赤い髪のリリス 戦いの風

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2,アトラーナ

8、噂の根源

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「王子の元へ行こう。」

「え……?ええ。」

ザレルに促され、奥へと案内される。
リリスが終始無言で、うつむき何か考えている様子にザレルがポンと肩に手を置いた。

「つらいか?」

「いいえ、この姿をさらすことをお許しになったのは、意外でした。」

「まあ、そのうち皆慣れるだろう。気にするな。」

「そうですね、あの無口なザレルもこれほど話されるようになられたのですから、私も変わらなくてはなりません。」

クスリと微笑んで、ようやく顔を上げる。
ザレルがキョトンとしたあと、ニヤリと笑ってゴンと頭を小突いた。

「いた!」

「口の悪さは相変わらずだ。」

ザレルはセフィーリアと暮らすようになって、ずいぶん性格が柔らかくなったように思える。
リリスも少し、それが嬉しい。

「で、あれから母上様はお帰りになられましたか?」

「まだだ。時々風と共に現れるが、隣国との境が気になるらしい。
配下の者からレナントにいると伝え聞いた。」

「そう、ですか。」

国を守護する風の精霊女王である母セフィーリアは、早くに隣国の気配を察知して国境付近へ向かった。
死ぬことはなくても、やはり心配だ。

「リリス!」

突然声が響き、奥からキアナルーサが駆け寄ってきた。

「王子!お久しゅうございます。」

リリスが立ち止まり、胸に手を当て頭を下げる。
キアナルーサはしばらく見ない間にずいぶん背が伸びて、ぽっちゃりしていた以前よりも少し痩せ、男らしくなっていた。

「良く来てくれた!さあ、僕の部屋に来るがいい。」

キアンの思っていたより元気そうな様子に、リリスも微笑んでうなずく。
駆け寄ってきたキアンは以前よりも更にリリスより高くなって、少し見上げねばならないほどだ。
そばかすも薄くなり身体に筋肉も付いて、しばらく見ぬ間に立派になられたと嬉しくなった。

「なんとご立派になられて。王子もお健やかな様子でリリスも嬉しゅうございます。」

「リリスは相変わらずガリガリの痩せたチビだな、同じ年とは思えぬ。
もっと食事の量を食うが良い、お前は動くわりに食が細すぎる。」

「申し訳ございません。」

謝るリリスも変わらない。
キアンはホッと息をつき、部屋へと招き入れた。

「では、お茶菓子など準備して参ります。」

キアンの背後にピッタリと歩く、同年代の少年が頭を下げる。
彼は身の回りの世話をする従者なのだろう。
身なりも綺麗で、所作が生まれの良さを思わせる。

「ああ、ゼブラ。美味しいお茶を頼むぞ。大事な友人なのだ。ザレルは目障りだ、下がって良い。」

ヤレヤレと苦笑して、ザレルが頭を下げ足を止め下がっていく。
しかし部屋に入ったとたん、キアンが突然リリスに抱きついてきた。

「リリス!」

「ど、どうなさいました?」

「どうしよう!どうしよう!また叔父上が僕を失脚させようとしているんだ!
ドラゴンたちも、僕を見放そうとしてる。僕は、きっと王になれない。」

ボロボロ涙を流し、鼻を赤くして押し殺すように泣き始めてしまった。
やっぱり、そう簡単に内面は変わらない。
なんだかホッとしてリリスは微笑んだ。

「王子、そのようなこと……聞けば国の大事の時、公が国を乱すようなことをなさるはずありませぬ。」

リリスがそうっとキアンの背中を撫でる。

「でも、叔父上の使者が来た時言ったんだ。フレアゴートが重大な事を告げた。
それが真実なら王位継承者は別にいると。」

『赤き髪の少年こそ真実、次代の王だとフレア様は言っておられる』

酒の席で思わずこぼした使者の言葉を、遮るように王が笑い飛ばし、そして翌日早々に追い返してしまった。
しかしそれはドラゴンの言葉のこと、普通なら真実と疑わない。
キアンもそうと知っているだけに、大きくうろたえてしまった。

そしてそれから、皆の心には大きなわだかまりが生まれてしまったのだ。
貴族達はざわめき、叔父の宰相は火消しに回っているらしい。
声を大きくした貴族は、粛清され田舎に飛ばされたとも聞いた。
このまま治まってくれればと、願うことしかできない現状が不安で仕方なかった。



そっと、部屋から離れた廊下の突き当たり、階段の影からそうっと少女が耳を立てる。
彼女はキアンより3つ下の妹だ。
王位継承権は男性のみのアトラーナであるが、血族での婚姻を繰り返した為か死産も多く、男子に恵まれないのが最大の悩みであった。

「ミレーニア様、このようなところで立ち聞きですか?」

「きゃ!」

部屋に置いてきたはずの侍女が、後ろで息を切らして目をつり上げている。

「まったく、コッソリ抜け出されるなんて、ルールーの首をお切りになさるおつもりですか?」

「ほら、この兄上以外の男の子の声が、うわさの魔導師でしょう?
なんでも不吉な姿をしているとか、見てみたいわ。」

「なりません、戻りましょう。見ただけでどんな災いが降りかかるか。
考えただけで恐ろしい。」

「ルールーは恐がりね。魔物の姿の人間なんて、どんなに醜いのか見るのも楽しみだわ。
絵本のリリサレーンのように、きっと長い鼻が曲がって口が耳まで裂けているのだわ。
兄上も物好きよね。」

「まったく、物好きでございますな。」

また背後で声がして、ミレーニアが飛び上がった。

「なんだ、ルーク?お前も兄上に仕えるの?」

「ま、それはご依頼があれば。
私は魔道師の塔の長ゲール様から、あの赤い髪の魔導師を連れてくるよう言付かってきましたのでね。」

「なんだ、お前直々に?下男はどうしたの?ものぐさルークが今日はよう働くこと。」

ルークが、この物怖じしない王女にクスリと笑った。王家で飛び抜けて明るい王女だ。
ルークの目には、彼女は美しく穏やかに輝いている。

「皆気味悪がって来たがらないのですよ。顔色を変えてうなずく彼らが可哀想でね。」

「ウソばっかり。面白いからでしょう?」

「フフフ……」

まったくと言いたそうに笑い、キアンの部屋へと向かう。
ワクワクして隠れて待つ王女が様子をうかがっていると、やがてキアンに見送られルークのあとを赤い髪の少年が部屋を出てきた。
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