赤い髪のリリス

LLX

文字の大きさ
42 / 53

第42話 王子の器

しおりを挟む
「バカな!お前は知らないんだ!僕がどんなに怖い目にあったか!それを不問にだと?」

「は い、 どうか……国を、乱しては  それ、だけは、避けて……」

言いたいことが沢山あるのに、リリスに重く睡魔が襲う。
ようやく開けた瞼は、どんなに抗っても二度と開いてはくれなかった。

「バカな!僕をバカにするのか?不問にだと?
あんな、あんな目に遭わせて、不問にだと?」

「そうだ。それが王としての采配だろう。」

ザレルが後ろからぼそっと呟く。
キアンは勢い良く振り向き、先程まで恐ろしい殺人鬼だった男を睨み付けた。

「お前が騒ぎを大きくしたんだ!
平気で人を殺して!しかもお前の主は誰だ?!
僕じゃない!お前はリリスに仕えているんだ!」

「キアン、静かにしなさいよ、怪我人の前よ。」

ヨーコがプイと顔を背ける。

「ヨーコ!お前も見ただろう?あれを無かったことにしろと言うのだぞ!この愚か者は!」

「あんた、よく考えなさいよ。これってさ、叔父さんとお父さんの権力争いじゃない?
それで国を分ける戦争になったらどうするの?
今はあんたさえ我慢すればそれで終わる。
そう言いたいんだよ、きっとリリスはね。
あんた、ここで許せるかどうか、王子としての器の大きさ試されてるんだよ。」

「器だと?!誰に?!」

「そうだね、神様かな?」

「神?神位の者が?何を馬鹿な、 神?精霊王?え?神?だと?」

キアンが次第に肩を落とし、神という言葉に真剣な顔で考える。
ヨーコの言葉は重いが、少し頭を冷やせば容易に考えつく。きっとリリスが言いたかったのはそのことだと思う。

理由はどうあれ叔父上は、息子に王位を継がせるべく、僕の命さえ狙ったのだ。
それが表立つと、この静かな国に何が訪れる?
僕は、みんなに平和に暮らして欲しい。
戦争を、僕はたった今経験したじゃないか。

あんな事、もうまっぴらだ!

そうだ、こんな時に頭を冷やさないでどうする。冷静に、冷静に。
ヨーコの言うとおりだ、僕は強くならなきゃ!

「ヨーコ。」

「ん?」

「分かった。僕にも分かったよ。」

「そう、良かった、あんたバカじゃないよ。」

「でさ、僕、失恋したんだ。」

「へえ、あのお姫様?可愛かったもんね。
で、あんた本当に好きだったの?」

「え?!」

思いがけない言葉に、キアンが改めて考える。

「好き……だったのかな?でも、ショックだったよ。」

「あーあ、男ってみんなそう!
見かけでふらふら、それで後んなって失敗したとか抜かしてさ、責任転嫁しながら不倫するのよ。
バッカみたい。」

何だか分からないが、きょとんとして、キアンがクスクス笑い始めた。

「フフフ、お前に言わせると、みんなバカなんだな。本当に、バカなんだな。」

「バカよ!バカ!あーあ、あんたもバカ!
主のために命捨てるあの男達もバカ!人をポンポン殺すザレルもバカ!
自分の命を軽く扱うリリスもバカ!バカばっか!!」

カチャッ!

ドアが開き、そっとアイ達が入ってきた。
ようやく落ち着いたものの、真っ赤に腫らした目をして顔をこわばらせている。

「ヨーコ、あたし。」

「分かってる、帰りたいって言いたいんだろ?
河原とも会えたしね。」

「ん。だって、ここ怖いもん。」

吉井は、しっかりアイの肩を抱いている。
河原はその後ろで、ヨーコと目が合うとスッと視線をそらした。

「わかった。でも、あたし最後まで付いて行くよ。」

「ヨーコ!一緒に帰ろうよ!どうして?」

「あたし、何にも出来ないけど、どうしても放っておけないんだ。バカばっかだからさ。」

「ヨーコ。」

がっくりと、アイが肩を落とす。
それでも、予想していたのかもしれない。
心の片隅で、やっぱり!と小さな声が聞こえた。

「俺、俺も行くよ。」

河原がツカツカと二人の前に出た。

「俺、これでもここの暮らしに慣れてるし。帰るのが今になるか、ちょっと後になるかの話しだしさ。
それに肝心のリリスがこれじゃ、向こうへの出口も開けられないじゃん。」

「あ、そか」

リリスの真っ白な顔にアイがまた肩を落とす。
自由に行き来できないのは本当に煩わしい。

バーンッ!

「きゃん!」

いきなり肩を抱いていた吉井が、アイの背を思い切り叩いた。

「わかった!ほら、おめーも腹くくれ!みんな一蓮托生よ!」

「何?いちれん、えーと、
もー!いいわよ!もう!しらない!」

アイがダッと部屋を出ていく。

「いいのか?」

ザレルが人ごとのようにぼそっと漏らす。

「いいのよ!どうしようもないんだし、今はあんたがやらかした斬り合いにびっくりしただけだから。
一晩寝たら落ち着くわよ。」

ザレルが疲れたのか隣のベッドに腰を下ろす。
リリスの怪我に、あれ程うろたえたのだ。
彼にとってリリスは、やはり大切なのだろう。

「ね、ザレルってさ、リリスとどういう関係?」

ヨーコの言葉にパッとキアンが顔を上げ、ザレルの顔を見つめた。
ザレルがゆっくり首を巡らせ、徐々に明るさを持ち始めた暗い空を窓から眺める。

「これは、俺の、 師だ。」

「師?ザレルの?お師匠さん?年下なのに?」

「そうだ、心の、と言える。
昔、俺が狂獣と呼ばれていた頃、俺は人を切ることが快楽になっていた。」

「ゲッ!マジ殺人鬼?」

「そうだ、騎士という殺人鬼だ。
その頃、師に連れられていた、これに会った。
まだ十にも満たないこれは、闘技場で血だらけの俺から剣を取り上げ、一緒に旅に出ようと無理矢理引っ張った。
それはしつこく、まだ間に合うとな。
仲間に笑われながら、俺はこれの笑顔にどうしても逆らえなかった。」

「あはは!マジ?!」

「でもよ、確かにこいつって、にこにこ笑ってンのに有無を言わさねえとこ有るじゃん。」

「あるある!あのニッコニコの笑顔が凶器よねえ。知らない内に付き合わされるの。
げえ!こんな所通れるか!って思うのに、文句言えないんだ。」

「それって、一番やっかいな奴じゃねえの?
俺、心配になってきた。」

河原が苦笑い。
ザレルが、思い出したのか珍しく笑った。

「これの旅は、想像以上に厳しかった。
子供だと侮っていたばかりに酷い目にあった。
当たり前に下げていた剣が無い事で、心の拠り所が無い辛さに恐怖心も大きく、俺は自分の小ささ、弱さがそこで改めて分かったんだ。
俺は、それから無闇に剣を使わなくなった。」

「ふうん 」

やっぱりリリス、凄い奴。
ちょっと、普通じゃないかも……

「でも、その御師さんって、良くそんな小さい子を旅に出すんだね。怖い人なの?」

フフッとザレルが笑う。

「これは、突然さっさと旅支度をして、では御師様行ってきますと出てゆく。
セフィーリアが泣きながら追いかけるのを何度も見たぞ。」

「やっぱり!それじゃ御師様大変だ!」

「あはははは!」

「ふふふふふ……」

みんな、何だか笑い出してしまった。
ドアがそうっと開いて、アイが顔を出す。

「なによう、みんなして楽しそうでさ!
あたし一人、ハチブじゃん。」

ヨーコがおいでと出迎える。
空は徐々に白んで長い夜の終わりを告げた。

「ああ、疲れる夜だったな。
みんなウソばかり一度に押し寄せて、もう、嫌なことはこれで最後にしてくれ。」

キアンはそう呟いてリリスの赤い髪にそっと手を伸ばすと、布団から覗く痛々しい白い包帯に目を伏せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

灰の街の灯火と、名もなき英雄

にゃ-さん
ファンタジー
「英雄なんて、もういらない」 滅びかけた異世界〈グレンヘイム〉に転生した青年リオは、過去の記憶と引き換えに“世界の欠片”を託された。荒廃した街、心を失った住人たち、光を信じなくなった国。だが、灰の中でも灯は消えていなかった。 リオは仲間とともに、滅びの真実を探す旅へ出る。 守るためではなく――“誰かをもう一度信じるため”に。 運命に抗う者たちが紡ぐ、再生と希望のファンタジー。

処理中です...