ロクデナシ短編集

三文士

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ロクデナシのタダシ

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 角の家の次男はロクでもねえ野郎だ。

 名前はタダシと言って字は正しいと書くのだが何ひとつ正しい事はない。歳は私よりも四つも上だがいい歳をして独り身の穀潰しだからか、幼い見た目をしている。流行遅れで襟のヨレたポロシャツに薄汚れたジーンズ。真冬でも日焼けしたサンダルを履いている。

 タダシはアル中で、病気の親父と猫狂いのお袋の三人暮らしである。親父がアパートをやってるから誰ひとり働かなくても暮らしていけるそうだ。だからタダシは昼間から酒ばかり飲んでいる。

 町をぷらぷらといつも千鳥足で歩きながら、酒の瓶と漫画雑誌を片手に歩いている。

 中学生が読むような漫画ばかり読んでいるので周りにいる同い年の男連中からはいつもからかわれている。

「昔はあんなんじゃなかった」

 という人もいれば

「昔からああだった」

 という人もいる。

 どちらにしろ、タダシはロクでもねえ男だ。

 働かず。結婚もせず。酒を飲み、漫画を読んでヘラヘラ笑うばかりである。

 もしもタダシが手のつけられない乱暴者などであればまた違っていたかもしれない。しかしタダシはただのロクでもねえ野郎なのである。だから余計に虫が好かない。

 そんなタダシと私のお袋が、最近妙に仲が良いのである。

 家に帰るとよくタダシがいることがあったし、お袋も頻繁にどこか外へ出かけている。妙に小ぎれいな格好をするようになった。腕を組んで映画館に入るところを見た、という人もいた。

 おかげで私は町内の男連中からずいぶんからかわれた。

 そんなわけがないと思ってお袋を問い詰めると、頬を少し染めて斜め下を向きやがった。吐き気がした。

「なんだってあんなロクデナシ!止めてくれ、頼むから止めてくれ」

 私が何度も畳に頭を擦り付けると、お袋は苦笑いしながら言うのだ。

「でもねえアンタ。タダシちゃんにも良いとこあんのよ。あの人ねえ、いつもオニギリこさえてくれんの。それが赤ん坊の頭みたいなデッカいオニギリなんだけどね。具の梅干しがね、種が取って入れてあんのよ」

「梅干しがなんなんだよ!止めてくれよ、恥ずかしいよ。止めろよ!色情魔!気狂いピエロ!うわー」

 私が泣いて頼んでもお袋は苦笑いするばかりで

「梅干しのねえ。種が全部取ってあんのよ。良い人なのよ」

  お袋はいっちょまえに女の顔でそう言うのである。たまったもんじゃない。

 そう言えば最近のタダシはやけに小ぎれいで丸々としてきた。やっぱりお袋と付き合っているからだろうか。

 そうしてお袋も、なんだか丸々としてきた。

 やっぱりタダシは、ロクでもねえ野郎だ。

 

 終
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