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11、アトラーナの秘め事 2
第108話 たとえ苦しくても
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翌日、リリスは朝からセレスの部屋を尋ねた。
王城から早鳥で王からの返事が来たそうで、セレスは使者と供に隣国へ旅に出ると旅支度中だ。
メイスはようやく気がついたらしいが、彼の世話はカナンが続けて行うという事だった。
「イネス様は?どちらにいらっしゃるのでしょう。昨夜からお姿を拝見しませんが。」
セレスはルビーに着替えを任せ、装飾をつけて髪を解いてもらっている。
荷造りはすでに済んで、部屋のかたわらにまとめてあった。
「あの子は昨日から城の高台で瞑想してるよ。
ほら、結界の印の所。あそこはいい眺めだろう?」
「一晩中ですか?」
「心配ない、あの子は時々やるんだよ。一人になるから気を集中させて、地力を身体に巡らせてるんだ。
リリ、お前は旅支度で困ってる事はないのかい?」
「えっ、……えと、ありません。」
「困った事があったら、イネスやサファイアに言いなさい。カナンでもいい。
準備金もちゃんと貰えるから、遠慮無く言うんだよ。」
「い、いいえ!とんでもございません。私は、ガーラント様に相談しておりますから。」
「そうか、ならば良い。
リリ、指輪と目を手に入れたらフレアゴートを呼び、必ず守って貰うのだ。
キュアは常にお前の配下に置くように。あれはお前の配下では無いから消えたらもう戻らぬ。
知らぬ者が接触してきても気を許してはならぬ、お前は力を手にするまで身を守る事を最優先しなければならない。
3人の騎士に必ず相談せよ、一人で判断してはならぬ。
リリサほどの巫子でも身を操られてしまったのだ、二度と繰り返してはならぬ。良いな。
お前の願う対話は、まだその時では無い。見極めるのだ。」
「はい。」
「ではまた後ほど、ルビー行くぞ。」
セレスは、慌ただしく身支度を調えるとルビーと供に部屋を出ていった。
ヨーコが腹立たしげに、頭をつつく。
「なんで言わなかったの?コートやお金に困ってますって。」
「……いいのです。何とかなりますから。」
何とかなるかわからないが、お金を下さいとは言いにくい。
今まで何かをねだった事なんて皆無なので、物怖じしてしまう。
勇気を出して、ガーラントに相談しようか……
思い悩むのはあとにして、奥の部屋にメイスを見に行く。
カナンはずっと世話をしているらしく、彼の側にいるキュアにも慣れたようだった。
「ほら、リリス様が見えましたよ。」
メイスは複雑な顔でリリスを見て、サッと布団で顔を隠す。
今までの事を思えば、どう接して良いのかわからない。
許して貰うべきなのか、このまま頼って良いのか、まだリューズを頼って自分に嘘をついてでも反抗するべきなのか、判断に迷っていた。
「良かった、やっと落ち着きましたね。
食事は食べられましたか?」
リリスの問いに無言のメイスに変わり、カナンが残念そうに首を振る。
「それはいけない。ちゃんと食べないと元気が出ません。少しでも食べなくては。」
メイスは無言で寝返りを打ち、リリスに背を向ける。
リリスはフフッと笑い、彼の背をそっとさすった。
メイスがバッと飛び起きて、リリスをはねのけ睨み付ける。
腕に巻いた聖布がとけ、はらりと落ちて肘から下のない腕に息をのんだ。
「ひ……いっ!」
「メイス、魔導で作った腕は、術のバランスを失って消えたんだ。
でも痛みはないだろう?大丈夫、傷は綺麗になっているから大丈夫だよ。」
メイスはガクガクと震え、そして力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
カナンが慌ててその身体を支え、リリスも手伝いベッドに横たえさせた。
「も、もう駄目だ、もう駄目だ、もう……」
小さくつぶやく青い顔に、リリスが手をギュッと包む。
メイスはその手を振り切り、リリスをジロリと見て表情のない顔でつぶやいた。
「お前なんか、嫌いだ。死んでしまえ。」
リリスがキョトンと笑って、メイスの頭をゴツンと叩く。
「私も、あなた様にはひどい目に合わされました。
あのリボン、呪いがかかっていたそうです、巫子様にたいそう怒られましたよ。
だから、おあいこです。
メイスは嫌いでも、私は変わらずあなたが好きですよ。
だって、あなたは私の大切なお友達です。
あの日お茶を飲みながらなめた蜂蜜、美味しかったですね。
元気になったらまたお茶をしましょう、今度は美味しいお菓子で。」
そう言って、焼き菓子を数枚包んだ紙を彼の手に渡す。
「頂いたからお裾分け、メイスと半分こ。
とっても美味しいんですよ。」
メイスはそれをじっと見て、手を振り上げ床にたたきつけようとする。
でも、それも止めようとしない二人に顔を上げた。
「メイス、あなたの好きにすればいい。
あなたはもう、自由なのだから。あなたを縛る物は何もないのです。」
カナンが淡々とそう告げる。
メイスは振り上げた手をおろし、そして手の中の包みを開いた。
握りしめた為につぶれたお菓子が、形をいびつに変えてそこにある。
自分は、リューズにとってお菓子だったのかもしれない。
形を綺麗に成していた時は利用され、こうしてもろく崩れてからは捨てられた。
自分は今まで一体何をしてきたのだろう。
「私は、許されない……死んだ方がいいんだ。」
メイスの思い詰めた言葉に、言葉を返そうとするリリスを制し、カナンが前に出る。
「大罪を犯したならば、あなたはその倍を良い行いで返さねばならない。
人の為に尽くしなさい。
その為に生きるんだ。たとえ苦しくても。」
「私は今までだって苦しかったんだ。
でも、それでもまだ、苦しむ為に生きろって言うのか?
人の下で散々こき使われて、汚されて、それでも人の為にだって?」
「ええ、そうです。生きなさい。」
「神殿で不自由なく生きてきて、何を偉そうに言う。」
「苦しんでいるのは、あなただけではない。私はそう言いたいからです。」
そう言ってカナンが上着とシャツを脱ぐ。
それは昨日一部を見て知っていたリリスも驚くほど、首から下の左半分が、胸から腹まで焼けただれ引きつったケロイドに覆われ、目を背けたくなるほどのひどい傷跡だった。
「私は5年前、家が焼けて両親と祖父母、そして妹と5人の家族を亡くしました。私はきっと、普通なら死んでいたと思います。
でも、ちょうど村近くを訪れていらっしゃったセレス様に救われ、こうして生き延びてしまいました。
それでも左手は半分しか挙がらず、暑い夏場は傷跡が熱くて水浴びが欠かせません。
私は生きているのが苦しくて、泣きながら何度も窓から飛び降りようとしました。
でも、私はその苦しみを負いながらも生きねばならないのです。
なぜなら、家に火を付けてあの優しかった家族を焼き殺してしまったのは私だからです。」
王城から早鳥で王からの返事が来たそうで、セレスは使者と供に隣国へ旅に出ると旅支度中だ。
メイスはようやく気がついたらしいが、彼の世話はカナンが続けて行うという事だった。
「イネス様は?どちらにいらっしゃるのでしょう。昨夜からお姿を拝見しませんが。」
セレスはルビーに着替えを任せ、装飾をつけて髪を解いてもらっている。
荷造りはすでに済んで、部屋のかたわらにまとめてあった。
「あの子は昨日から城の高台で瞑想してるよ。
ほら、結界の印の所。あそこはいい眺めだろう?」
「一晩中ですか?」
「心配ない、あの子は時々やるんだよ。一人になるから気を集中させて、地力を身体に巡らせてるんだ。
リリ、お前は旅支度で困ってる事はないのかい?」
「えっ、……えと、ありません。」
「困った事があったら、イネスやサファイアに言いなさい。カナンでもいい。
準備金もちゃんと貰えるから、遠慮無く言うんだよ。」
「い、いいえ!とんでもございません。私は、ガーラント様に相談しておりますから。」
「そうか、ならば良い。
リリ、指輪と目を手に入れたらフレアゴートを呼び、必ず守って貰うのだ。
キュアは常にお前の配下に置くように。あれはお前の配下では無いから消えたらもう戻らぬ。
知らぬ者が接触してきても気を許してはならぬ、お前は力を手にするまで身を守る事を最優先しなければならない。
3人の騎士に必ず相談せよ、一人で判断してはならぬ。
リリサほどの巫子でも身を操られてしまったのだ、二度と繰り返してはならぬ。良いな。
お前の願う対話は、まだその時では無い。見極めるのだ。」
「はい。」
「ではまた後ほど、ルビー行くぞ。」
セレスは、慌ただしく身支度を調えるとルビーと供に部屋を出ていった。
ヨーコが腹立たしげに、頭をつつく。
「なんで言わなかったの?コートやお金に困ってますって。」
「……いいのです。何とかなりますから。」
何とかなるかわからないが、お金を下さいとは言いにくい。
今まで何かをねだった事なんて皆無なので、物怖じしてしまう。
勇気を出して、ガーラントに相談しようか……
思い悩むのはあとにして、奥の部屋にメイスを見に行く。
カナンはずっと世話をしているらしく、彼の側にいるキュアにも慣れたようだった。
「ほら、リリス様が見えましたよ。」
メイスは複雑な顔でリリスを見て、サッと布団で顔を隠す。
今までの事を思えば、どう接して良いのかわからない。
許して貰うべきなのか、このまま頼って良いのか、まだリューズを頼って自分に嘘をついてでも反抗するべきなのか、判断に迷っていた。
「良かった、やっと落ち着きましたね。
食事は食べられましたか?」
リリスの問いに無言のメイスに変わり、カナンが残念そうに首を振る。
「それはいけない。ちゃんと食べないと元気が出ません。少しでも食べなくては。」
メイスは無言で寝返りを打ち、リリスに背を向ける。
リリスはフフッと笑い、彼の背をそっとさすった。
メイスがバッと飛び起きて、リリスをはねのけ睨み付ける。
腕に巻いた聖布がとけ、はらりと落ちて肘から下のない腕に息をのんだ。
「ひ……いっ!」
「メイス、魔導で作った腕は、術のバランスを失って消えたんだ。
でも痛みはないだろう?大丈夫、傷は綺麗になっているから大丈夫だよ。」
メイスはガクガクと震え、そして力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
カナンが慌ててその身体を支え、リリスも手伝いベッドに横たえさせた。
「も、もう駄目だ、もう駄目だ、もう……」
小さくつぶやく青い顔に、リリスが手をギュッと包む。
メイスはその手を振り切り、リリスをジロリと見て表情のない顔でつぶやいた。
「お前なんか、嫌いだ。死んでしまえ。」
リリスがキョトンと笑って、メイスの頭をゴツンと叩く。
「私も、あなた様にはひどい目に合わされました。
あのリボン、呪いがかかっていたそうです、巫子様にたいそう怒られましたよ。
だから、おあいこです。
メイスは嫌いでも、私は変わらずあなたが好きですよ。
だって、あなたは私の大切なお友達です。
あの日お茶を飲みながらなめた蜂蜜、美味しかったですね。
元気になったらまたお茶をしましょう、今度は美味しいお菓子で。」
そう言って、焼き菓子を数枚包んだ紙を彼の手に渡す。
「頂いたからお裾分け、メイスと半分こ。
とっても美味しいんですよ。」
メイスはそれをじっと見て、手を振り上げ床にたたきつけようとする。
でも、それも止めようとしない二人に顔を上げた。
「メイス、あなたの好きにすればいい。
あなたはもう、自由なのだから。あなたを縛る物は何もないのです。」
カナンが淡々とそう告げる。
メイスは振り上げた手をおろし、そして手の中の包みを開いた。
握りしめた為につぶれたお菓子が、形をいびつに変えてそこにある。
自分は、リューズにとってお菓子だったのかもしれない。
形を綺麗に成していた時は利用され、こうしてもろく崩れてからは捨てられた。
自分は今まで一体何をしてきたのだろう。
「私は、許されない……死んだ方がいいんだ。」
メイスの思い詰めた言葉に、言葉を返そうとするリリスを制し、カナンが前に出る。
「大罪を犯したならば、あなたはその倍を良い行いで返さねばならない。
人の為に尽くしなさい。
その為に生きるんだ。たとえ苦しくても。」
「私は今までだって苦しかったんだ。
でも、それでもまだ、苦しむ為に生きろって言うのか?
人の下で散々こき使われて、汚されて、それでも人の為にだって?」
「ええ、そうです。生きなさい。」
「神殿で不自由なく生きてきて、何を偉そうに言う。」
「苦しんでいるのは、あなただけではない。私はそう言いたいからです。」
そう言ってカナンが上着とシャツを脱ぐ。
それは昨日一部を見て知っていたリリスも驚くほど、首から下の左半分が、胸から腹まで焼けただれ引きつったケロイドに覆われ、目を背けたくなるほどのひどい傷跡だった。
「私は5年前、家が焼けて両親と祖父母、そして妹と5人の家族を亡くしました。私はきっと、普通なら死んでいたと思います。
でも、ちょうど村近くを訪れていらっしゃったセレス様に救われ、こうして生き延びてしまいました。
それでも左手は半分しか挙がらず、暑い夏場は傷跡が熱くて水浴びが欠かせません。
私は生きているのが苦しくて、泣きながら何度も窓から飛び降りようとしました。
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