速達配達人 ポストアタッカー 新1 〜ポストアタッカー狩り〜

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第10話 ヤバいと天から声がする

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キャミーが手を合わせて頭を下げる。

ええ~~
マジでそんなに頼まれてもさ~~、まだ俺何もしたくねえんだよなあ。

だいたいさ、今までは命令だったし。
クソみたいな上司に、殺す奴の指示を受けるだけだったの、嫌気が差して辞めたんだけどさ。

「他の奴に頼めばいいじゃん」

「私は、君に頼んでるのよ。サトミ・ブラッドリー」

「ふうん……」

ちょっと考える。

「でも俺さ、殺しちまうぜ。さっき見ただろ?」

ああ!と、キャミーがポンと手を打つ。

「ゴム弾の支給やスタン銃とか、」

「俺、銃じゃ無いんだよなあ」

「銃……じゃ、ない??」

「これ」

刀をちょっと抜いてみせる。
彼女はあまりにリーチの短いそれに、ポカンと口を開けた。

駄目よっ!そこでめげてはポストエクスプレスの名折れ!
武器の問題は先送りよっ!

「いえ!大丈夫です!局内にはセキュリティ開発部があります。
責任者は変わった奴ですので、なんか考えますので、ご心配なく。
あと、強盗相手です、仕方ない時は殺しても合法です。
まあ、言葉のあやって奴ですが、……そう!とりあえず、読んでみて下さい。
ポストアタッカーに関する政府との合意書です。
毎年改訂されますが、この赤札付いてるのが重要事項。
あとはまあ一般的な、ごく普通の郵便業務。」

なんだか、辞典並みに分厚い本をサトミに差し出す。

「あ、ごめん。俺さ、字が読めねえんだ。」

「え?!えええーーーー!!ウソでしょ?この国の識字率9割超えてんのに?」

「まあ、その1割なんだわ。だからさ、今までレコーダーに入れてもらってた。」

「な、なんですってえ……じゃ、宛名とかわかる?」

「まあ、名前と地名ぐらいは。簡単な単語とか。数字はわかる!計算も出来る!」

おーー、パチパチパチ

「十分だわ、わかりました。重要なとこ読んで吹き込んだのお届けします!
とりあえず、一応この本持って行って!地図とか管轄記してるとこあるから。
ほら、赤で囲ってるとこ、青は隣の局ね。」

ドスンとサトミの胸に分厚い本を差し出した。
が、サトミはニッコリ笑顔で受け取らない。
キャミーが満面に笑みを浮かべ、ぐいぐいぐいっと押しつける。

「おーねーがーいーーーーー」

「やーーだーーっ!!」

「レコーダーと、とびきり美味しいお菓子届けるから!」

「えっ?!マジ??」

「マジー、マジマジ!デリー郵便局の友達にとびきりのとこの買ってきてもらうから!」

「隣町じゃん!お店がいっぱいあったとこ!」

「オッケー?」

「オッケーーッ!!」

エサに釣られて、サトミが受け取った。
パッとキャミーの顔に花が咲く。

「ありがとう!ありがとう!とっ、とりあえず見てみて!体験入局も歓迎!」

「相棒にも聞かないとさ、気が向かなかったら捨てるー!」

「あっ!捨てる時は郵便受けに!こちらで回収します!相棒さんにもよろしく!」

キャミーが慌ててドーナツを入れてきた袋にドーナツ、ポンポン放り込み一緒に押しつける。

「私の愛、相棒さんと一緒に食べて!そんでご一考お願いします!
レコーダーは明日届けるから!」

まあ、相棒は食わねえよなあ、馬だし。

「ま、美味かったし貰っておくさ。じゃあな。お菓子楽しみにしてる!!」

「了解!よろしく!超よろしく!」

部屋を出ると、窓口は通常に戻って、何も無かったように客も戻っている。

「みんなタフだなー、さすが国境の町」

笑って、郵便局を出てベンの所まで歩いていった。



馬繋ぎ場に、まだポリスの車が停まってる。
サトミに手を上げると、ポリスの1人が歩み寄ってきた。

「さっきは世話になったな。へぇ、アタッカーにスカウトされたのか。
知ってる?今郵便局大変なんだぜ?」

「知らねー、今スカウトされたバッカなんだ。」

「アタッカー狩りだよ、こないだ1人、ひでえ死に方したってさ。
今アタッカーになるなんざ、命知らずもいいとこだろうさ」

「へぇ、ふうん」

「やめとけ!まだガキなんだ、学校にでも行け!」

「ハハッ!情報サンキュー!」

ポリスのおっちゃんと別れ、ベンの元へ行く。
鞍にあるバッグに合意書って奴を入れて、ドーナツも入れた。
郵便局を眺めながら、ベンを引いて馬繋場を出る。
のんびり歩いてると、ベンがドスンと小突いてきた。

「乗れ。お前の足は短い」

「はっ、お前に言われたかねえよ。」

ベンに乗ると、トコトコ小走りし始める。

「なあ、郵便局に入らないかってさ。
手紙の配達、各家を回って手紙や小包配達して回るんだ。
お前、わかるかなあ……どうよ。」

「知らん、好きにしろ」

「そっか、なあ、ちょっと遠出しようぜ。」

そう言えば、あのキャミーって子は橋の向こうから走ってきたよなあ。
一度行ってみようかとベンを走らせ、町を抜け、郊外を走り、橋にベンを向けた。

が、ベンの足が止まる。

「どした?向こうの町行ってみようぜ。」

湖にかかる橋は2車線で、高い主塔にワイヤーロープが美しく並んだ吊り橋だ。
川から見ていたときは小さく感じたのに、実際来ると意外と広い。
だが、ベンはブルブル鼻を鳴らして後に下がり、くるりと勝手にきびすを返してしまった。

「帰る」

「え、なんで?!仕事は橋の向こうまでだぜ?」

「ヤバいと天から声がする」

「はあ?……まさか、まさかお前、橋が怖い?」

突然ベンの耳がピンと立ち、町の方へだあっと走り出した。

「ええええ!!!ちょっと待てっ!こら!」

ビッグベンは、高所恐怖症の馬だった。
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