赤い髪のリリス

LLX

文字の大きさ
49 / 53

第49話 火と風

しおりを挟む
「うおおおおおお!!」

「キャ、ア、ア、ア、ア!!!」

「リリス!!」

白いミュー馬がリリスを追って、崖から飛び込む。

「馬が!」

「ギャオッ!!リーリ!」

ビョオオオオオ!!

リリスを追う馬の姿が風を切り、光を放つ。
そしてその光りは次第に人の姿を取り、白いドレスをまとった長い白髪の美しい女性へと変わった。

「我が愛し子よ」

落ちてゆくリリスの身体が宙に舞い、フワリと女性の手の中へと抱きしめられる。
女性は愛しそうにリリスの頬に頬ずりしてキスをすると、フレアゴートの前に飛んできてそのまま宙に浮き睨め付けた。

「フレア!お前は何をしたかわかっておるのか?
この子をここまで追いつめた、お前の真実こそ罪と知れ!」

「セフィーリア、何も語らなかったお前自身にも罪がある!
愛する巫女、リリサレーンを失った悲しみ、その魂の純潔さえ人間に汚された悲しみ。
お前などにわかるものか!」

「わからぬ!真実こそ正義と疑わぬ、お前こそを偽善者という!
人の子が親に認められぬ辛さがわかるか?
知らねば苦しむこともなかった!許さぬぞ!」

ゴオオオオ!!ビョオオオオオ!!

白髪を風に巻き上げ、金の瞳を燃え上がらせてセフィーリアの顔が怒りの表情を露わにし、嵐のように風が吹き荒れる。

「あの馬!まさか御師様?!まさか!」

「あれはリリスの師、風のドラゴンだ!」

「ええ!御師様、ドラゴンの一人だったの?!」

「聞いてないよ!きゃっ!」

「伏せろ!吹き飛ばされたら死ぬぞ!」

ザレルの叫びに、皆がその場に伏せて地面にしがみついた。
フレアゴートの炎が、弱まる気配も無くまた勢いを増して風に乗り巻き上がる。

「ようやく!ようやくリリサレーンがこの世に転生したのだ!
我が巫子の幸せ!我が叶えずして何とする!」

「この子はリリサレーンとは違う!
この子にはこの子の幸せがあると何故わからぬか!目を覚ませ、この子は巫子ではない!」

二人のドラゴンが、火花を散らして睨み合う。
それはいくつもの竜巻を起こし、この山の至る所に火を放って、木を根こそぎ抜き取り、土砂さえ巻き上げるほどに凄まじさを増していく。

「お前達、そこまでじゃ。」

いつの間にか地のドラゴン、グァシュラムドーンが、フレアゴートの頭上にいつもの用務員姿で浮いている。

「爺さん!浮いてるううう!」

「グァシュラム!」

二人のドラゴンがそれに気が付くと、スウッと火と風が嘘のように止んで辺りに静けさが戻った。
爺は、ニッと笑ってフレアゴートの前へ宙に浮いたまま滑り寄り、そして諭すように静かに語りかけた。

「フレアよ、お前が愛したリリサレーンは、巫子としての力が強すぎた。
それはお前の愛が強かった証じゃ。
しかしそれを悪霊に利用されたのはお前のせいではない。
確かに、わし等の力で解放できただろう彼女を殺したのはあの時の王であったが、いかに取り憑かれていたとはいえ、彼女は罪を犯しすぎた。」

「しかし!殺すことはなかった!」

「そうだ。しかし、彼女は王の娘。
それが知れるとせっかくの復興に水を差す。
人間は弱い生き物じゃ。心は風のように右へ左へと向きを変える。
だからこそ、彼女はこの国のために命を落とした。そう思えぬか?フレアよ。」

「わかっている!わかっているとも。あれは、死ぬとき微笑んでいた。
全てを諭して、あれは、喜んで死んで行ったろう。」

「彼女の願いは平和と人々の幸せ。
なのに今のお前は、国を乱してリリスさえ苦しめようとしているのだぞ、わからぬ訳があるまい?」

「わかっているとも!しかし、あれをないがしろにした、今の王家が許せぬのだ!
これから先も、我が巫子のあの美しい赤き髪と瞳を持つ子が、不幸な道を歩むのかと思うと気が狂いそうだ。」

フレアゴートの脳裏には、幾百年が過ぎようとも彼が愛した巫子の美しい姿が焼き付いている。
それは時がたつ事に美しく昇華し、そして自分を責め立てるのだ。
グァシュラムが彼の気持ちを察して、キアンの前に立った。

「キアナルーサよ。
真実を口伝で知るアトラーナ王は、赤き髪と瞳を持つ者を保護する義務があると思わぬか?
それが全ての罪を被って死んだ巫子への礼儀であり、あの時の王の願いではないのか?
それでなければ口伝として真実を残した意味がない。
お前の父王は、思いがけぬ我が子の姿に務めを見失ってしまった。
このような事、二度とあっては我ら精霊は巫子に顔向けできぬ。」

「は、はい、僕も父のしたことは許せません。
過ちは直すべきです。しかし、それは 」

「わかっている。
リリスも言うたはず、国を乱してはならぬと。
お前に何が出来るか考えよ。」

「私に、何か出来るでしょうか?」

「それがこれからのお前への宿題じゃ。
リリスがこれから、穏やかに笑うて暮らせたら、満々点よ!のう、セフィーリア!」

ふわっと、リリスを抱いたセフィーリアも下りてきた。
皆もその場にとうとう座り込む。
そしてセフィーリアに抱かれるリリスの無事に、ホッと胸をなで下ろした。

「フン!人間にどこまで出来るかしら?!
ああ、リーリ可哀想に!だから私は反対だったのよ!
もう!危なくなったら王子なんか放り出してきなさいって、あんなに言ったのに!
もう!もう!もう!!この子ったら!」

王子を放り出せって、、なるほど、聞きしにまさるチョー過保護ぶりだ。
まさか馬に化けて付いてきたとは。
あんぐり見つめるアイ達をよそに、セフィーリアはリリスをここぞとばかりギュッと抱きしめ、舐めるようにすりすりしている。

「さて、フレアゴートよ、いかがする?」

「王などどうでも良い、これが幸せであれば。」

本当は皆、ドラゴン達はリリスを王にしたいに違いない。
しかしそれがリリスをここまで追いつめたのだ。雰囲気が、キアンを認め始める。
ザレルは思わずグァシュラムに叫んだ。

「お待ちを!リリスは!リリスは確かに生まれついての王でございます!それを!」

「お前の気持ちも分からぬではない。
しかし、これは王を臨んではいない。
これはただ、両親を知りたかっただけなのだ。
ザレルよ、心は自由じゃ。しかし現実を見よ。」

ザレルががっくりと項垂れる。
そうだ。リリスは、自ら傷つきながら言ったではないか。
国を乱してはならぬと。

「これは我らが子、そして我ら精霊こそが親じゃ。
のう、フレアよ、それでよいではないか。」

ヴァシュラムの言葉に、フレアゴートが無言で頷く。

「あら、私はどうしようかしら?私の大切なリーリをこんな目に遭わせてくれて。」

セフィーリアはムッとしている。

「ほっほ!お前が一番この子の気持ちは分かっているであろう?」

「ふん!人間なんて、この子以外は大っ嫌い!」

「よく言う、一番人に接しているお前が。」

「この子の為よ、私達にはほんの一瞬過ぎ去ってゆく時間ですもの。何も惜しくないわ。」

グァシュラムはにっと笑い、キアンに歩み寄りその手の中のラーナブラッドに手を添えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

灰の街の灯火と、名もなき英雄

にゃ-さん
ファンタジー
「英雄なんて、もういらない」 滅びかけた異世界〈グレンヘイム〉に転生した青年リオは、過去の記憶と引き換えに“世界の欠片”を託された。荒廃した街、心を失った住人たち、光を信じなくなった国。だが、灰の中でも灯は消えていなかった。 リオは仲間とともに、滅びの真実を探す旅へ出る。 守るためではなく――“誰かをもう一度信じるため”に。 運命に抗う者たちが紡ぐ、再生と希望のファンタジー。

処理中です...