赤い髪のリリス 戦いの風

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3、国境の町レナントへ

24、言葉の応酬

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パニック状態で命からがら逃げ出す兵達が、赤く輝くリリスを呆然と見つめその力に震え上がる。


「魔女だ、あれは魔女の再来だ。」


1人がポツンとつぶやく。
恐怖に震える1人が、たまらず剣を抜いた。

「あれこそあの魔物の正体だ!」

「そうだ!殺してしまおう、今の内に。」

シンとした一同を奮い立たせるように、誰かがうなずいてこたえた。

「そうだ、殺そう。国のために。」
「見ろ!血だ!傷ついているぞ。」
「とどめを刺そう!」

「そうだ、今なら!」

「殺せ!」

「殺そう!」

そして次々と剣を抜いた。

「しかし……」

ガーラントがその様子に目を剥き、赤く輝くリリスを見て剣に手を携える。

自分はどうする?
昨夜の彼の言葉。

あれは……
あれは…………

殺してはならない、彼は大きな人間だ。
そう感じなかったか?

上空のリリスは輝きが消え、風に抱かれるように落ちて森の中にその姿を消してゆく。

「探せ!」
「おお!」

声を上げ、一斉にリリスの元に剣を抜き兵達が走り始めた。

「ま、待て!あれは我々を救ってくれたではないか!」

振り返る者はなく、一行を率いていた貴族の騎士も食われてしまったのかすでにいない。
ガーラントはどうしようもなく、ただ彼を捜して自分も走り始めた。



「ピルル……リリス!リリス!」

彼が大切にしていた黒こげの青いヒモを足に掴み、ヨーコが彼を捜して飛び回る。

「確か、この辺だと思ったけど。」

そう思い見回した先に、地に横たわる彼の血に染まる服が見えた。

「いた!見つけた!」

飛んで行き、そうっと覗き込む。

「リリス……」

ツンツンと頰をつついてみた。
息をしている、が、意識がない。

「リリス、誰か呼んでくるから待ってて!」

リリスのヒモを目印に、探している兵を1人導いた。

こっちよ、こっち、急いで!

話すわけに行かないのはもどかしい。
だが、兵はリリスを見つけるとすぐに声を上げ、……しかしその言葉にヨーコは驚いた。

「魔女を見つけたぞ!」

片手の剣の切っ先をリリスの胸元に当て、大きく振り上げる。

「や、やめてー!!」

ヨーコが悲鳴を上げながらリリスの胸に降り立つ。
狂気の顔で、髭の騎士が満身の力を込めリリスの胸に剣を振り下ろした。

ドンッ!!

ヨーコが死を覚悟した刹那、突然どこからか剣が飛んできて横の木にドンと刺さった。

「ピーーッ!」

ガインッ!「うおっ?!」

振り下ろされた剣が、木に刺さった剣に弾かれ火花が散り、騎士が反動で後ろによろける。
彼は驚いた様子で、辺りを見回した。

「な!なに?!」

「待たれよ!その少年なくして無事に城へは行き着くまいぞ!」

ガーラントが駆け寄り、木に刺さる剣を抜いてリリスの前に立つ。

「邪魔をしたのは貴様か、ガーラント殿!
城は目の前だ、しかし半数がすでに無い。この有様に何を言う。
この惨状だからこそ、今殺せばセフィーリア殿にも言い訳も立とう。」

「この子がいなければ、今ごろ我らも生きてはいない。
ギルバ殿、貴方もわかっているはずだ、我々騎士には何も抗う術がなかった。
今我らがここにあるのは、この子の術が有ってこそ。」

バラバラと他の騎士や戦士も集まってくる。そして2人を次第に取り巻いた。

「こいつがいたからこそ凶事を呼んだのだ!ガーラント殿、貴様も見たであろう!あの化け物を!」

「凶事ではない、あれは敵の奇襲だ。髪や眼の色が違うだけで何を呼ぶと言うのか?
たわけたことを……冷静になられよ!」

「ぬう……」

一同が剣を手に、じりじりと寄ってくる。
ガーラントは剣を降ろしたまま、冷や汗を全身に感じながらすでに腹を決めていた。

「お主、昨夜はこの子を殺そうとしていたではないか?!わしは見たぞ。」

ギクリ、ガーラントの顔色が変わった。

「それは故あってのこと。
しかし、その修羅場で私はこの子の器を見た。
私は騎士だ、命には従わねばならぬ。だが、その命をたがえても行く先を見たいと思わせる、そんな人としての器の太さをこの子に感じ剣を引いたのだ。」

「馬鹿な、あのうわさを知っておろう。だからこそ殺せとお主も命を受けたのではないのか?
身分違いがうわさに乗じてどんな野望を持っているか知れんのだぞ。だまされるな!」

「承知している。だが、この乱世の入り口にあるアトラーナには必要な魔導師でもあるのだ。わかってくれ。」

「魔導師など、こんな指輪も持たぬ者、代わりはいくらでも有るではないか!
まして魔導師とは名ばかりのたかが奴隷1人、消耗品でしかないのだぞ。何故ここまで庇い立てられる。」

「戦って生き残ることの出来る魔導師が、どれほどいると思う。
見たであろう、あの敵の魔導師は異質だ。
この子は良く戦った。もうすでにただの召使いなどではない、一人前の魔導師なのだ。
我らの命の恩人ではないか!」

一同が息を飲み、次第に騎士達が剣を降ろすとサヤにもどした。
ギルバは、皆の様子に戸惑い、慌てて近くの騎士ににじり寄る。

「何故剣を降ろすのだ?!」

「見よ、この短剣を残し我が友も死んだ。だが、殺したのはその少年ではない。
その子がいなければ、私もすでにここにはいないだろう。
私が真に剣を向ける相手は、その少年ではない。危うく違えるところだった。貴方もまことを見定められるがよい。」

静かに語ると相手の騎士は背を向ける。
ぞろぞろと他の者も疲れたように馬や道を探し歩き始め、ギルバもガクリと剣を降ろした。
そしてその目がキッとリリスに向く。

「しかしその姿、アトラーナにはそぐわぬのだ!」

一息に剣を振り上げ迫るその鼻先に、ガーラントが切っ先を向ける。
その顔には厳しく堅持な意志が見て取れ、グッと詰まったギルバはとうとう剣を降ろした。

「お主の主は誰だ!主を思うならば、たとえうわさでも王位継承を乱すこの少年の命をなんとする。
俺が命を受けたなら、確実に命を取って見せようぞ。」

苦虫をかみつぶすようなその言葉を吐くこの騎士は、それだけ王に忠誠心が高いのだ。
ガーラントは息を吐き剣を引いて納めると、リリスの血に染まった上着を緩め、身体を抱き上げた。

「私の主は王族以外無い。
うわさに揺らぐなど、それこそ王子に失礼であろう。王位継承者は他にない。
私は命を受ける以前に、ザレル騎士長からこの子をくれぐれもと頼まれている。
あの方が息子にしたいとまで語られる子だ。私もうかつであった。」

「命令は……王ではないのか……」

ガーラントは問いに無言で歩き出す。

「ガーラント殿!」

「王や王妃には少しの揺らぎもない。うわさに揺らぐのは滑稽こっけいなことだ。
だが、一部の身分の高い方にも揺らぎが見えるのは残念と言えよう。
まあ、とりあえずは人選を誤られたのが幸いしたか。あの方にすれば、貴方に頼んだが正解だったのだろうな。」

薄く笑い、ガーラントが近くにいた馬を捕まえ乗り込む。
ヨーコがその肩に留まり、耳元に話しかけた。

「ね、助けてくれて、ありがとう」
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