ロクデナシ短編集

三文士

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立ちション謝罪

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 コータって奴はいつも緊張するともよおしてしまう。ここぞって時に限っていなかったり何だかモゾモゾしてワケの分からない事を言ってしまったりする。

 人は良いが間が悪い。コータはそういう奴だ。

 そんなコータが恋をした。相手は地元でも有名なズベ公だったがコータからしたらちゃんと自分の相手をしてくれる初めての女だったからそりゃあもうゾッコンで。周りが手が付けられないほど惚れてしまっていた。

 ある日、仲間うちが近所の飲み屋の二階に集まっているとコータが遅れてやってきた。だいぶ遅れてきた上に何だか妙に居直っていて「ちょっとくらい遅れたってええだろう」という態度なのである。

 みんなも遅れてきた事は責めなかったが、こともあろうに例のズベ公を連れて来ていたのである。これには流石に一同、腹を立てた。

 その日の集まりは今度の祭りについて話し合う日で、予算だのなんだのと外部の人間に聞かれたくない話をする予定だったからだ。

「こんな時にテメエのオンナを連れて来る奴があるか」

 みんなからの非難轟々により不貞腐れたズベ公は仕方なく下の階で待たされる事になった。

 一時間ほどで話し合いは終わり宴会が始まった。みんな待ち兼ねたように酒を飲んでいる中、コータはそそくさと下の階へズベ公を迎えに行った。

 しかしなかなかコータが戻って来ない。心配した仲間が様子を見に行くと、なんとコータが四、五人の男と喧嘩していた。

 どうやら一人でいたズベ公をその連中がからかっているところに運悪くコータが居合わせてしまい、酒の勢いで殴り合いになったそうだ。

「ボンクラのくせに生意気だ」

 相手が一方的にコータを殴っていたので流石に仲間が止めに入る。若い連中の事だから話し合いなぞでは解決せず、結局大勢でのやり合いになってしまい、仲間内からも怪我人が出てしまった。

 上に残っていた連中が止めに入りようやくおさまった時には警察がくるほど大事になっていた。

 当の本人のコータは意外と軽傷でズベ公を探して聞き回るくらいの元気であった。

「馬鹿野郎!誰のせいでこうなったと思ってんだテメエ!あんなズベ公より前にみんなに言うことがあんだろ!」

 そう怒鳴られてハッと我に返ったコータはまた例のもぞもぞを始めた。みんな怒りや疲れで気が付いていなかったが、僕だけは「ああ、コータの奴もよおしてるな」と悟っていた。しかしどう考えても今は便所に行ってる場合ではない。さてどうするのかと思っていると、コータはおもむろに後ろを向き、ズボンのチャックをおろし始めたではないか。

「おいコータ!なにやってんだテメエ!」

 みんなが罵声を浴びせる中、コータはジョボジョボという音と共に白い湯気を股間から立ち昇らせた。

「今回のことは自分が悪かったです。みなさんご迷惑をかけてすんませんでした。諸々、責任は自分がとりますんで」

 ここ一番の立ちション謝罪であった。言い終わってもまだしばらくジョボジョボは続いていた。

 その場でもは、もう誰もコータに声をかけようとはしなかった。


 程なくして、コータが例のズベ公にあっさり振られたという噂を耳にした。だからと言ってまたコータに声をかけてやろうという人間は仲間内からは一人も出なかった。

 何しろあの謝罪シーンはそうそう忘れられないもんである。

 終
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