赤い髪のリリス 戦いの風

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26、水の国の悪霊憑き

第300話 魔物の依り代

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イルファがサリサリと、砂の地面に円陣を書いて行く。
変わった文字の羅列られつに、リリスが興味深そうにイルファのあとを追う。
じんを書くのは、場を強固に固定する補助になるらしい。

顔だけはいい巫子がほんとに顔だけの役立たずと言われて、2人でごめんなさいと謝った。
それでもまあ、腐っても巫子だし。
とか言うので、ゴウカが次第に怒りだしたのだけれど、彼女によればやはりこに保護するのにも、限界があるのだろう。
イルファはとにかく水が濁るにごるのだけは回避したいらしい。

顔を上げれば、水泡の結界の中では水草の布団の上でカレンが苦しそうにもがいている。
立ち止まって、彼の様子をじっと見た。
目を閉じて、彼の中のうごめく気配を探る。
そうしていると、そっと背後からゴウカが囁いたささやいた

「赤様、私がおります。
払いに手が足りぬ時は、私が封印致しますので、お心病むこと無く思うことをなされませ。」

「うふふ、ゴウカ様はお優しい。
手が足りぬでは無く、失敗とおっしゃって下さいな。

そうですね、地下のあの魔物と同じ気配を感じます。
これはあれの残滓ざんしのようなものでしょうか。
彼は呪いを身体に仕込まれてしまったのでしょう……しかし、そこが不可思議です。
あんな恐ろしい物の一片でも身体に入れられて、彼は生きているのですから不思議な物です。
一体どこでそんな目に遭ったのでしょうか……
と、
それは置いて、今、生きていられた理由として考えられることは、依り代を介して毒が薄まったと考えるのが自然ですね。」

「依り代?ですか」

「それです、彼は城にお勤めだったという事ですから、城のどこかでこのような目に遭われたのでしょう。
王子のお側でそう言う目に遭われたとしたら、王子の身がとても心配です。」


「ううう…… ううううう…… 」


突然、カレンがけわしい顔を向ける。
リリスが顔を向けると、牙を生やした口が開いた。


「王子…… なので…… ううっっ、 ぐっ 王子なのです!

王子がっ! あっ、くっっぐうっ、 兵を、 こっ ろし… てっ…… 」


声も上げず、リリスがただ、ただ目を見開く。

大きく息を吸い、静かに細く吐いた。
目を細め、カレンにじっと見入る。

なにか、リリスの気配が変わったような気がして、ゴウカが戸惑いながら震える両手を差し伸べた。

「赤様…… 」

「ゴウカ様、城下の森でのこと、皆様あまり詳しくおっしゃっていませんでしたね。
色々思うことがあるのでしょうかと思っていましたけれど、追って来られた中に、亡くなった方が混ざっていたことはお聞きしておりませんでしたが? 」

「そ…… それは……… 」

あの、森の中の戦いで、グレンが死んだ兵を狭間の獣に食わせたことは話していない。
あとの2人はリリスの体力の回復を待つつもりで、ゴウカが封印して森の結界で眠っている。

死んだ兵を食わせたなどと、彼にはとても…… 話せなかった。

不興を買う事は目に見えている。
彼は人を大切にする優しい人間、まだ考え方が子供なのだ。
あのギリギリの状況の中、自分たちに兵を殺した嫌疑がかかると、リリス自身に汚点を残す。
それは神官の仕事であり、たとえ彼の理解を得られなくてもやらねばならぬ事だ。
しかし、リリスがそれを理解してくれるだろうか。

昔、リリサレーン様は、見たくないとおっしゃった。
だから、グレンを供にせずホムラをお連れになるようになったのだ。

見たくないとは、やらせとう無いと同じ事だと。

あなたは…… どうおっしゃるのだろうか。
赤様…… ああ…… 我らをお嫌いになってしまわれるのだろうか?

緊張するゴウカの前で、リリスがふううっと小さく細く、ため息をついた。

「いえ、あの時我らに余裕は無かった。
動くことも出来なかった私が、あなた様に何を言えましょう。
でも、後ほど何があったかは教えて頂きとうございます。
良きことばかりで無いことはわかっております。

ただ、死者をも動かす力がある事は、考えねばなりません。
なにか、正体が定まらない。
ルーク様は、何かご存じなのだろうか… 」

スッと、
横からシャラナが顔を出した。

「良き方向に頭は回さねば、答えは遠くなるわ。
この件は、一仕事終えたあとに。ね?
今は目の前のことに集中するのよ。たとえ役立たずでもね。」

シャラナと顔を見合わせ、クスッと笑う。
リリスは大きくうなずいて、ちょうど陣を書き終えたイルファの元に歩み寄った。

「さ、顔だけの、やるわよ。」

「イルファ、俺はいいけどさ、リリはリリって呼ばなきゃ神官がそろそろ怒り出すぞ。
それに、リリの眷族は封印されたままなんだ。リリのせいじゃない。」

イネスに言われて、イルファがひょいと肩を上げる。

「あら、あたしリリのことはリリって呼ぶわよ?」

「は?  こっ… この… 」

つまり、顔だけは自分のことなのか。イネスがグーをプルプル震わせた。

「お二人とも仲がよろしいのですね。
リリスはうらやましいです。」

「「   はああぁぁぁっ???  」」

思わぬ言葉に、二人が燃えそうに赤い顔で口をポカンと開ける。
こんなに仲が悪いところを見せているのに、リリスは時に鈍感だ。
いや、ほんとに仲が悪いかは別として。

「よし、行くぞイルファ!」

「言われなくてもやるわよ!みんな陣の内に入って、文字消したら払うわよ!」

言われてリリスにイネス、そしてゴウカにシャラナが内に入った。

「あの、私はどうしましょう。」

セリアスが戸惑いがちにたずねると、シャラナがサッと手を伸ばす。

「行きましょう!」

セリアスが、大きくうなずいて陣の内に入る。
イルファがうなずき、皆から少し離れると、大きく深呼吸してバッと両手を前に広げた。
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