赤い髪のリリス 戦いの風

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9、決意と暴露と

68、王の器

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まさか、本当にフェリアの家の使用人が正当な世継ぎだと?
馬鹿な、そんなことあり得ない。

レスラカーンが愕然と杖を握りしめた。

王がゆっくりと口を開く。
キアンが、すがるような目で父を見つめた。

「おまえが生まれたとき、確かにもう一人生まれてきた。
だが、それは死産であったのだ。
精霊達の夢見がちの話など、聞かずとも良い。」

「でも父上、それではリリ……あれの存在を無かった物にすると?
あれは僕に仕えると言ってくれます。
でも、それでよいのでしょうか?
ベスレムの叔父上が私でなくあれを押しているのが、とても不安なのです。
すでにうわさが城外の者の耳にも入っております。
たとえあれの髪や目の色がどうだろうと、あれの強さを皆が知れば、きっと僕なんか……」

キアンの声が詰まり、涙が流れた。

きっと父には叱責されるだろうと、覚悟の上で胸のわだかまりを吐き出した。
世継ぎとして育てられ、世継ぎとして覚悟するべき時期に来て、この弱気。
自分でも、なんて覇気がない男だろうと嫌になる。

「キアナルーサよ。
ラグンベルクが言うことに、耳を貸すことはない。
たとえうわさがどうあろうと、おまえは世継ぎなのだ。
わしには、おまえの他に息子はおらぬ。
あの魔導師は一切関係ない、ラグンベルクは間違ったことを言うておる。」

「でも、でもリリスは……」

「あれは騎士長の使用人。
魔導師といえど教養もなく卑しい身分の者。
杖さえ持っていないのだ。
下級の魔導師でしか無いが、星占で出たから仕方なく許しただけだ。
あのように身分の低い者が、おまえの従者など本当は反対なのだ。
あのような者、わしとは何の関わりもない。
だからこそ、騎士長の希望を受け入れ登城も許可したのだ。
お前もそれを望んだのであろう?
おまえまでうわさに惑わされるでない。
息子よ、鏡を見よ。おまえと似ても似つかぬあの使用人を、双子と言われてうなずくか?」

「それは……私も不思議で……」

キアンが視線を泳がせ指をかむ。
確かにそれは、フレアゴートから告げられたときも思った。

「あの使用人は親も分からぬ拾い子、セフィーリアさえ親は知らぬ。
精霊どもの夢に振り回されるでない。
お前の大切な兄を、このわしがどこかにやるはずもないではないか。
おまえが正当なる世継ぎ、もっと自信を持て。」

「はい……」

それは、本当にリリスは自分の兄ではないと言うことだろうか。
でもアイやヨーコが言っていたように、確かにリリスはラグンベルク叔父の息子、ラクリスにもよく似ていると思う。
レスラにだって、目元が似ている。
だいたいそれを言うなら、僕の方が誰にも似ていないじゃないか……

精霊王達が嘘をつくことなど……

ありえない


脳裏にリリスのひざまずく姿が、裏表なく素直に微笑む顔が思い浮かぶ。
この事を聞いてから、キアンの心にはずっとさざ波が立っている。
それはそれを知ったところでも何も変わらない、自分が世継ぎであるという戸惑いと不安と。

そして……

大きな……とても大きなこの優越感。

それが、今では恥ずかしいほどに自分を責め、焦燥感をかきたてる。
王座が近づくごとに、この位置にいる不安感が大きくなる。
リリスがどう言おうと、あの時自分は事実をさらけ出し、正当な世継ぎの座を譲るべきではなかったのだろうか。
リリスが崖から飛び降りるのを見ても、あれが助かったと複雑な気持ちでホッとしても、僕は世継ぎである事を変えようとしなかった。

僕は……

僕は……王の器では………ない…………


父である王に、大きな声で叫びたい衝動に駆られた。
キアンが大きくため息をつき、前髪を掴む。
父はこれ以上、何を言ってもリリスの関わりを否定するだろう。
結局何も変わらず、解決することは無い。

「それとこの話、母にすることは禁じる。
リザリアに……后に心労をかけるでないぞ。」

やっぱり……口止めされる。
やっぱり……捨てたんだ。
もし、僕の髪が赤かったら、きっと僕が捨てられていた。

きっと…………
あいつのように毎日毎日、人の下で働かされて…………

僕は知ってる。
リリスの背中には、うっすらと沢山の傷跡が残ってた。
リリスは気付いてないようだけど、僕は何も聞けなかった。きっと叩かれて、叩かれて毎日働くんだ。

王子なのに!この国の世継ぎなのに!

胸に、何かしら恐怖を帯びた絶望感のような怒りがふつと沸いた。
親を見ながら、死んだことにされた子の気持ちは、どんなに絶望感に満ちていることだろう。
リリスは、どんな顔でこの城に来て父の顔を見ていたんだろう。

僕は、ただただ自分の不安感からザレルに相談して……
逃げるあいつを捕まえて、無理矢理連れてこさせたのに……



「わかりました。母上には申しません。
でも、僕は一人で生まれたのではないと、それはお認めになるのですね。」

急に険しい顔になった息子に、王が眉をひそめる。

「そうだ、だが生きて生まれたのはお前のみ。
二言はない、下がって良い。」

きっぱりと言われて、キアンがグッと拳をにぎり頭を下げた。
何も言い返せない自分が腹立たしい。
リリスも、そんな気持ちでこの城にいたんだろうか。

「わかりました、もうこの事は二度と申しません。では」

頭を下げ、きびすを返しドアに向かう。
どこか、両親との間に深い溝ができたような気分になった。

「キアナルーサよ。
そろそろレナントにやった使者も帰ってくる頃であろう。
援軍の被害状況など詳しく聞いて、落ち着いて対処せねばならぬ。
おまえは率先してこの一連の件には当たるように。分からぬ事などあったら、すぐにサラカーンへ相談せよ。よいな。」

「はい、そちらの件は叔父上に相談の上で決めるようにいたします。
では、失礼いたします。」

キアンが、ドアを開け父に一礼して部屋を出る。
なんの解決にもならなかったこの一時に、ただただ胸には空虚な何かが広がり涙がこぼれた。
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