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第4話 誰もいないじゃんっ!
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数日後、
激しい戦闘跡を思わせる、一時最前線だった場所を通った。
と、言うか、そこが故郷なんだけど。
自分的に初めて見る場所は、荒野に至る所に馬の骨が散らばり、そして回収を忘れられた服や壊れた銃器などが散乱している。
とてもとても、帰ってきたんだと感動するような景色じゃ無い。
地雷は国際法で排除された戦闘だったものの、ほとんど無視して使われた。
とは言え、生活しなきゃいけないわけで、生活道路は優先的に除去されている。
心配は減ったが、それでも手榴弾や不発弾が落ちているかもしれない。
つまり、少し道を外れると危険しか無い。
なのに、ベンは勝手に道を外れる。
「お前なあ、エサ食うなら安全なとこで食えよ。」
「はらへった。」
「お前、ずっと食ってるよな~。今朝ホテル出る前めっちゃ食ったくせに。
買ってきた飼料、あっという間になくなるし、重いけどもう一袋買えば良かったなあ。」
ベンがキョロキョロ目をこらして先を進む。
まるで、地雷の危険性を知っているようだ。
「お前、何が危険か知ってんの?」
無言で鼻息だけが響き、やっと道に戻ると立ち止まってため息をついた。
「なんでもこの辺、大規模に掃除やるって前聞いたから、あと半年くらいの辛抱だろうさ。
まあ、聞いたの半年前なんだけど。
インフラ整備が優先だから、こんなド田舎どうでもいいんだろうさ」
「じゃあ、半年後。」
「冗談、俺は早く家族に会いたいんだ。だいたいさ、お前が道を行けばいいんだよ。」
「ニンジン!ニンジン食いたい!」
「まあまあ、ロンド着いたらニンジン買うし。俺の妹紹介するぜ、可愛い声してるんだ。」
「声、顔、別。」
「ふふ、まあな、俺の妹だし。でもきっと可愛いぜ。
母さんは美人で、親父は格好いい……予定だ。」
「予定。」
「ああ、楽しみだな。」
ベンが振り向き、明るい顔のサトミにヘンッと笑う。
知らず足を急がせ、川沿いに斜めになった半壊のマンションの立ち並ぶロンドが見えてくると、とうとう走り出した。
ロンドは爆撃の跡も激しく、町も荒れ果てていた。
しかし、人々は復興に忙しく、町には市も立って活気がある。
サトミはベンを降りて歩きながら、辺りを見回した。
「どうだ?」
「ダメだ、匂いだけじゃ見当もつかねえ。誰かに住所で聞いてみる。」
「住んでた?」
「俺、昔目が見えなかったんだ。家の回りを杖で歩いてたから、景色なんて知らない。」
ベンが目を丸くする。
いままでの会話から察するほどベンは利口ではない。
だから声の事しか家族の話が出なかったのかと、ようやくここでわかった。
道行く人に聞いて、サトミの言った13区画はもう少し先の、ロンドでも中心部だという事がわかりベンに乗って急ぐ。
ここには大きな爆弾が落ちたらしく、町の中央に大きなクレーターがあいてひどく不安になった。
生きているだろうか、無事に家族はそろっているだろうか。
時々立ち止まって道を聞きながら、ようやく家が建ち並ぶ13区画に行き着いた。
サトミがベンを降り、小さな古い家が並ぶ町並みに目を閉じる。
パン屋や料理屋からの香りが、確かに懐かしい。
通りを歩きながら、自分の家を探して記憶を探る。
あの頃は、匂いと土に触れる足の感覚や杖の感触、風の動きで、今どこに自分がいるかを計っていた。
パン屋の匂いがあって、それから五軒目の角。
曲がって小道を轍にそって歩いて5分。
左手を伸ばして歩けば、そこに親父が作った目印の門柱……
あった
低い位置にあるそれを、さわると確かに大きな切れ目を入れたトーテムポールが触れる。
「ハハッ、俺って少しは背が伸びたんだな。」
小さな家の横には、小さな畑。
いつも母さんが大事に野菜を育てては、それをみんなで分け合って食べていた。
しかし、なぜかそこは荒れ果てて雑草が生い茂っている。
嫌な予感に駆られ、ベンを残し恐る恐る玄関のドアへと近づきドアを叩いた。
「父さん!母さん!サトミだよ!帰ってきたんだ!」
返事はない。
いつもなら明るい声が返ってくるそこからは、静粛のみがひびく。
そっと井戸のある畑側に入り、窓から顔を覗かせた。
中はガランとして、何もない。
『今更帰っても居場所なんかあるもんかよ』
見送ってくれた同じ部隊のジンの声が、遠く耳に響いた。
呆然と立ちつくし、辺りを見回す。
振り向くと、門柱の裏にある小さな郵便受けには、雨で角が濡れてヨレヨレになった数枚の手紙が見えている。
フラフラと歩いていってそれを取ると、最初の数枚以外のすべてが、自分のつたない字が雨ににじんでいる自分からの手紙だった。
中は見なくてもわかっている。
ずっと何度も、家族の写真が一枚でいいから欲しいと、両親に頼む言葉でつづられている。
一度も返事はこなかった。
同僚が家族からの手紙を楽しみに受け取るのを横目に、サトミはずっと一方的に書き続けるしかなかった。
軍に入るのを最後まで反対されただけに、怒っているのだろうと思ったけれど、せめて一枚写真が欲しかった。
家族の顔を、写真で良いから見てみたかった。
みんなの顔も知らず、どうやって捜せば良いんだろう……
途方に暮れた。
激しい戦闘跡を思わせる、一時最前線だった場所を通った。
と、言うか、そこが故郷なんだけど。
自分的に初めて見る場所は、荒野に至る所に馬の骨が散らばり、そして回収を忘れられた服や壊れた銃器などが散乱している。
とてもとても、帰ってきたんだと感動するような景色じゃ無い。
地雷は国際法で排除された戦闘だったものの、ほとんど無視して使われた。
とは言え、生活しなきゃいけないわけで、生活道路は優先的に除去されている。
心配は減ったが、それでも手榴弾や不発弾が落ちているかもしれない。
つまり、少し道を外れると危険しか無い。
なのに、ベンは勝手に道を外れる。
「お前なあ、エサ食うなら安全なとこで食えよ。」
「はらへった。」
「お前、ずっと食ってるよな~。今朝ホテル出る前めっちゃ食ったくせに。
買ってきた飼料、あっという間になくなるし、重いけどもう一袋買えば良かったなあ。」
ベンがキョロキョロ目をこらして先を進む。
まるで、地雷の危険性を知っているようだ。
「お前、何が危険か知ってんの?」
無言で鼻息だけが響き、やっと道に戻ると立ち止まってため息をついた。
「なんでもこの辺、大規模に掃除やるって前聞いたから、あと半年くらいの辛抱だろうさ。
まあ、聞いたの半年前なんだけど。
インフラ整備が優先だから、こんなド田舎どうでもいいんだろうさ」
「じゃあ、半年後。」
「冗談、俺は早く家族に会いたいんだ。だいたいさ、お前が道を行けばいいんだよ。」
「ニンジン!ニンジン食いたい!」
「まあまあ、ロンド着いたらニンジン買うし。俺の妹紹介するぜ、可愛い声してるんだ。」
「声、顔、別。」
「ふふ、まあな、俺の妹だし。でもきっと可愛いぜ。
母さんは美人で、親父は格好いい……予定だ。」
「予定。」
「ああ、楽しみだな。」
ベンが振り向き、明るい顔のサトミにヘンッと笑う。
知らず足を急がせ、川沿いに斜めになった半壊のマンションの立ち並ぶロンドが見えてくると、とうとう走り出した。
ロンドは爆撃の跡も激しく、町も荒れ果てていた。
しかし、人々は復興に忙しく、町には市も立って活気がある。
サトミはベンを降りて歩きながら、辺りを見回した。
「どうだ?」
「ダメだ、匂いだけじゃ見当もつかねえ。誰かに住所で聞いてみる。」
「住んでた?」
「俺、昔目が見えなかったんだ。家の回りを杖で歩いてたから、景色なんて知らない。」
ベンが目を丸くする。
いままでの会話から察するほどベンは利口ではない。
だから声の事しか家族の話が出なかったのかと、ようやくここでわかった。
道行く人に聞いて、サトミの言った13区画はもう少し先の、ロンドでも中心部だという事がわかりベンに乗って急ぐ。
ここには大きな爆弾が落ちたらしく、町の中央に大きなクレーターがあいてひどく不安になった。
生きているだろうか、無事に家族はそろっているだろうか。
時々立ち止まって道を聞きながら、ようやく家が建ち並ぶ13区画に行き着いた。
サトミがベンを降り、小さな古い家が並ぶ町並みに目を閉じる。
パン屋や料理屋からの香りが、確かに懐かしい。
通りを歩きながら、自分の家を探して記憶を探る。
あの頃は、匂いと土に触れる足の感覚や杖の感触、風の動きで、今どこに自分がいるかを計っていた。
パン屋の匂いがあって、それから五軒目の角。
曲がって小道を轍にそって歩いて5分。
左手を伸ばして歩けば、そこに親父が作った目印の門柱……
あった
低い位置にあるそれを、さわると確かに大きな切れ目を入れたトーテムポールが触れる。
「ハハッ、俺って少しは背が伸びたんだな。」
小さな家の横には、小さな畑。
いつも母さんが大事に野菜を育てては、それをみんなで分け合って食べていた。
しかし、なぜかそこは荒れ果てて雑草が生い茂っている。
嫌な予感に駆られ、ベンを残し恐る恐る玄関のドアへと近づきドアを叩いた。
「父さん!母さん!サトミだよ!帰ってきたんだ!」
返事はない。
いつもなら明るい声が返ってくるそこからは、静粛のみがひびく。
そっと井戸のある畑側に入り、窓から顔を覗かせた。
中はガランとして、何もない。
『今更帰っても居場所なんかあるもんかよ』
見送ってくれた同じ部隊のジンの声が、遠く耳に響いた。
呆然と立ちつくし、辺りを見回す。
振り向くと、門柱の裏にある小さな郵便受けには、雨で角が濡れてヨレヨレになった数枚の手紙が見えている。
フラフラと歩いていってそれを取ると、最初の数枚以外のすべてが、自分のつたない字が雨ににじんでいる自分からの手紙だった。
中は見なくてもわかっている。
ずっと何度も、家族の写真が一枚でいいから欲しいと、両親に頼む言葉でつづられている。
一度も返事はこなかった。
同僚が家族からの手紙を楽しみに受け取るのを横目に、サトミはずっと一方的に書き続けるしかなかった。
軍に入るのを最後まで反対されただけに、怒っているのだろうと思ったけれど、せめて一枚写真が欲しかった。
家族の顔を、写真で良いから見てみたかった。
みんなの顔も知らず、どうやって捜せば良いんだろう……
途方に暮れた。
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