赤い髪のリリス 戦いの風

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8、隣国の脅威

53、セフィーリアを呼ぶ声

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「終わったのか?」

「もうしばらくお待ちを。気を整えねば逆効果です。」

小さく唱えながら丁寧にリリスの身体を撫で、しばらくしてようやく息をつく。

「これでよい。地の精霊よ、感謝します。」

イネスが葉を散らした木に平伏した。

サファイアが渡した懐紙で、イネスが地面に刺した剣を拭いてサヤにもどし、静かに寝息を立てるリリスの頬を指で撫でた。

「良かった、間に合って良かった。本当に、死んでしまう所だったぞ。」

リリスの身体は生気を取り戻し、呼吸が落ち着いて静かに寝息を立てている。
イネスが振り向き、セフィーリアに一礼した。

「終わりました。これでしばらく眠れば元に戻るでしょう。」

「おお、おお、やはりお前に来てもろうて良かった。礼を言うぞ、イネスよ。」

セフィーリアがリリスを抱き上げ、ギュッと抱きしめる。

「本当に、死んでしまうかと思うたぞ。心配させおって。」

「私が部屋へお連れします。」
ガーラントが横から声をかける。

「頼むぞ、そっとな。」

セフィーリアからリリスを受け取った時、彼女がハッと空を見上げた。

「どうか?」
「いや……ザレルが、わしを呼んでおる。」
「何かあったのでしょうか?」

セフィーリアが、眉をひそめて唇をかむ。

「うぬ、これは……いかん。
まったく、何故わしの子供達は無理をするのじゃ。」

どうしたものか、空を見上げた。

子供達……
確か、ザレル殿には娘がいたはず……

ガーラントが眠るリリスを見て、セフィーリアに目を移した。

「ここは我らにお任せを。どうぞ本城にお戻り下さい。お嬢様の危機なれば、それは人間ではどうしようもない事でありましょう。」

「ならぬ、それは敵の魔導師の思うつぼであろう。
近く隣国から使者が来る。
魔導に対して強固であらねば、この国に明日はない。そのための精霊王じゃ。」

「しかし……では他の精霊王殿は?」

「むう……」

だが、地のヴァシュラムは日本にいるし、水のシールーンは人嫌い、火のフレアゴートは来るはずも無い。

「セフィーリア様!我ら地の巫子にお任せを!
力が足りぬ時は、無理矢理でもヴァシュラム様を呼び寄せまする!」

イネスが多少イラついた口調でグッと拳を握った。
気が短いだけに、さっさと行かない風のドラゴン相手にイライラする。
セフィーリアが、そんなイネスに苦笑して一つ大きなため息を漏らした。

「元気でよいのう、イネスよ。お主の余った元気をリーリに分けておくれ。
この子は時々我を捨てて無理をする。
イネスよ、このレナントと私のリーリをお主に託そう。
シールーンにも、私から手を貸すよう告げていく。用が済んだらすぐに戻るゆえ、頼んだぞ。
では、わらわはガルシアに一言告げて本城に戻るとしよう。」

「は!お任せを!」
イネスが頭を下げる。

セフィーリアはリリスの頬にキスをして、風を巻き白い精霊の姿で空に飛び立つと、ガルシアを捜して外から城を飛び回りやがて消えていった。

「では、リリス殿は部屋へお連れします。」

「ああ、たのむぞ。」

頭を下げるガーラントにイネスがうなずいて振り返り、一同を見渡す。

「確か、ここには魔導師グロスがいたと記憶するが。」

「はい、先ほど確認しましたが、もう一人の魔導師の治療を行っているようです。」

「治療?まだ弱っている者がいるのか?」

「は、魔物に捕らわれていたとか。」

「魔物?」

「はい、リリス殿が聖なる光の矢でお救いになったとか。それは大変な……」

イネスがわなわな手を握りしめる。

「あ、い、つ、は~~~馬鹿かっ!」

ドカッと横の壁をゲンコツで殴った。

「いっってええっ!!」

「壁は固い物と決まっております。」
サファイアが頭を下げる。

「わかってる!
あの馬鹿、あんなけがれを身につけて聖なる力を呼び出すなんて、ほんとにバカッ!
あんな物ずっと身につけてたら、回復できないのは当たり前だ!
ええい、兄様が来る前に一度公へ挨拶に行くぞ。
それからもう一人の魔導師の様子を見に行く。」

「は」

振り向き、近くにいる若い騎士のミランをビシッと指さす。

「おい!ガルシア殿の元に案内せよ!」

いきなり指さされたミランはあたふたと周りを見回すが、周りの騎士はひょいと小さく肩を上げて首を振る。

「あの、御館様をお探しして、お迎えに参りますのでお待ちを……」

「俺は待つのが嫌いなんだ。さっさと適当な場所に連れて行け!」

「ええっ!そう言われましても……あのう。」

煮え切らないミランに、イライラしてイネスがずかずか近づいてゆく。
そして腕を掴み、右に回廊を歩き始めた。

「いいから歩け、歩けばどこかで当たる!」

「し、しかし、あの……」

「貴様は、あのあのとうるさい!はっきり物を言え!」

「では申します。御館様のお住まいと執務は左の建物でございます。」

ピタリとイネスの足が止まる。
怒られるかとビクビクしているミランに、くるりと振り向きにっこり笑った。

「わかってる、俺はお前を試したんだ。
さあ、案内してくれ。」

「はい、承知いたしました。」

ミランがホッとして先を、城内の案内もかねて歩きだす。
あとを行くイネスに、サファイアが声をかけた。

「大人になられました。方向音痴は相変わらずですが。」

「お前はいつも一言多い。」

「は、ありがとうございます。」

「ほめてない!」

ビクッとミランの肩が震える。
しかし、振り返る勇気はなかった。
清々しい見た目と性格のギャップがこれだけ大きいなんて、なんだかよくわからない人で気が重い。
早く離れたい。

「おい、ここは何の部屋だ。」

「はい?」

振り向くと、一つドアを開けてのぞいている。
そして返事も待たずに、好奇心満々でまた次のドアを開けて中をのぞきはじめた。

「ああ……」

なんて変わった人だろう……


不意に捕まったことを後悔するミランは、以後出来るだけ離れていようと誓うのだった。
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