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25、青の巫子の目覚め
第277話 騎士の本懐(ほんかい)
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日が落ちて、手元が暗くなってきた。
魔導師ガイラムが弟子にランプに火を付けるよう指示している。
セリアスが彼の元に行き、あらためて頭を下げた。
「ガイラム殿、失礼した。よろしく頼む。」
「貴方の気持ちはわかっている。力を尽くそうぞ。」
魔導師ガイラムが、再度小川に向かう。
砂金をひとつまみ小川に落とす。
ブツブツと呪をつづり、もうひとつまみ、ふわりと舞い上げた。
杖を両の手に握り、小川に向かってクルリと回し、そっと杖の持ち手側を向ける。
「我は魔導師ガイラム、水に属するものなり。
汝、気高き小川の精、その流れは澄み渡り、清き水は地の汚れさえも清浄に変える。
どうか、汝が捕らえし少年を、どうぞこの場に戻したまえ。」
杖で、水面をちょんと触れた。
水面に波紋が広がり、小川の流れが緩やかになって行く。
ポッと小さな明かりが、川面から無数に沸き起こり、舞い上がった。
それは次第に一つになり、水面が盛り上がり小さな精霊が姿を現す。
それは人型に輝き、もこもこ水が盛り上がっては流れて、また人型になった。
「がいらむヨ、オ前ハ、ナント、イウ、無礼、者カ。
真実ヲ、見ル事、ヲ、怠リ、我ヲ、盗人ノ、ヨウニ、告ゲル。
早々ニ、立チ去レ。話ス、コトハ、ナニモ、ナイ。」
「な、なんと!」
ガイラムが、愕然と顔を上げる。
セリアスは心を決めたようににじり寄り、地に伏して声を上げた。
「申し上げます!どうか、どうか、この無作法、お許しを!
私は騎士セリアス・エンシスアル。
あなた様が保護されている少年を探している者です!
少年が傷ついていることは知っております。
あなた様のおかげで生きている、そのことに感謝申し上げます!
どうか!ここに出すこと叶わぬのならば、少年のそばに行くことをお許し下さい。」
「なっ!何を言う!セリアス!気でも狂ったか!」
ミリアムが、慌てて彼のシャツを引っ張る。
だが、彼は微動だにせず頭を下げ続けた。
「精霊の世界に、人間が行くことは禁忌かもしれません。
ですが、暴漢に襲われ、おびえている姿に心が痛みます。
どれほど恐ろしい目にあったのでしょう。
あの活発で、澄んだ瞳で微笑むあの子が、あのように小さく、おびえるほどに。
私は!私は!あの子を救えなかったことが………このように、偉そうなあつらえを持つ騎士でありながら、救えなかったことが、申し訳ないのです。
私は、そばにいて、大丈夫だと、心を落ち着けてやりたいのです。
どうか、どうか、どうか、お許し願います!」
精霊が、彼をじっと見つめる。
「汝、心ノ、清キ、者ヨ……シバシ、マテ」
光る水の塊がぶるっと震えて、水面に消えた。
しんと辺りが静まり、川面が穏やかに輝く。
しばらくすると水面がさざめき、大きく波打って、渦の中央が巻き上げるように立ち上がっていく。
ザザザザザザッ!
「おお!おお!これは!まさか!」
ガイラムが慌てて下がり、それを見守る。
水は人よりも高く立ち上がり、それが次第に人のような姿へと変わり、細身の水のドレスをまとったような髪の長い女性の形を取り、それが夜の闇の中で美しく青く輝いた。
「水の精霊女王!シールーン!」
ガイラムでさえ、その本来の姿を直に見るのは初めてかもしれない。
それほど人嫌いで有名なその彼女が、この町外れの小さな小川に姿を現すなど、考えもしなかった。
ガイラムは慌てて頭を下げると、その姿をまじまじと見ることも出来ず、圧倒される存在感に凍り付いた。
シールーンが、水音を立てながらセリアスを指さす。
指は怒りに震え、指先から水がこぼれて指が短くなると、また細く長い指が形取られる。
『 汝! 何故! 巫子を連れてこなかった! 』
シールーンが、水を震わせ揺らぐ声で腹立たしそうに問う。
その一言で、あの占い婆が彼女であったのかと、愕然として悔いた。
「申し訳、ありません。私には……
人にはしがらみが多く、私にはそれを払う力もございませんでした。
私は、弱く、愚かな男でございます!
ですが! この命かけましても、その少年の一生を、夢を! ここで終わらせるには忍びない、諦めの悪い男でございます!
どうか、美しき精霊女王よ! この愚かな人間に、大いなるお力添えを、もう一度!
どうかもう一度だけ! 賜りたくお願い申し上げます!」
シールーンを真っ直ぐに見つめ、燃えるような瞳で訴えて、そして頭を下げた。
『 汝、我が身の甘さを知るが良い!
精霊界に、人が行くのは命を削るぞ! その覚悟があるというのか?! 』
「覚悟の上! 」
『 ホ、ホ、ホ、精霊界は人の世とは世が違う。
水がありながらそれを口にすること叶わず、飢えと渇きに苦しみ抜いて、死して石に変わると言うても、汝はそう言いきれるのか? 』
「大切な者を救うためならこの命、かけてこそ騎士の本懐! 石に変わろうと構わぬ! 」
『 よくぞ申した! 二言は無いな! 』
「 騎士に二言はない! 」
『 許す! 来るが良い! 人の子よ! 』
シールーンが大きく手を広げて彼を招く。
「 はっ! 」
セリアスが毅然と立ち上がり、シールーンへと歩き出す。
ミリアムが、ガタガタと唇を震わせながら、彼の名を呼んだ。
「セ、セリアス………… 」
「ミリアムよ、今度は、今度こそは、巫子を頼む。
騎士長の館に赤い髪の炎の巫子がいる。
彼を、今度こそ、彼を頼む。」
セリアスが、振り向きもせずそう言って、シールーンの懐に抱かれ、彼女の水の中に入って行く。
『 汝、勇敢な男よ、お主ならば力になろう。 』
そう言い残し、シールーンの姿は一息に水になって消えた。
無数に飛んでいた光もいつの間にか消え、後には静かに流れる小川が普段の流れを見せている。
「ば、馬鹿な! セ、セリアス!! 」
ミリアムがガチャンと持っていた剣を落とし、それにつまずきながら小川に駆け寄った。
後には、呆然とその場から動けない男二人が残され、サラサラと静かな水の流れる音が響いていた。
魔導師ガイラムが弟子にランプに火を付けるよう指示している。
セリアスが彼の元に行き、あらためて頭を下げた。
「ガイラム殿、失礼した。よろしく頼む。」
「貴方の気持ちはわかっている。力を尽くそうぞ。」
魔導師ガイラムが、再度小川に向かう。
砂金をひとつまみ小川に落とす。
ブツブツと呪をつづり、もうひとつまみ、ふわりと舞い上げた。
杖を両の手に握り、小川に向かってクルリと回し、そっと杖の持ち手側を向ける。
「我は魔導師ガイラム、水に属するものなり。
汝、気高き小川の精、その流れは澄み渡り、清き水は地の汚れさえも清浄に変える。
どうか、汝が捕らえし少年を、どうぞこの場に戻したまえ。」
杖で、水面をちょんと触れた。
水面に波紋が広がり、小川の流れが緩やかになって行く。
ポッと小さな明かりが、川面から無数に沸き起こり、舞い上がった。
それは次第に一つになり、水面が盛り上がり小さな精霊が姿を現す。
それは人型に輝き、もこもこ水が盛り上がっては流れて、また人型になった。
「がいらむヨ、オ前ハ、ナント、イウ、無礼、者カ。
真実ヲ、見ル事、ヲ、怠リ、我ヲ、盗人ノ、ヨウニ、告ゲル。
早々ニ、立チ去レ。話ス、コトハ、ナニモ、ナイ。」
「な、なんと!」
ガイラムが、愕然と顔を上げる。
セリアスは心を決めたようににじり寄り、地に伏して声を上げた。
「申し上げます!どうか、どうか、この無作法、お許しを!
私は騎士セリアス・エンシスアル。
あなた様が保護されている少年を探している者です!
少年が傷ついていることは知っております。
あなた様のおかげで生きている、そのことに感謝申し上げます!
どうか!ここに出すこと叶わぬのならば、少年のそばに行くことをお許し下さい。」
「なっ!何を言う!セリアス!気でも狂ったか!」
ミリアムが、慌てて彼のシャツを引っ張る。
だが、彼は微動だにせず頭を下げ続けた。
「精霊の世界に、人間が行くことは禁忌かもしれません。
ですが、暴漢に襲われ、おびえている姿に心が痛みます。
どれほど恐ろしい目にあったのでしょう。
あの活発で、澄んだ瞳で微笑むあの子が、あのように小さく、おびえるほどに。
私は!私は!あの子を救えなかったことが………このように、偉そうなあつらえを持つ騎士でありながら、救えなかったことが、申し訳ないのです。
私は、そばにいて、大丈夫だと、心を落ち着けてやりたいのです。
どうか、どうか、どうか、お許し願います!」
精霊が、彼をじっと見つめる。
「汝、心ノ、清キ、者ヨ……シバシ、マテ」
光る水の塊がぶるっと震えて、水面に消えた。
しんと辺りが静まり、川面が穏やかに輝く。
しばらくすると水面がさざめき、大きく波打って、渦の中央が巻き上げるように立ち上がっていく。
ザザザザザザッ!
「おお!おお!これは!まさか!」
ガイラムが慌てて下がり、それを見守る。
水は人よりも高く立ち上がり、それが次第に人のような姿へと変わり、細身の水のドレスをまとったような髪の長い女性の形を取り、それが夜の闇の中で美しく青く輝いた。
「水の精霊女王!シールーン!」
ガイラムでさえ、その本来の姿を直に見るのは初めてかもしれない。
それほど人嫌いで有名なその彼女が、この町外れの小さな小川に姿を現すなど、考えもしなかった。
ガイラムは慌てて頭を下げると、その姿をまじまじと見ることも出来ず、圧倒される存在感に凍り付いた。
シールーンが、水音を立てながらセリアスを指さす。
指は怒りに震え、指先から水がこぼれて指が短くなると、また細く長い指が形取られる。
『 汝! 何故! 巫子を連れてこなかった! 』
シールーンが、水を震わせ揺らぐ声で腹立たしそうに問う。
その一言で、あの占い婆が彼女であったのかと、愕然として悔いた。
「申し訳、ありません。私には……
人にはしがらみが多く、私にはそれを払う力もございませんでした。
私は、弱く、愚かな男でございます!
ですが! この命かけましても、その少年の一生を、夢を! ここで終わらせるには忍びない、諦めの悪い男でございます!
どうか、美しき精霊女王よ! この愚かな人間に、大いなるお力添えを、もう一度!
どうかもう一度だけ! 賜りたくお願い申し上げます!」
シールーンを真っ直ぐに見つめ、燃えるような瞳で訴えて、そして頭を下げた。
『 汝、我が身の甘さを知るが良い!
精霊界に、人が行くのは命を削るぞ! その覚悟があるというのか?! 』
「覚悟の上! 」
『 ホ、ホ、ホ、精霊界は人の世とは世が違う。
水がありながらそれを口にすること叶わず、飢えと渇きに苦しみ抜いて、死して石に変わると言うても、汝はそう言いきれるのか? 』
「大切な者を救うためならこの命、かけてこそ騎士の本懐! 石に変わろうと構わぬ! 」
『 よくぞ申した! 二言は無いな! 』
「 騎士に二言はない! 」
『 許す! 来るが良い! 人の子よ! 』
シールーンが大きく手を広げて彼を招く。
「 はっ! 」
セリアスが毅然と立ち上がり、シールーンへと歩き出す。
ミリアムが、ガタガタと唇を震わせながら、彼の名を呼んだ。
「セ、セリアス………… 」
「ミリアムよ、今度は、今度こそは、巫子を頼む。
騎士長の館に赤い髪の炎の巫子がいる。
彼を、今度こそ、彼を頼む。」
セリアスが、振り向きもせずそう言って、シールーンの懐に抱かれ、彼女の水の中に入って行く。
『 汝、勇敢な男よ、お主ならば力になろう。 』
そう言い残し、シールーンの姿は一息に水になって消えた。
無数に飛んでいた光もいつの間にか消え、後には静かに流れる小川が普段の流れを見せている。
「ば、馬鹿な! セ、セリアス!! 」
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