赤い髪のリリス 戦いの風

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2,アトラーナ

7、王に謁見する

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王はまだ姿が見えず、横に並ぶ貴族や兵と、ただ玉座だけが一行を見下ろしている。
ザレルが先頭に膝をつき、その後ろにリリスが床に伏して頭を下げる。

リリスの胸が高まり、不安と交差する。
父親が王だと聞いてからも、一度も会ったことがない。
たとえ冷たい顔をされても、それは仕方のないことだ。覚悟を決めておかなければ。

「王のお越しでございます!」

どこからか声が上がり、皆が一斉に頭を下げた。
床にひれ伏すリリスの耳に、衣擦れの音と共に重い足音が響き、やがて玉座へ座る音が届く。
しかし初めて対峙した父親の顔を見る勇気が出ない。
手が震え、じっと床を見つめていると、突然王の側近がリリスの頭にバサリと布をかけた。

「ザレル、何用か。」

「こちらは風の魔導師リリスでございます。
どうか王子のおそばにお仕えしますことをお許し下さい。」

「ふむ」

久しぶりに聞く王の声は、どこか生気が無く張りがない。
荒い息を漏らし、病に冒されているのかと訝しく思い顔を上げかけると、王が不機嫌そうにドンッと王笏で床を鳴らした。

「呪われたその姿、気味の悪い物を見せられ不愉快きわまりない。
ザレルよ、これを王子のそばにおくのは気が進まぬ。何が望みだ。」

「このリリスは、王子のために仕える所存。
魔導では右に出る者のない魔導師として、きっと役に立ちましょう。」

「何故役に立つと思うのか。」

「はい、隣国のトランとの折衝には、これ以上の味方はありますまい。
隣国には正体のしれぬ魔導師が、常に王や王子のそばに仕えているとか。
惑わされぬ為にも、このリリスはきっと王子のお力になりましょう。」

「よい。だがこの、下賤な者をこれ以上置いてなんとする。
ますますうわさに火を付けよう。ベスレムより生まれ出たこの奇妙なうわさ、不愉快きわまりない。
今こそそれを断ち切る良い機会ではないか。

兵よ!この者の首をはねよ。」

兵がザッと前に出る。
突然の展開にリリスが小さくなり、恐怖でギュッと目をつむった。

「お待ちを!」


ザレルが立ち上がり、リリスの前に出た。

「このアトラーナの危機を乗り切ってこそ、王子の王として力量を計られましょう。
ラグンベルク公に認めて頂くためにも、何よりアトラーナのためにも!
それには魔導師の力が必要なのです。」

「魔導師は他にもおるではないか。何故お前はその者に固執する?
まさかお前までキアナルーサを裏切ると……」

ザレルがカッと目を見開き、地響きを上げ一歩踏みだした。

ドーンッ!


その気合いに気圧され、まわりの貴族達が小さく悲鳴を上げ、思わず身を引く。

「王よ!我が眼、ご覧下され!
この眼に曇りが見えるとおっしゃるならば、この場で取り出してご覧に入れようぞ!」

吼えるようなその言葉に、王がガクガクとうなずいた。

「わ、わかった、お前の好きにするがよい。」

ザッと一歩下がり、許しを得るようにまたザレルが頭を垂れる。
王が大きなため息をつき、玉座に身をもたげた。

「ふう、驚かせるな。まったく、狂獣ザレルには敵わぬ。
だが、その魔導師が少しでも怪しきそぶり見せたなら、即首をはねる。良いな。」

「よしなに。良いなリリスよ、お前も心せよ。」

「はい、この身も心も、王子のため一つに捧げて参ります。」

リリスが布をかけた頭を下げる。
王が冷たく見下ろし、そして立ち上がった。

「よい、城内でその布はずすことを許す。
だが、伏せっておる后の前にその呪われた姿を見せることは許さぬ。よいな。」

驚いて、側近が王の前に出た。

「王よ!ですが、あまりにもこの者の姿は不吉です!
このような時に、なにか悪いことを呼ぶのではありませんか?」

不安に側近達がざわめき、ヒソヒソとささやき合う。
王がそれを一掃するように、大きく手を振った。

「凶事を呼ぶなら殺せ!殺されるのがイヤなら凶事さえその魔導で跳ね返して見せよ!
キアナルーサこそ次の王、その命をかけて守るのだ。」

「はい、この命をかけて。」

リリスが額を床にすりつけ、そして顔を上げた。

「あ……」

布がスルリと落ち、ふと、王と目が合い見つめ合う。
一瞬の静粛が2人の間に生まれ、そして無言で目を逸らし王はそのまま奥へと消えて行く。

初めて、リリスは本当の、あれほどこい願った父の顔を見た。
自分を殺しても、弟であるキアナルーサを王にしようとする父に。

似ている?いいや、似てはいない気がする。

いや、違う。
私には、この世に血の繋がった者などいない。
師である母上だけが、私の親なのだ。

胸の中で何度も自分に言い聞かせる。
胸が、えぐられるようにズキズキと痛んだ。
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