赤い髪のリリス

LLX

文字の大きさ
10 / 53

第10話 旅立ち

しおりを挟む
「双子世界のこちら側の影響じゃ。
こちらの世界の自然破壊が異常に進んでいる。
最低限の我ら4人が残るだけで精一杯じゃ。
他に王と呼べるほど力の強い精霊は皆、双方の世界を保つために命を自然に返して散った。」

爺さんがフッと寂しそうに漏らした。

「何か、あたし等が悪いみたい」

何だかアイ達はばつが悪い。

「ドラゴンは精霊として統べる力を自由に操ることが出来ます。
アトラーナは古くから精霊の国。
我が王はそのドラゴンマスターとなり、多大な権力を他国にも誇示することによって、こちらの世界での覇権争いを避けているのです。
それでアトラーナの王位継承者は十三才になると、ラーナブラッドと言う宝石に、それぞれのドラゴンから忠誠を約束する証の祝福を受ける旅に出るのです。」

ふうん、何となく、3人が爺に目が行く。

「で?爺さん、ドラゴンと関係あんの?」

「わしはドラゴンの一人じゃ。」

「…………」

疑いの目。

「何じゃ、その目は?
用務員とは仮の姿、我こそは地を統べるドラゴン、グァシュラムドーンなり!」

「…………」

思いっ切り疑いの目。
この偉そうに胸を張る、くたびれた爺がドラゴン?精霊だあ?ただの用務員の爺さんがあ?

「じゃあ、何でこっちの世界にいるんだよ!
それが迷惑の大元だろ?」

「わしは地の主、空間使い、どこにいようとまったく関係ない。
この学園の理事とは古い知り合いなのだ。
まあ、何にも囚われん生活も良い物よ。」

「理事長とお?!ンで、こっちで遊んでんだ!
で、誓いってどうすんの?」

「そうだ!僕の宝石を返せ!グァシュラムよ、まずはお前から頼むぞ!」

アイが思わずポケットの中で石を握りしめる。
返した方がいいのだろうけど、こんなバカ王子に返したくない。
ドカドカ四つ足で、間違えてヨーコに迫る王子に、しかし爺は冷たい言葉を言い返した。

「お前さんには悪いが、忠誠など誓えぬな。
王としての自覚が足りぬ。修行不足だ。」

ガーーンッ!!

王子のアゴが、床まで落ちる。
それじゃ話が違うよ!一番楽なところからと、ここへ一番に来たのに!
何しろ、会いさえすれば祝福してもらえると、甘い甘ーい考えだったのだ。

「修行って、僕はちゃんと勉強も、剣も、王としての修行をしてる!してるのに」

思いがけないことを言われ、ショックでダアッと王子の目から涙が溢れる。

「王子よ、お前は人としての勉強が足りぬ。
厳しい自然に洗われて、もう一度来るが良い。
水と火に会って来い。
あの2人が認めたならば、わしも認めよう。」

項垂れる王子が、ぶつぶつと呟く。

「やっぱり、お前のせいだ。リリスが宝石をすぐに取り返さないから!お前のせいだ!」

王子がいきなりリリスに飛びかかった。

「あっ!お許しを!」

「やめろ!」ザレルが王子を遮り、両手を掴んで自由を奪う。
そのあまりに見苦しい姿に、一喝しようと爺が息を吸った、そのとき

バッシイッ!!

王子に平手を打ったのは、怒りに震えるヨーコだった。

「この、バカッ!!あんたのそんな考えが人間として未熟だって、言われなくてもわかんなさいよ!
リリス様に手を上げようとするなんて!
こいつ、ぶっちらばったる!」

すでにヨーコの中ではリリス様になっている。燃えるその背中には、リリス様命の文字が見えるようだ。

「わあああ!!この女、僕を叩いたなあ!」

「何回でも叩いてやるわよ!このバカ王子!」

「ヨーコ、ちょっと、落ち着いて。」

アイも吉井もあまりの迫力にタジタジだ。
彼女は今時4人姉弟の一番上。髪は金髪だが、忙しい親に代わり弟たちのしつけはビシバシやっている。

「んもう!こんなバカ王子に任せられないわ!
あたし河原の迎えに行く!リリス様に付いて行きます!」

「ヨーコ、ンな事言ったって」

「分かった、俺も行く!
あいつを無事に連れて帰らないと、俺、あいつの母ちゃんに顔向けできねえ!俺も行く!」

「ちょっと、そんなあ!じゃああたしも行くわよお!河原の上着脱がせたのあたしだもん!河原の迎えに行くわ。」

「冗談じゃない!何故お前達が来るのだ!
これは遊びではない!まして、身分の低いお前達が何故王子の私と!」

ガーガーわめく王子の横で、ふうん、と爺が面白そうな顔でリリスを見る。
戸惑うリリスは無言で爺に諭され、微かに頷いた。

「なるほど、それは良い考えだのう。
リリスに王子のしつけまでは荷が重い。
思うことがはっきり言えるお前達は丁度良いかもな。毒をもって毒を制すじゃ。」

「誰が毒よ!まあいいわ。でも、家はどうする?親に言っても許しちゃくれないっしょ?
これじゃ、プチ家出で済みそうにないし。」

「それはわしに任せよ。お前達、髪の毛を何本か引き抜け。河原とやらはその上着でよい。」

何をするのか爺は髪と上着を受け取ると、土間にぽいっと放り出した。

「土塊よ、仮初めの命を宿し、鏡となれ。」

にゅうっと土が盛り上がって、見る間に人型を取る。やがてそれは、生き生きとしたアイ達四人の姿になった。
げえーっ!何だか気持ち悪い!

「はあー、良く似てるう!」

「これがお前達の留守を守る。安心して旅立つがよい。と、その前に。
王子よ、その悪趣味な服を着替えて、この服に着替えるがよい。それは旅装束ではない。いくらかこれがましだ。」

そう言って爺が差し出すのは、この学校の体操服にジャージ上下だ。

「な、何だと?!どうしてそんな物を!
ドラゴンは綺麗な物が好きなんだろう?
それに僕はこれがお気に入りだし、何より王子としての身だしなみがあるのだ。
あっ!わああっ!何をする!無礼者!」

爺が人形達に一瞥すると、王子に一斉に飛びかかる。そして見る間に着替えさせてしまった。

「身だしなみも程々にせい、ドラゴンを見くびるな。我らが見るのはお前の精神世界だ。
まあしかし、わしにはお前達の未来など、とうに見えておるがな。」

「ええっ!」未来が見えている?

「それで、もちろん僕は王座についているのだろう?」

自信なさそうに王子がそうっと聞いた。

「そう、思っているのか?」

ニッと笑う爺の顔が、何だか怖い。
王子の顔がサアッと真っ青になり、これ以上はとても深く聞く事が出来なかった。

 「では、これで失礼いたします。」

ぶつぶつ呟く王子を連れて、リリスが爺に挨拶すると皆が立ち上がった。出発の準備を済ませて、靴を履いて土間へ降りる。
爺はアイ達に、リリスに迷惑を掛けないようにとリュックに生活必需品を詰め込み、持たせてくれた。

「申し訳ございませんが、こちらに門を開けてよろしいでしょうか?」

「いや、お前は力を温存するがいい。
わしが開けてやろう。」

爺がそう言って、スッと玄関のドアに手を伸ばす。

「とこしえに、まみえる事の無い表裏の世界よ。黒き瞳を開き、輝ける迷いの道を開け。
このグァシュラムドーンの名の下に。」

何の変哲もない木のドアが、まるで自動ドアのように音もなく開く。
しかしその向こうは、外ではなく真っ暗だ。

「ありがとうございました、では」

「リリスよ、待て、こちらに来い。」

「あ、はい。ザレル、先に行ってください。
私は後ろを守ります。」

首を傾げながら、リリスが爺の前に出る。
爺はリリスの手を取り、ギュッと握りしめた。

「お前には負担が増えたろうが、リリスよ。
お前もあの子達から学ぶことは沢山あるぞ。
心をもっと解き放て、お前は自由なのだ。」

自由……私は自由のつもりだ。
リリスにはドラゴンが何を言っているのかよく分からない。しかし彼は、にっこり微笑み頷いた。

「どうぞ、ご心配なく。御師様からいただきましたこの力、自由に使いこなしてこの大役、見事果たして見せます。」

「そうか……分かった、行くがよい。」

「はいっ!」

リリスが振り向きもせずに瞳の暗闇へ入ってゆく。爺はそれを見送りながら、寂しそうに呟いた。

「リリスよ、お前が学ぶのは、お前がこれまで捨ててきた事ばかりなのだ。」

スウッと戸が閉まり、門が閉じる。
爺はくるりと部屋に上がると、王子の服を拾い上げ、ゴミ箱にぽいぽい放り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

灰の街の灯火と、名もなき英雄

にゃ-さん
ファンタジー
「英雄なんて、もういらない」 滅びかけた異世界〈グレンヘイム〉に転生した青年リオは、過去の記憶と引き換えに“世界の欠片”を託された。荒廃した街、心を失った住人たち、光を信じなくなった国。だが、灰の中でも灯は消えていなかった。 リオは仲間とともに、滅びの真実を探す旅へ出る。 守るためではなく――“誰かをもう一度信じるため”に。 運命に抗う者たちが紡ぐ、再生と希望のファンタジー。

処理中です...