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11、アトラーナの秘め事
第100話 神殿を失う事
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「兄様、危のうございます。」
心配するイネスに答えず、セレスは伏せたメイスの身体を返し、胸に手を当て覗き込む。
メイスは急な変化にショックを起こしているのか、ひきつけを起こしているように小さく震え、顔は土色となり生気が消えていた。
「気の乱れか、しっかりせよ。」
セレスは小さく唱えて息を大きく吸い、メイスに口づけして吹き込む。
そしてメイスの身体を抱き、胸を自分の胸に押し当てた。
「汝、迷えるものに祝福を。
この血、この気、この力を弱りし者に分け与える。
地よ、祝福あれ!」
セレスの身体が、まぶしいほどに光り輝く。
その光はメイスに取り込まれ、メイスが大きく息を吸って顔色を取り戻した。
「これでよい。」
そっと寝かせ、それでもまだ苦しそうに息をつくメイスの顔をそっと撫でる。
「セレス様、何をなされる!」
「これは敵ですぞ、ご乱心召されたか?」
「兄様、一体……」
「この少年は、巫子だ。」
「巫子!!??」
「そうだ、心身を鍛える修行をしなかった為に、巫子としての力のある身体だけが利用され、未成熟な心とのバランスを大きく崩しているのだよ。
恐らくはまだ、精霊の道も見えていないだろう。」
「馬鹿なことを仰いますな!巫子があんな禍々しい……!」
セレスが顔を上げ、金縛りの兵達に手を振って解き、混乱する人々をチラリと見る。
フッと目をそらし、メイスに視線を落とした。
「神殿を失った巫子は精霊にも迎えられず、実質放置状態。
護ってくれる者も無く、心身を鍛える場所もない。何事もなく一生を終えることを祈るのみだ。
だが巫子としての力は身体に秘めている。
それを悪用された、この子は不運な巫子なのだ。」
兵たちが戸惑いながら剣を鞘に戻す。
騎士の一人が、腕を組み彼らと顔を見合わせた。
「うむ…………これは、我らでは判断しがたい。御館様にご報告を。」
「私が報告しよう、この子の身は地の神殿で預かる。
ひどく汚されていたが、イネスの剣で汚れが消えたようだ。大丈夫、これから修行すればよい。」
「巫子?一体何の……」
その時ヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まり耳にささやく。
「イネス、リリスが帰ってきた。けど、なんか変だわ。」
変?怪訝な顔で、イネスが振り向き立ち上がった。
バサバサッ!バサッ!
呆然と見る人々の前に、髪を赤く燃え上がらせるリリスが青い炎の鳥の背に乗り下りてくる。
リリスは身体をほのかに赤く輝かせ、両眼は赤く、風をまとって妖しく微笑んでいた。
彼は優雅に鳥の背から滑り降りると、右手を空へと向ける。
炎の鳥はまるでリリスの下僕のように、軽く羽ばたいて小さくなると、その手に留まり頭を下げた。
「リリ……?」
駆け寄ろうとしたイネスが、サファイアに遮られ足を止める。
兄巫子が、リリスに向けて胸に手を当て膝を折り、頭を下げた。
『久しいな、ガラリア。今は……セレスと申すか。』
「は、お久しゅうございます。」
『レナントの城も変わりないのう。
おお、あれがグラシャスの血筋の者か、よう似ておるわ。ホホ……』
リリスが顔を上げ、窓から見下ろすガルシアに微笑み辺りを見回す。
セレスがチラと後ろを見る。
兵や弟巫子さえ、何があっているのか分からず立ち尽くしている。
「無礼な、控えよ!」
セレスは眉をひそめ、すべての者に向けてスッと手を振った。
「うおっ!」「おわっ!」
「わあっ!」
様々な叫びを上げて、人々が足をさらわれひっくり返った。
「失礼を。」
『良い。わらわも仮初めの身、この現世(うつしよ)では咎人(とがびと)よ。
だが、これも覚悟を決めたゆえ、また現れることもあろう。
ガラリア、この少年がヴァシュラムの巫子か?』
「はい、イネスと申します。」
『そうか。
イネスよ、己の剣が信じられぬか。
人を切るかもしれぬと迷いが出ると、その手は刃になる。
信じよ、その手は巫子の手、慈しみの手。
魔を切り、魔を払う、最強の手。
信じることが出来ぬのはまだ修行不足だからだ。
お前の剣は、まだ濁っている。
もっと、研ぎ澄ませ。
心を磨け。
剣は土より生まれ、火で成される。
そしてその剣は風を起こし、水を呼ぶ。
なればこそ、お前は最強の剣となり、現世の王に力を貸すことになろう。』
その言葉に、イネスが唇を噛む。
ずっと、修行をしてきた。それでも足らぬと言われるのか。
「私は、ずっと……! これ以上何をすれば…………」
『良い、うい子よ。
大きな誤りは、有るものを無いことにすることだ。
その手に宿る刃は、お前自身。
無いことには出来ぬ。我が身を愛せ。』
ああ、そうだ。ずっと隠してきた。
この人は、それまで見通してしまうのか。
「俺は……自分を、見てない……」
がっくりイネスがうなだれる。
リリスが微笑んで、セレスに目を移した。
『さてガラリアよ、迷えし巫子の事は頼んだぞ。』
「はい、この子は地の神殿でお預かりします。我が兄弟が巫子として鍛えましょう、お任せを。」
『うむ。では火の化身キュアよ、しばし未熟な巫子に付いていておあげ。』
リリスが鳥に小さくささやくと、青い火の鳥が手から飛び立ち、倒れて動かないメイスのかたわらに寄り添う。
リリスの姿は全身をなめるように赤い火に包まれ、風が巻いてその火が消える。
意識を失いぐらりとよろめくその身体を、セレスが抱いて受け止めた。
心配するイネスに答えず、セレスは伏せたメイスの身体を返し、胸に手を当て覗き込む。
メイスは急な変化にショックを起こしているのか、ひきつけを起こしているように小さく震え、顔は土色となり生気が消えていた。
「気の乱れか、しっかりせよ。」
セレスは小さく唱えて息を大きく吸い、メイスに口づけして吹き込む。
そしてメイスの身体を抱き、胸を自分の胸に押し当てた。
「汝、迷えるものに祝福を。
この血、この気、この力を弱りし者に分け与える。
地よ、祝福あれ!」
セレスの身体が、まぶしいほどに光り輝く。
その光はメイスに取り込まれ、メイスが大きく息を吸って顔色を取り戻した。
「これでよい。」
そっと寝かせ、それでもまだ苦しそうに息をつくメイスの顔をそっと撫でる。
「セレス様、何をなされる!」
「これは敵ですぞ、ご乱心召されたか?」
「兄様、一体……」
「この少年は、巫子だ。」
「巫子!!??」
「そうだ、心身を鍛える修行をしなかった為に、巫子としての力のある身体だけが利用され、未成熟な心とのバランスを大きく崩しているのだよ。
恐らくはまだ、精霊の道も見えていないだろう。」
「馬鹿なことを仰いますな!巫子があんな禍々しい……!」
セレスが顔を上げ、金縛りの兵達に手を振って解き、混乱する人々をチラリと見る。
フッと目をそらし、メイスに視線を落とした。
「神殿を失った巫子は精霊にも迎えられず、実質放置状態。
護ってくれる者も無く、心身を鍛える場所もない。何事もなく一生を終えることを祈るのみだ。
だが巫子としての力は身体に秘めている。
それを悪用された、この子は不運な巫子なのだ。」
兵たちが戸惑いながら剣を鞘に戻す。
騎士の一人が、腕を組み彼らと顔を見合わせた。
「うむ…………これは、我らでは判断しがたい。御館様にご報告を。」
「私が報告しよう、この子の身は地の神殿で預かる。
ひどく汚されていたが、イネスの剣で汚れが消えたようだ。大丈夫、これから修行すればよい。」
「巫子?一体何の……」
その時ヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まり耳にささやく。
「イネス、リリスが帰ってきた。けど、なんか変だわ。」
変?怪訝な顔で、イネスが振り向き立ち上がった。
バサバサッ!バサッ!
呆然と見る人々の前に、髪を赤く燃え上がらせるリリスが青い炎の鳥の背に乗り下りてくる。
リリスは身体をほのかに赤く輝かせ、両眼は赤く、風をまとって妖しく微笑んでいた。
彼は優雅に鳥の背から滑り降りると、右手を空へと向ける。
炎の鳥はまるでリリスの下僕のように、軽く羽ばたいて小さくなると、その手に留まり頭を下げた。
「リリ……?」
駆け寄ろうとしたイネスが、サファイアに遮られ足を止める。
兄巫子が、リリスに向けて胸に手を当て膝を折り、頭を下げた。
『久しいな、ガラリア。今は……セレスと申すか。』
「は、お久しゅうございます。」
『レナントの城も変わりないのう。
おお、あれがグラシャスの血筋の者か、よう似ておるわ。ホホ……』
リリスが顔を上げ、窓から見下ろすガルシアに微笑み辺りを見回す。
セレスがチラと後ろを見る。
兵や弟巫子さえ、何があっているのか分からず立ち尽くしている。
「無礼な、控えよ!」
セレスは眉をひそめ、すべての者に向けてスッと手を振った。
「うおっ!」「おわっ!」
「わあっ!」
様々な叫びを上げて、人々が足をさらわれひっくり返った。
「失礼を。」
『良い。わらわも仮初めの身、この現世(うつしよ)では咎人(とがびと)よ。
だが、これも覚悟を決めたゆえ、また現れることもあろう。
ガラリア、この少年がヴァシュラムの巫子か?』
「はい、イネスと申します。」
『そうか。
イネスよ、己の剣が信じられぬか。
人を切るかもしれぬと迷いが出ると、その手は刃になる。
信じよ、その手は巫子の手、慈しみの手。
魔を切り、魔を払う、最強の手。
信じることが出来ぬのはまだ修行不足だからだ。
お前の剣は、まだ濁っている。
もっと、研ぎ澄ませ。
心を磨け。
剣は土より生まれ、火で成される。
そしてその剣は風を起こし、水を呼ぶ。
なればこそ、お前は最強の剣となり、現世の王に力を貸すことになろう。』
その言葉に、イネスが唇を噛む。
ずっと、修行をしてきた。それでも足らぬと言われるのか。
「私は、ずっと……! これ以上何をすれば…………」
『良い、うい子よ。
大きな誤りは、有るものを無いことにすることだ。
その手に宿る刃は、お前自身。
無いことには出来ぬ。我が身を愛せ。』
ああ、そうだ。ずっと隠してきた。
この人は、それまで見通してしまうのか。
「俺は……自分を、見てない……」
がっくりイネスがうなだれる。
リリスが微笑んで、セレスに目を移した。
『さてガラリアよ、迷えし巫子の事は頼んだぞ。』
「はい、この子は地の神殿でお預かりします。我が兄弟が巫子として鍛えましょう、お任せを。」
『うむ。では火の化身キュアよ、しばし未熟な巫子に付いていておあげ。』
リリスが鳥に小さくささやくと、青い火の鳥が手から飛び立ち、倒れて動かないメイスのかたわらに寄り添う。
リリスの姿は全身をなめるように赤い火に包まれ、風が巻いてその火が消える。
意識を失いぐらりとよろめくその身体を、セレスが抱いて受け止めた。
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