100 / 303
11、アトラーナの秘め事
第99話 刃(やいば)の巫子
しおりを挟む
結界の中、向かってくるメイスをサファイアが兵達と共に牽制する。
イネスは右手に意識を集中させながら、メイスを睨め付けた。
唇を舐め、心を集中する。
手を、指先まできれいにそろえ、そこに気を集中した。
ゆっくりとその手を振りかぶる。
イネスの身体が穏やかに輝く。
シュッ
空を切るように、イネスがその手をななめに振り下ろした。
ボッ!
ザンッ!
音を立てて羽根の炎が破断する。
空気を切り裂き、背後の木までもが、音も無く切れてずれ落ち、一瞬空まで引き裂いたようで雲まで破断した。
ザザザ……ドドン!!
木が落ち、羽を切られたことにメイスが驚愕して振り向いた。
「ギッ?!」
離れた炎の羽根に、再度手を振り上げるとそれは二つに裂けて千々に散って行く。
その、あまりにすさまじい切れ味に、兵達が騒然とする。
息を飲み、イネスの回りにいた兵が思わず後ずさった。
イネスが目を閉じうなだれる。
わかっている、自分は異質なのだ。
わかっている、この力だけは、リリにさえ知られることが恐ろしかった。
刃(やいば)の巫子……それがイネスの二つ名だ。
だが、それを人が呼ぶことは許さなかった。
俺は……僕は……この敬われるべきこの自分が、人から恐れ、嫌われることを、誰よりも、何よりも恐れたのだ。
もう……もう、隠せない。次に自分を見る人々の、顔を、視線を見るのが怖い。
でも、今はそれよりも……‥百合の戦士としての務めを果たす!
キッと目を見開き、前を向く。
メイスがこちらに向かってくる。
イネスはそれを見つめながら、祝詞を唱え、手を真っ直ぐ天に向けた。
「我が主の声を聞け!
我が手は刃物、我が手に慈しみはなく、すべてを穿ち、絶つものなり。
我が君、地の精霊、地の主(あるじ)、汝迷えるものに祝福を。
地を巡り巡る尊き力、祝福を持ってこの身に宿りたまえ。
この手は刃(やいば)、なれど!
人を守る物なり!」
イネスの輝きが増して、その光が手に集中する。
その光が空へと真っ直ぐのびた時、メイスに向けて、手を振り下ろした。
「ギャッ!!グアアッ!ナ、ナニッ!」
突然、メイスの身体が縦に裂ける。
「ヒッ!」
思わず、メイスが地に伏して顔を覆った。
彼の背が、メリメリと音を立てて裂けて行く。
「ギ 、ギ 、ギキャアアァーーッ!!」
メイスの裂けた背中から、一斉に数百の美しい瑠璃色の羽根を持つ青い鳥が羽ばたいた。
バササッ!!バタバタバタ!バババッ!!
「あ、あ、あ、わあっ!」
「あれは!鳥?!」
「鳥か?!一体……見たこともない!」
「なんて数!」
鳥たちは結界から出る事ができず、要の剣を目指してグロスに向かう。
「うおおっ!」
あまりの数にグロスがすくみながら、呪を唱え杖を向けた。
土で出来た兵が一つになり、壁を作る。
キアアア!!キイアアアア!!!
鳥が一斉に切り裂くような声を上げ、土の壁をもろくも打ち砕いた。
「なんと!うおおお!」
あまりの鳥の数にグロスが頭を守り、思わず地に伏せる。
鳥は次々と剣に体当たりをかけ、剣を打ち倒して結界をとくと一斉に空へ飛び立った。
「リリス!避けよ!」
ガーラントの叫びは、遠く離れて空で術に集中する彼には届かない。
気配に振り向くリリスの姿を最後に、鳥の軍勢が彼を飲み込んだ。
「リリーーーッ!」
イネスが、リリスを救おうとそちらへ手を向けた。
「くっ!」
人が切れるか、切れないか、成功率は半々。そう、半々なのだ。
それでも賭けに出て渾身の力で、手を振り上げる。
「ならぬ!」
兄巫子の声が響き、イネスの身体が凍りついて後ろにひっくり返った。
半回転して芝生の中へ顔から突っ込みながら、頭を押さえて兄巫子を見る。
「兄様!なぜ!」
「見よ!空を!あれに封じられていた聖なる鳥キュアが、炎を得て姿を取り戻すのだ!」
身を起こして振り向くと、咲き乱れる花壇の中、兄巫子が空に広がる火の玉を追う鳥たちの軍勢を指さす。
それは火を捕らえると、次々と火を飲み込み身体が青い火に包まれてゆく。
そして青く燃える火の鳥は、その姿が重なって一つになり、やがて1羽の巨大な鳥となった。
鳥たちの中から姿を現したリリスは赤く燃えるように輝いて、巨大な火の鳥を操り背に乗って燃える町へ向かってゆく。
「一体……あれはなんだ?」
呆然とそれを見送り、煙の上がる城下の方向を見ると次第に煙が減ってゆくのが見える。
それはあまりに劇的で、その場に行くまでもなくリリスが空から難なく火を消している様が頭に浮かんだ。
しかし呆然と空を見つめる人々の中で、数人の兵が我を取り戻しメイスに剣を向ける。
その動きに誘われ、他の兵達も次々と声を上げ倒れて動かないメイスに迫った。
「こいつだ!昨日も来た奴だぞ。」
「殺せ!またどんな力で襲ってくるかしれん!」
兵達が倒れたメイスの元に駆け寄り、剣を抜いて一斉に振りかざす。
恐怖と怨恨とが入り交じり、まだ少年の彼を殺すには十分すぎる刃が迫った。
「やめよ!」
セレスの声が辺りに響き、それが全身を突き抜け皆の動きが止まった。
まるで金縛りのように、動けない彼らに他の兵も足を止める。
セレスはそれに目もくれず、倒れているメイスの元に足を進め腰を落とした。
イネスは右手に意識を集中させながら、メイスを睨め付けた。
唇を舐め、心を集中する。
手を、指先まできれいにそろえ、そこに気を集中した。
ゆっくりとその手を振りかぶる。
イネスの身体が穏やかに輝く。
シュッ
空を切るように、イネスがその手をななめに振り下ろした。
ボッ!
ザンッ!
音を立てて羽根の炎が破断する。
空気を切り裂き、背後の木までもが、音も無く切れてずれ落ち、一瞬空まで引き裂いたようで雲まで破断した。
ザザザ……ドドン!!
木が落ち、羽を切られたことにメイスが驚愕して振り向いた。
「ギッ?!」
離れた炎の羽根に、再度手を振り上げるとそれは二つに裂けて千々に散って行く。
その、あまりにすさまじい切れ味に、兵達が騒然とする。
息を飲み、イネスの回りにいた兵が思わず後ずさった。
イネスが目を閉じうなだれる。
わかっている、自分は異質なのだ。
わかっている、この力だけは、リリにさえ知られることが恐ろしかった。
刃(やいば)の巫子……それがイネスの二つ名だ。
だが、それを人が呼ぶことは許さなかった。
俺は……僕は……この敬われるべきこの自分が、人から恐れ、嫌われることを、誰よりも、何よりも恐れたのだ。
もう……もう、隠せない。次に自分を見る人々の、顔を、視線を見るのが怖い。
でも、今はそれよりも……‥百合の戦士としての務めを果たす!
キッと目を見開き、前を向く。
メイスがこちらに向かってくる。
イネスはそれを見つめながら、祝詞を唱え、手を真っ直ぐ天に向けた。
「我が主の声を聞け!
我が手は刃物、我が手に慈しみはなく、すべてを穿ち、絶つものなり。
我が君、地の精霊、地の主(あるじ)、汝迷えるものに祝福を。
地を巡り巡る尊き力、祝福を持ってこの身に宿りたまえ。
この手は刃(やいば)、なれど!
人を守る物なり!」
イネスの輝きが増して、その光が手に集中する。
その光が空へと真っ直ぐのびた時、メイスに向けて、手を振り下ろした。
「ギャッ!!グアアッ!ナ、ナニッ!」
突然、メイスの身体が縦に裂ける。
「ヒッ!」
思わず、メイスが地に伏して顔を覆った。
彼の背が、メリメリと音を立てて裂けて行く。
「ギ 、ギ 、ギキャアアァーーッ!!」
メイスの裂けた背中から、一斉に数百の美しい瑠璃色の羽根を持つ青い鳥が羽ばたいた。
バササッ!!バタバタバタ!バババッ!!
「あ、あ、あ、わあっ!」
「あれは!鳥?!」
「鳥か?!一体……見たこともない!」
「なんて数!」
鳥たちは結界から出る事ができず、要の剣を目指してグロスに向かう。
「うおおっ!」
あまりの数にグロスがすくみながら、呪を唱え杖を向けた。
土で出来た兵が一つになり、壁を作る。
キアアア!!キイアアアア!!!
鳥が一斉に切り裂くような声を上げ、土の壁をもろくも打ち砕いた。
「なんと!うおおお!」
あまりの鳥の数にグロスが頭を守り、思わず地に伏せる。
鳥は次々と剣に体当たりをかけ、剣を打ち倒して結界をとくと一斉に空へ飛び立った。
「リリス!避けよ!」
ガーラントの叫びは、遠く離れて空で術に集中する彼には届かない。
気配に振り向くリリスの姿を最後に、鳥の軍勢が彼を飲み込んだ。
「リリーーーッ!」
イネスが、リリスを救おうとそちらへ手を向けた。
「くっ!」
人が切れるか、切れないか、成功率は半々。そう、半々なのだ。
それでも賭けに出て渾身の力で、手を振り上げる。
「ならぬ!」
兄巫子の声が響き、イネスの身体が凍りついて後ろにひっくり返った。
半回転して芝生の中へ顔から突っ込みながら、頭を押さえて兄巫子を見る。
「兄様!なぜ!」
「見よ!空を!あれに封じられていた聖なる鳥キュアが、炎を得て姿を取り戻すのだ!」
身を起こして振り向くと、咲き乱れる花壇の中、兄巫子が空に広がる火の玉を追う鳥たちの軍勢を指さす。
それは火を捕らえると、次々と火を飲み込み身体が青い火に包まれてゆく。
そして青く燃える火の鳥は、その姿が重なって一つになり、やがて1羽の巨大な鳥となった。
鳥たちの中から姿を現したリリスは赤く燃えるように輝いて、巨大な火の鳥を操り背に乗って燃える町へ向かってゆく。
「一体……あれはなんだ?」
呆然とそれを見送り、煙の上がる城下の方向を見ると次第に煙が減ってゆくのが見える。
それはあまりに劇的で、その場に行くまでもなくリリスが空から難なく火を消している様が頭に浮かんだ。
しかし呆然と空を見つめる人々の中で、数人の兵が我を取り戻しメイスに剣を向ける。
その動きに誘われ、他の兵達も次々と声を上げ倒れて動かないメイスに迫った。
「こいつだ!昨日も来た奴だぞ。」
「殺せ!またどんな力で襲ってくるかしれん!」
兵達が倒れたメイスの元に駆け寄り、剣を抜いて一斉に振りかざす。
恐怖と怨恨とが入り交じり、まだ少年の彼を殺すには十分すぎる刃が迫った。
「やめよ!」
セレスの声が辺りに響き、それが全身を突き抜け皆の動きが止まった。
まるで金縛りのように、動けない彼らに他の兵も足を止める。
セレスはそれに目もくれず、倒れているメイスの元に足を進め腰を落とした。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる