと笑って、グレンに向けて振り向かず、こぶしをあげる。

真の姿をガーラントに見られ思わずスピードを落としたグレンが、その手を見て彼の意思を確かに受け取った。
隠す必要は無いのだと。
グレンが羽根を、バサリと羽ばたいてスピードを上げる。

人の姿からかけ離れた精霊の血が濃い神官たち。
彼らは恐れられながらも、神官という地位でようやく人の中で生きてきた。
だが今、ミスリルたちでさえすっかり精霊の血は薄くなり、姿を変えることさえ出来ない者がほとんどだ。
この姿を、受け入れることの出来る人間がいるのか。
その杞憂を、リリスが吹き飛ばした。

あなたはあなたのままであれ。

リリスが、ブルースに言った言葉が頭の中に残っている。
宙を飛びながらグレンは、次代の火の巫子がリリスであって良かったと思う。

あの方に、……あの方ならば、この命かけて悔いは無い。

ウロコに覆われて表情を出しにくい顔で、グレンは笑って仲間と並び、森を飛び抜けた。
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