速達配達人 ポストアタッカー 新1 〜ポストアタッカー狩り〜

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第12話 一生!ニンジン食う物かっ!

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カリヤ婆ちゃんは、気になっていた。
お隣のサトミの様子がおかしい。
おかしいと言うのは、別に夜中銃を乱射するとかそう言う類いでは無く、

「おええええええええ!!!げえええええええ!!おえっ、おえええ」

って声が昨日から聞こえるのだ。

「お腹でも壊したかしらねえ。様子を見に行こうかしら。」

昼過ぎの一時を、新聞読んで過ごしていた婆ちゃんは、老眼鏡を置いて立ち上がった。
とりあえず、息子が送ってくれた桃の缶詰を一缶握る。

「サトミちゃんは甘いのが好きだからね。」

桃缶抱っこして、お隣に向かう。
ドア前に立つと、あの声が聞こえた。

「げえええええ、おええええええええ!死ぬ!もう駄目だ!死ぬう!!」

コンコンコン

「サトミちゃん?お腹壊したの?」

「婆ちゃん、ちょ、ちょっと待ってぇ、」

何だかか細い声が中から聞こえる。
カチャンとドアを開けて、幽霊のようにげっそりしたサトミが、涙をいっぱいためて顔を出した。

「婆ちゃん、婆ちゃん、ヘルプミー……」

「あらあらあら、まあまあまあ!」

婆ちゃんが、かじったニンジンの散乱したテーブルに、切って茹でただけのニンジンを見る。
口直しのお菓子はすでに食い尽くされ、箱だけ転がっていた。
クスンクスン泣いているサトミに、桃缶開けて食べさせると、やっと落ち着いてくる。
サトミは友達との賭けの話しをして、毎日5本のニンジンに昨日から苦闘していることを泣きながら話した。

「わかったわ、男の約束なら仕方ないわね。
婆ちゃんが嫌いな子にも食べやすく美味しく料理してあげる。
うちの子もニンジンが駄目でね、随分苦労したのよ。懐かしいわあ。
今日の分はこれだけね?
あとでうちにいらっしゃい、晩ご飯の分まで作ってあげるわ。」

「はあああああああああ!! 婆ちゃん、大好き愛してる」

サトミのうるんだ目には、カリヤ婆ちゃんの頭に金色のリングと、背中に真っ白な羽根が見える。
両手をしっかと合わせて拝み、これからは婆ちゃんをプリンセスと呼ぶことにした。


それから4日後、キャミーは今だ返されない合意書に、様子見にサトミの家に向かった。
サトミの家は、この辺の地区担当の通常配達員に確認済みだ。
以前は朝早くから畑や馬屋の掃除しているところを見かけたと言うが、最近は姿を見ないらしい。
逃げられたかと不安ではあるけど、近所に聞いたら夜に電気は付いてるよと言うので留守ではないようだ。
とりあえず男の家に女一人でと言うのもアレなので、ヒマそうだった一般職員のかわいい系女の子ミリルも連れてきている。
まあ、色仕掛けじゃ無いけど、ウインクの一つくらいサービス出来る。

「ねえねえキャミー、ここじゃない?ほら、入ったところにトーテムポールっぽいの。」

「家の左横に小さな畑、奥に馬屋。うん、ここね。」

「じゃあ、玄関のドアノックしてみる~」

「ちょい待ち!」

「え~なんでよ。」

「こう言うヤバ目の奴ってさ、めっちゃ警戒心凄いのよ。
軍上がりの奴のとこ配達行って、ドア叩いたとたん矢が飛んできたこともあるんだから。
だから気楽に敷地に入っちゃダメよ。」

「じゃあどうすんのよ。」

女2人でヒソヒソ話し合う。
どうした物か悩んでると、横を痩せた小さなお婆ちゃんがすうっと入っていった。

ドンドンドン!

「サトミちゃん!サトミちゃん!女の子が来てるわよ!サトミちゃんいる?」

激しくドアを叩く婆さんに呆気にとられていると、ギイッとドアが開いた。

「カリヤ婆ちゃん、ちっせえ家なんだから聞こえるってば……ふうん、来たんだ。」

「どしたの?なんかげっそり痩せたような。」

サトミがため息交じりに顔を出す。
頬がこけて目つきが鋭い。まるで殺し屋、怖いくらいだ。
思わず後ずさる女の子2人をよそに、婆ちゃんは平気で中に顔を出した。

「サトミちゃん、丁度いいから昨日のお皿貰っていこうかしら。
今夜はどうする?昨日で終わりだったんでしょ?」

「ああ、婆ちゃん、助かった~終わりだよ終わりー!
今夜はシロイのおっちゃんとこに行って、ごちそうするよ。
おっちゃんには今朝、にんじん抜きで予約入れてるから。
プリンセスにはお世話になった礼しなきゃ!
えーっと、キャミーだったっけ?あんたらもどう?」

「んまあ!!ほんとにいいのかい?!
いやだ、シロイ亭のご飯なんて久しぶりだよ!それじゃ夕方ね!」

カリヤ婆ちゃんは、ほくほく顔でサトミに返されたお皿を手に家に戻って行く。
サトミは頭をバリバリかいて、2人を中へ案内した。

「何もねえから茶とか出せないぜ。コップが俺のしか無いんだ」

「大丈夫よ、お構いなく~、わー、馬??なんで馬がここにいるの?」

「寂しいんだろ」

「馬が??」

怖々2人が中に入ると、居間にはクッションに馬が寝て部屋の端に小さなテーブルに椅子が2脚。
足が折れた椅子が一脚。
小さなキッチンはミルクパンとフライパン一個しか無い。
最低限すぎる。

「はあ、なんか、家の中何も無いんですね。」

サトミはココアを飲んでいたのか、テーブル上のココアとでっかい砂糖の袋と牛乳を直して流しに寄りかかり、カップを握って残りを飲み干すと、椅子を勧めた。

「まあ何も無くても、俺はミルクと砂糖たっぷりの白いコーヒーとココアあればいいし。
その、合意書返すよ、問題解決したし。」

「問題?」

「んー、いろいろあってさ。こいつと取引したわけ。」

「はあ?馬と取引?」

キャミーたちの頭には、?マークが飛び交う。
サトミはキヒッと笑って、バンッと重い本とレコーダーを返してきた。

「ま、そう言うわけで、無事入れそうって事さ。
はい、これレコーダーと合意書。いい声だったぜ。」

「ほんと?ほんとに入ってくれるの?
あの、実はさ、言わなかったことがあって……」

キャミーがうつむき加減でサトミの顔を伺う。
でも、彼はチチッと指を振った。

「危険とか今更言うな。俺はガキだけど軍にいた、それでいい」

「でもね、危険の度合いがさ……」

「入ってから聞くよ、俺は今、まだ一般人だ。秘匿事項を聞く立場に無い。」

その言葉が、いかにも軍人らしくてキャミーがくすりと笑う。

「キャミー、やったじゃん」

「イエイ!」

キャミーがミリルと、パンと手を合わせる。
その夜カリヤ婆ちゃんとキャミー達は、サトミとシロイ亭でにんじんが入ってない食事をとった。

「カンパーイ!」

「やだ~!マジ入ると思わなかったー!」

「はあ?誘ったのそっちだろ?」

「キャハハハハ!だって、怖かったんだもーん!」

キャミーが嬉しそうに酒飲んでパクパク食ってる。
本心聞いて、苦笑した。

怖いからと、ガキにやらせようというその魂胆がっ!

「ひでえ……ま、いいけど。」

ひでえ奴だが、彼女は気さくでいい奴だ。
俺を子供扱いしないところも気に入った。
カリヤ婆ちゃんとサトミはジュースで乾杯して、辛かった日々を思い返しながらモソモソ食う。

「美味しい。美味しいねえ、サトミちゃん、就職したらまた連れてきておくれよ。」

「いいぜ、婆ちゃん!プリンセスには接待接待!」

「やだよぉ、この子はホホホホホ!」

天使が幸せそうにホクホク食べてる。婆ちゃんは、俺が隣に帰ってとても嬉しそうだ。
俺としても、近くに誰かがいてくれるのは気分的にラクでいい。
今回の件で、俺は1つのことを心に決めた。

俺はっ!もう2度とっ!いや、もう一生!ニンジンなんか食うもんかっ!!

今朝、サトミはベンを橋まで連れて行き、約束の渡り初めを果たしていた。
ベンも軽くなったサトミに文句も言えず、約束通り一気に渡り、そして戻って来る。
ベンはしばらく放心状態で、だが、フッと正気に戻ったら鼻を鳴らしてこう言った。

「やればできる馬」

と、言うわけで渡ってみたらそうでも無かったらしい。
仕事終わりは必ず「にんじん好きなだけ」を約束して、彼は正式にポストアタッカーへと就職を決めた。
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