赤い髪のリリス 戦いの風

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10、隣国からの使者

81、使者エルガルド

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「トランよりの御使者、エルガルド卿がお越しでございます!」

広間に兵の声が響き渡り、両扉が開いて黒髪の男が歩み寄り胸に手を当て頭を下げる。
ガルシアが手を挙げ、リリスが演奏をやめて一礼し、傍らに身をひいた。
黒髪の男は隣国の貴族エルガルド。
年は30半ばだろうか。
背後に5人の部下を引き連れ、颯爽とガルシアの前に歩み片膝を付いた。

「トランより参りました、エルガルド・ゼナルディアと申します。
ご機嫌麗しく、今日の良き日にお会いできて光栄に存じます。
ガルシア様とは、……」

「2度目にお会いするな、ゼナルディア卿。
確か、叔母上の婚儀の時にお見かけしたと記憶するが。
叔母上はお元気だろうか?
再婚なさってから、一度もお会いしていないが。」

エルガルドが、驚いて目を見開いた。
婚儀があったのはすでに12年ほど前、彼は親戚の一人でしかなかったのだ。
父親の代わりに出席していたガルシアは、まだ小さな少年だった事を覚えている。

「なんと、覚えておいででございますか。
リデア夫人はたいそうお元気のご様子。
今の季節は仲良くご夫妻で狩りに出られるのを、楽しみにされているとお聞きしております。
大変な弓の使い手で、右に出る者は無いと。」

「そうか、快活な叔母上らしい事よ。
さて、今回はトラン王のご親書を携えていると聞いたが。
私は隣国との折衝を王より勅命で任されている。
よって、それはこちらでお預かりしたい。」

「は、しかし、トラン王よりはアトラーナ王のお考えを伺いたいとの言づてでございます。
できますれば、王より直接のお言葉をいただきたいのですが。」

「わかった、だが王は先日少々風邪を召されて、お会いするには適切な時期ではないとお考えだ。
こちらに一旦手紙を預かり早馬を走らせよとの連絡をいただいている。
使者殿にはこちらでお待ち願いたい。」

「なんと、それは一大事でございますな。」

「いや、心配には及ばぬほど軽い物。
もう快方に向かわれている。」

「そうでございますか。
承知いたしました、それではこちらで待たせていただきましょう。」

手紙を指示されたミランが受け取り、ガルシアに渡す。
ガルシアは受け取ると大きくうなずき、手紙を側近のクリスに預けた。

「確かに受け取った。
お疲れであろう。ゆっくり休まれよ、部屋も用意させている。」

「は、ではお言葉に甘えさせていただきます。」

「大儀であった。」

まずは、使者の足止めは叶った。
しかし彼らを無事返すまでがレナントの戦い。
相手は思った以上に穏やかな騎士ではあるが、些細な事が大きく本国へ伝えられれば、火種になる事は必須。
気を緩めてはいけないのだ。


ガルシアが執務室に戻り、長老達の前でトラン王の手紙の封を切る。
トラン王の手紙からは、同盟に対する王の心変わりの有無を穏やかに問うてきていた。
こちらからは何も接触していないだけに、攻撃を受けているこちらにしてみれば寝耳に水だ。
かえってなぜこちらに攻撃してくるのかと問いたくなる。

ガルシアは本城の王にレナント一の早さを誇るグルクを飛ばし、トラン王の信書にガルシアから一筆添えて返答の信書をお願いする書簡を送った。
レナントで一行を止めおくのは本城からの通達でもある。
もしこちらに手落ちがあっても、弁解の逃げ道を作るためだ。

つまり、レナントはいざという時の捨てゴマとなる覚悟を必要とされている。
それだけの緊張感から、代々レナントの領主は短命だ。
だが、ガルシアはその中でもその緊張を楽しんでるような様子が異彩を放っている。
二代を見てきた長老も、最初はひどく危険を感じて厳しく意見していた。
しかし、それもよい思い出となっている。

「王はよい返事を書かれるでありましょうか?」

心配そうに、護衛を務める騎士のミランがつぶやくように言った。

「さあな、あの気弱な王子を目の前にして、いくさだ戦いだと息巻く元気は、あの爺さんにはないだろうよ。」

「ま!また王に対してそのような!」

カアッと長老が顔を真っ赤にする。
王を爺さん呼ばわりするなど、ガルシア以外にないだろう。
この口の悪さ、一体誰に似たのか気が重い。
ガルシアは立ち上がり、笑って長老の肩を叩いた。

「年寄りがあまりカッカなさると、命を縮めますぞ。」

「どなたのせいだとお思いか?ガルシア様!」

「ひよっこが道を外さぬよう、よく見ていて下され長老殿。
さて、しばし休んで着替えるとしよう。」

笑いながら自室へ着替えに向かう。
長老が、苦笑してホッと息をついた。
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