赤い髪のリリス 戦いの風

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10、隣国からの使者

82、歓迎の宴

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その夜、ガルシアは宴を持って一行をもてなした。
酒を振る舞い、舞台では楽士の音楽に合わせ舞姫が踊る。
やがて舞が終わると、リリスがソロでフィーネを演奏し、喝采を浴びる。
リリスはできるだけ楽しい音楽で、この会見がうまくいくことを願っていた。

やはり、もしやと思っていたとおり、彼らはレナントに魔物の襲来があることを知らないらしい。
緊急に補修した庭や回廊を見て、驚いた様子で心配しているようだった。

「ガルシア殿、王はアトラーナ王が、何かお考えにお変わりがあるのではないかとご杞憂になっておいでです。
王は先代よりの二国の同盟関係に変わりなく、お互い繁栄あればとお望みなのですが。」

よく言う、こちらに一方的に攻撃しておきながら、白々しい。


周りのアトラーナ側の人間は誰しもそう心の中でつぶやき、冷めた気持ちで二人の話しに耳を傾ける。
一見楽しそうでありながら、どこか冷めた空気が漂う酒の席。
それでもここで何とか収まってくれればと、お互いの願いが気持ちを合わせていた。


リリスのフィーネの音楽が終わり、笛の音に合わせて今度は少女の舞が始まった。
薄衣を翻し軽やかに踊る少女が、ステップを踏むと手拍子が上がる。

リリスが呼ばれてフィーネを置き、ガルシアのグラスに酌をして傍らに控えた。
二人は何気ない談笑を装い、中身は危うい言葉を交わしている。
話に耳を傾けながら、ガルシアの肝の据わった様子に感心して聞き入った。

「王にお心変わりなど、なぜそうお感じになられたのかがこちらにはわからぬ。
こちらは王子の婚約を危ぶむ声がでていると聞いて、皆驚いているのだ。
トランと我が国は元々一つの国であったもの。
遠い血族であったのに、不幸にも和解するまではいさかいが絶えなかった。
こうして分かたれた二国間の繋がりを、互いの国の王子と王女の婚儀はいっそう深いものにするだろう。」

「我がトラン王は、大切になさる姫なれば慎重になっておいでです。
アトラーナの御世継ぎは、近年たいそうご立派になられたとお聞きしております。
婚儀は王の御懸念が去りましたら是非にと仰せでございます。」

「なぜ御懸念されているのか、それを知りたいな。」

ガルシアが、酒を一口飲んでゆったりと聞いてきた。
エルガルドが果物をかじり、しばらくかんで飲み込むと真顔になる。

「実は、国境を越えてトランに多くのアトラーナ兵が侵入していると報告が。
それに猟師が一人、ケガを負って伏せっているのですが、アトラーナ兵に追われたと言っております。
こちらも慎重に調査しておりますが、王はたいそうお嘆きです。」

「ふむ……」

ガルシアがアゴに手を置き首をひねる。
実はガルシア自身、その情報は聞いた事がある。
だが、砦の兵も厳格に調査した物のそう言う兵は見あたらなかったのだ。

「おかしいな。
その話、隣国からの商人に聞いて急ぎ砦の首長に調べさせたが、そのことは確認されなかった。
国境は、物の行き来のために人の出入りはあるだろう。
だが兵の行き来は許可無くできぬ。
しかも、そちらの砦もすぐそばにある。
我が兵が用もなく、また禁忌を犯してそちらの領地に許しも得ずに侵入するなどあり得ぬ。
捕らえられれば厳罰を負うだろう。そこまでして侵入してなんとする?」

「それは……こちらがお聞きしたい。
兵が勝手に……でなければ、上官の命令があっての事でありましょう?」

「なるほど。」

これはお互い平行線だな。
どちらも自分側に非がないと信じている。
これ以上何を言ってもと、相手も思っている事だろう。

「はてさて、困った物だ。
何を持ってすれば信じていただけるやら、このガルシアも頭が痛い。
平静の世にあって、わざわざ争いを呼ぶ事など、この国境の民が何とする?
まして国境の兵は、争いを防ぐための物。お互い重々承知のはず。」

「それは……わかっております。
ですから王も、真意を確かめるために私をお仕えになったのです。
元より戦いを望む者など、こちらにもおりません。」

「そうであれば良いのだがな……」

傍らで聞くリリスが、少女の舞を見つめながら、遠く思い浮かぶアトラーナの自然の美しさと町の人々の様子を思い出し目を閉じる。

普通に日々を送り、普通に日々を営み、普通の幸せをかみしめる。

誰も、戦いを望んでいない。
隣国の方も同じ思いだったのか……

目を開き、傍を見ればアトラーナとトランの人々が歓談している。
それこそ、本当に皆が望む姿。


ふ……と……


あの顔の無い魔導師の姿が思い出され、身震いした。


ならば、アレは何だ?
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