赤い髪のリリス 戦いの風

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11、アトラーナの秘め事 2

第107話 旅の準備

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食堂に入ると、城住まいや夜勤の兵や騎士達が食事している。
リリスが入ると、一斉に視線が集まって苦笑いで返した。

「お?巫子様だぞ。」

「おやおや、巫子様だ。」

リリスを見て、皆がはやし立てる。
一体どこから聞きつけたのか、とりあえず王の子だと言うことは秘密のようだが巫子はばれているらしい。

「えと、騎士様と私の分のお食事をお願いします。」

いつものようにカウンターで頼むと、厨房の皆も顔を見合わせる。

「ここじゃ、みんなと同じしか出ませんぜ?」

シェフの親父さんが、ニイッと笑ってイヤミを言う。

「はい、私はただの下級魔導師でございますから、皆様と同じ物を食べます。」

ニッコリ微笑みながらも、なんだかどっと疲れが来る。
嫌われているんだろうか。
リリサレーンがこの身の内にいることは知れてしまったのだろうし。
そう言えば、うっかりしていた。
どう返事が返るかドキドキしていると、親父さんがにやっと笑った。

「座って待ってな、坊主。」

あれ?ああ、良かった。「はい、では。」

リリスが満面の笑みでうなずき、ガーラントの座る席に行き向かい合って座る。

「今朝はずいぶん偉いガキだと思っていたら、巫子様とはねえ。」

隣で食事をしている兵士が、にやけてこちらを見る。
周りの騎士や兵も、面白くないのか面白いのか、いや、面白くないのかもしれない。
身分が下だと思っていた子供が、いきなり身分の高い巫子だと聞かされたのだ。

「こんな所で食わんでも、お部屋でお食事なさればよろしかろうて。」

大きな声でつぶやく近くの席の騎士も、ジロリとこちらを見る。
リリスはキョンとして首をかしげ、そしてニッコリ笑って答えた。

「私、ただのガキですから。ご迷惑をおかけします。」

ぺこりと頭を下げる。
向かいのガーラントがプッと吹き出し、たまらずクククと笑う。

「ちぇっ、まったく澄ましたガキだぜ。」

肩すかしされて、兵や騎士達もひょいと肩を上げ笑っている。
そのうち食事が来て、シェフの親父さんがあとから小さな焼き菓子を色々と袋に入れて持ってきた。

「そら、ただ者じゃねえガキにはおやつだ。」

差し出す袋からは、ほんのり甘い香り。
リリスがパッと顔を明るくして受け取った。

「えっ?!本当ですか?わあっ嬉しいです!凄い凄い!!わあっ!凄い、いっぱいお菓子が入ってる!
本当に?本当に私が頂いてもいいんでしょうか?」

「あ、ああ、お前さんにお裾分けだよ。食ってみな。」

普通の菓子を見て、派手に喜ぶ様に皆が驚く。
リリスが一枚手に取り、大事そうに口に運ぶ。
サクサクかむと口の中でほろほろと溶けるクッキーが、何とも香ばしくて甘くて美味しい。
お菓子なんて本当に、この世界では滅多に食べられないので嬉しくて泣きそうになる。

「なんて美味しいんだろう、大事に大切に頂きます!ありがとうございます!」

「いや、そんなに喜んでくれるとは思わなかったんだがな。」

「お菓子って、滅多に食べられないのでとっても嬉しいです。こんなに沢山。」

「家じゃ、おやつくらい出ないのかい?」

「私は使用人ですから。お出しする事はあっても口に入れる事はありません。」

フェリアにお菓子を用意する事はあっても、それは自分の物ではないので食べるわけにはいかない。小さい頃からつまみ食いではたいそう怒られてきたので、監視役のいない今でも食べる気がしないのだ。

「美味しい~、嬉しいな。」

「お前さん、巫子を認めてもらいに本城に行くんだってな。やっぱり、火っての神殿作るのかい?
偉い奴だぜ、俺あ影ながら応援するぜ。火はコックの命だ。
火の神殿がこの精霊の国にないってのがおかしいぜ。
な?道中野営するって聞いたから、なんか作っといてやるよ。大変そうだがガンバレよ!」

「はい!」

悩みを忘れて満面の笑みのリリスに、やっぱり子供だなとガーラントが笑う。
お菓子の余韻を楽しむ間もなく、リリスが夕食を食べ始めると、食堂に今朝世話になったブルースがドタドタ走ってきた。

「よお!ここにいたか、巫子殿!
俺が供で本城に行くことになったので、よろしくな!」

「えっ!でもブルース様は隊長様じゃなかったでしょうか。」

「バーカ、レナントは一人二人抜けても構わんほど騎士はウジャウジャいるんだ。
俺のグルクはな、騎士の中でも一番になった最速だぞ。お前のあの火の鳥でも追い抜いてやるぜ。」

「追い抜いたら護衛にならん。」

ぼそっとガーラントがつぶやく。

「チッ、まったく面白くない男だな、ガーラント。
明日準備して、明後日早朝出発するぞ。よし、いいな!じゃ!」

「は、はい、よろしくお願い……」

慌てて立ち上がり、頭を下げて顔を上げた時は、すでにブルースの姿はなかった。
なんだかすごく嬉しそうで、ウキウキして見える。リリスはちょっと心配になりガーラントを見た。

「まあ、昔からグルクが大好きなんだ、あいつは。
しかしレナントではなかなか乗る機会がないからな。」

「はあ、でも出発を明日と仰いませんでしたから助かりました。」

「まあな、浮かれてるようでしっかり足を地に付けてる奴だから、隊長にも任命されるのさ。
明日は旅の準備をしなければな。
リリス殿はコートをどうなされる?買いに城下へ行かれるか?」

「あ、ああ……そうですね。」

空は確かに寒い。
でも、実はリリスはレナントへ来る時の騒ぎで、荷物を一切失ってしまったのだ。
服は一通りセフィーリアが用意してくれたが、金もないので不足分を買いにも行けない。

「大丈夫です。服を重ねて着て行きますから。」

と……

そう言った物の、不格好な姿で本城に行って、精霊や騎士長の主に……父と母に恥をかかせてしまわないだろうか。
自室に戻るとベッドに服を広げ、全部重ねて着てみようと思う。

「あの偉い人にお金を貰ったら?王族だってわかったなら親戚でしょ?薄い物ばかり、これじゃ寒いわよ。」

ヨーコが椅子の背もたれに留まって首を振る。
どう見ても、防寒には遠いように思う。

「まあ、いざとなったら魔導で何とかします。」

「魔導って魔法じゃないんでしょ?本当に、大丈夫かしらねえ……チュッ」

ヨーコの心配もわかるが、その夜はそのまま床に入りとりあえず寝る事にした。
本城に帰ってからの事を考えると、恐くて眠れない。
何とかなる。何とか……ならなかったら?
どうにもならなかったら、その時は……どうすればいいんだろう……
なんだか、捕らえられて剣で切られる、そんなイメージばかり浮かんでイヤになる。

大きくため息ついて、枕を抱いて足をバタバタしてみる。
そう言えば、昼の騒ぎからイネスを見ない。

お忙しいのだろうな。

そうして色々考えを巡らせているうち、やはり精神的にも疲れているからだろう、いつの間にか眠ってしまった。
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