赤い髪のリリス 戦いの風

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25、青の巫子の目覚め

第276話 不機嫌な魔導師

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ミランがザレルの部屋の前に来ると、いつもいる側近が部屋の前にいない。
部屋を守る兵に問うと、王に挨拶に行かれたと言う。
出直そうかときびすを返したとき、ばったり出くわした。
頭を下げると、うなずいて手を上げる。
ひどく深刻な様子に、もしかしたら、自分はここに残っていて正解だったのかもしれぬと思った。

「そうか、傷はもう良いのか? リリスの元へ行くのだな。
頼みたい…事がある。」

ザレルの言葉が重い。

「なにか?」

「うむ……」

部屋に入ると、ザレルがジロリと窓を見る。
ツカツカとテーブルに歩み寄ると水差しを持ち、いきなりその窓へ水をまいた。

「いかがなされました?」

「消えた。問題ない。

最近、視線を感じるのだ。
魔導師に相談して良からぬ者が入らぬようにしてもらったが、どうも効き目が薄い。
城の結界は万全だと言うが、すでに何かに入り込まれているような気がする。
王は懸念は不要と仰るが、好きにせよと許しを下さった。

魔導師の塔の長と、今話をしてきた。

巫子の審査など後回しだ、リリスに城のことを相談したい。
城を調べたいというならそれも良かろう、イネスも来ていると言うらしいので、彼の話も聞きたい。

現状打破に、どうすれば良いのか…王も宰相殿も乗り気で無いだけに、どれだけ進言しても対応がまったく進まぬ。
何がどうと、説明のつかぬ事だけに押し切ることが出来ぬ腹立たしさよ。

俺は、ここを離れられない。手紙を、貴方に託したい。良いか?」

「もちろん、喜んでお預かりします。」

ミランが胸に手を当てお辞儀する。
ザレルは大きくうなずき、手紙を書く間ここで待つよう告げた。
ミランが彼の側近に勧められた椅子にかけると、ザレルが机に向かってペンを走らせる。

「あれは…今どんな状況なのか、実はとても心配でな。
俺も帰りたいのは山々だが、今の状況は……何かが起きる前のような……とてもマズい予感がするのだ。

実は、巫子に来て欲しい気持ちと、本当に来て良いのかと問う気持ちが相反している。
妻も……
妻は精霊なのでな、危険があってはいけないと家に帰している。
精霊王は闇落ちなどせぬと言うが、俺も妻を守り切れるかわからん。」

ひどく、深刻な状況のようだ。
ペンを走らせながら、時々ペンを止め、呟くようにミランに語る。
ミランは、先ほどの話を、伝えるべきか迷いながら、一つうなずきザレルの元へと歩み寄った。

「これは、実は先ほど聞いた、ごく個人的な話なのですが……」

ザレルが人払いして彼の話に耳を傾ける。
老婆の言った、「毒を吐く少年」「彼を救うことでこの地の者を救う」という言葉がどこか引っかかる。
だが、おおやけにできない根源には騎士が少年と関係を持ったことがある。
だが、ザレルは信用に足る人物だ。

ミランが真剣に語るそれも、ザレルは無言で目を閉じてうなずきながら、黙って聞いていた。



その日の夕刻、町外れの小川に、セリアスたち3人の姿が現れた。
小川のほとりでのぞき込む魔導師と、その後ろで腕を組み、ため息交じりのミリアム、そして一緒に小川に身を乗り出す心配そうなセリアスだ。

水の精霊は、日の沈む夕刻か、日の昇る前の早朝の方が会話しやすいと言う。
魔導師は久々の大金の仕事に、丁寧に段取りを行ってゆく。
だが、自分を追い出した城の騎士に、終始不機嫌な魔導師に不安は消えなかった。

「汝、気高き小川の主、傷ついた少年の姿を映したまえ。」

魔導師が川面に砂金を少し落とすと、ゆらゆらと少年の姿が川面に映る。
だがそれは前と違って見たことも無いような、目を見開き、おびえたような顔に見えた。

「 カレン!カレン!どうしたんだ!何をおびえている?! 」

セリアスが思わず声を上げる。
魔導師が、バッと手を上げてそれを制した。
しかし、少年の姿は水が乱れて消えてしまう。魔導師が、腹立たしそうに振り返った。

「お静かに!水の精霊は静粛を好みます。」

「も、申し訳ない……」

心配のあまり身を乗り出してくるセリアスに、魔導師はそれがひどく邪魔に感じて腹立たしく声を上げた。

「あなたは邪魔だ、少し下がって頂きたい!
だいたい精霊は金目のものを嫌うというのに、何も気を配らず身を乗り出してくる!
そんな華美な装飾品を見せつけて、貴方にやる気はあるのか?!
特に、人を切ったこともあるであろう、その剣を近づけないで欲しいのだ!」

「申し訳ない、申し訳ない。」

何も反論できず、魔導師の機嫌を損なっては大変とセリアスが何度も頭を下げ、ギュッと拳を握る。

「セリアス、落ち着け。魔導師のガイラム殿は元塔の長の側近にまでなられた御方だ。
落ち着いて見守るが良い。」

そんな、そんな肩書きなどなんの説得力にもならない。
自分はなんと愚かな弱い男だろう。家の大事を押し切られ、それを振り払うことも出来なかった。
カレン、お前は俺を目指してくれたというのに。

ああ…本当は、巫子を連れてきたかったのだ!
騎士長のご子息に、やはり言うべきだったと。

空を仰ぎ、次第に暗くなる空を見て、セリアスは腹を決めた。
「……ミリアム、頼む。俺の剣を預かってくれ、何かあれば手を貸したい。」

「しょうが無い奴だ、本家の坊やはこれだから困る。」

坊やなどと、この年で言われるといつもなら憤慨するところだ。
セリアスは上衣を脱いで剣を下ろし、金目のものをすべて外した。

「カレン、お前は騎士になるのだと言っただろう。きっと助ける。待っていろ!」

目を閉じ、大きく深呼吸して、心を決めた。
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