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烏の濡れ羽編 その3
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「お戯れを!ご主人様、お客様におやめくださるよう言ってください」
狼狽する天音。主人も同様である。
「先生、どうしました!?」
しかし当の煙十朗はのんびりとしたもので、身体をくねらせ手を振り解こうとする天音をニヤニヤと睨め付けている。
「ご主人。一連の怪異の正体が分かったよ」
「なんと!?もうですか!?」
「ああともさ」
「それは一体」
息を飲む主人と天音。煙十朗は彼の持つ火に顔を近づけて煙草に火を点けた。
「彼さ。この美少年が怪異だ」
「ふえ?」
これには両者とも驚いた顔をしたが、天音の方は即座にこれを否定した。
「お客様。いい加減なことを仰らないでください。僕が怪異ですって?なにを根拠にそんなことを」
「根拠などない。お前からは臭いがする。妖怪どもと同じ臭いがする。それだけさ」
これに天音が不自然なくらい大きな声で高笑いをし始めた。
「ご主人様。お聞きなさいましたか?こちらの方は誰の紹介か存じませんが、よっぽどペテン師だ!詐欺師だ!」
「……ううむ。先生。それだけではどうも……」
流石の主人もこれには怪訝な顔をした。
「信用できないかい。この霧ケ峰煙十朗が」
「いや……その……」
「そうなるとご主人。アナタは紹介した人間のことも信用していないということになるが……」
「とんでもない!全面的に信用しております!絶対です!」
「けっこう」
煙十朗は天音の目を見つめながら淡々と語り出す。
「さて、天音くん。キミを怪異だと言ったが正確にはそうでない。キミは、人間である」
「じゃあなんだってんですか!」
天音が、二重の意味で頬紅潮させている。恥じらいと、憤りがその顔色の中に燃え上がっている。
「まあ落ち着けよ、お天ちゃん。しかし、怒った顔も悪くない」
「お天……ちゃん!?僕は男子だ!馬鹿にして!」
天音はなおも手を振り解こうとするが煙十朗の束縛はびくともしない。
「おやおや。見かけよりじゃじゃ馬だね。力も強い。尋常の男なら逃げられているなあ。しかしこの霧ケ峰煙十朗はそう甘くない。さて、先も言ったがキミは人間だ。しかし、怪異と濃密に繋がっている」
「くぅ……」
「天音!?」
主人が青ざめながら後退りする。天音は美しい顔を歪ませて彼を睨みつける。
「逃げるな!大雑把業平!貴様の首を獲る為に僕は今の今まで我慢してきたのだ!」
「我慢?」
「そんな!天音!」
天音の我慢という言葉に煙十朗は引っかかったようだった。
「そうだ。このペテン師の言う通りだ。僕が一連の怪異を呼び寄せた。全ては大雑把業平。貴様を殺すため」
「おーおー。ご説明ありがとう。殺し屋さん」
「嘘だ……あんなに愛し合っていたじゃないか」
「それが嘘だ!誰が貴様のような好色なひひ爺いを!」
「おーおー。いいねえいいねえ。見えてきた見えてきた」
煙十朗だけが二人との温度に差がある。高騰する二人と、一定を保つ煙十朗。奇妙である。
「ずっと、ずっと我慢してきたのだ。気の弱い貴様が、怪異に疲弊することを。心が弱くなればいとも簡単に殺せる」
「はー。しち面倒くさい。そんなことせずパッと殺してさっと逃げればいいだろうに」
「先生!?」
大雑把業平は情けないことに顔を恐怖で歪め膝をわなわなと震えさせている。身動きのとれない華奢な少年とて、自分の命を狙っていると聞けば恐ろしくて身動きができなくなる。彼という人間はそれほど小心者なのだ。
「それをやらんのは出来なかったんだろう。お天ちゃん。キミは殺しの玄人ではない。ずぶの素人もいいところだ。ペラペラとよく喋るし。ついでに教えておくれ。誰に雇われた」
「それは言えない!僕だって殺し屋の端くれだ!雇い主は明かさない!」
「やはり誰かに雇われたのか」
「は!」
「なんと!」
天音は露骨に「しまった」という顔を浮かべてしまい、それを見た煙十朗はなおも顔をニヤけさすのであった。
「おおかた、ご主人が邪魔な奴がいて、それが雇ったどこぞの下っ端に、更にはした金で雇われたんだろう。下請けの下請け。末端もいいとこだ。ご主人、言っておきますが彼を締め上げても雇い主は分からないと思うよ。それで、この美少年をどうするね?殺すかい?逃すかい?」
殺す、という言葉に主人の大雑把業平は大層驚いた。
「そんな!先生!殺すだなんて!とてもとても」
「じゃあ逃すかい?ひょっとするとまたアンタを殺しに来るかもしれないよ?」
「それは困る!」
そんなやりとりを黙って聞いているような天音ではなかった。
「いい加減にするんだね。もう僕だって我慢の限界だ。ペテン野郎め。まずはお前から始末してやる」
そう、言うやいなや。烏森天抓音の顔がだんだんと変化していくのだった。
ギチギチ
みちみち
美しい顔がみるみる歪んでいき、鋭いクチバシと強付いた羽毛に覆われた。
続
狼狽する天音。主人も同様である。
「先生、どうしました!?」
しかし当の煙十朗はのんびりとしたもので、身体をくねらせ手を振り解こうとする天音をニヤニヤと睨め付けている。
「ご主人。一連の怪異の正体が分かったよ」
「なんと!?もうですか!?」
「ああともさ」
「それは一体」
息を飲む主人と天音。煙十朗は彼の持つ火に顔を近づけて煙草に火を点けた。
「彼さ。この美少年が怪異だ」
「ふえ?」
これには両者とも驚いた顔をしたが、天音の方は即座にこれを否定した。
「お客様。いい加減なことを仰らないでください。僕が怪異ですって?なにを根拠にそんなことを」
「根拠などない。お前からは臭いがする。妖怪どもと同じ臭いがする。それだけさ」
これに天音が不自然なくらい大きな声で高笑いをし始めた。
「ご主人様。お聞きなさいましたか?こちらの方は誰の紹介か存じませんが、よっぽどペテン師だ!詐欺師だ!」
「……ううむ。先生。それだけではどうも……」
流石の主人もこれには怪訝な顔をした。
「信用できないかい。この霧ケ峰煙十朗が」
「いや……その……」
「そうなるとご主人。アナタは紹介した人間のことも信用していないということになるが……」
「とんでもない!全面的に信用しております!絶対です!」
「けっこう」
煙十朗は天音の目を見つめながら淡々と語り出す。
「さて、天音くん。キミを怪異だと言ったが正確にはそうでない。キミは、人間である」
「じゃあなんだってんですか!」
天音が、二重の意味で頬紅潮させている。恥じらいと、憤りがその顔色の中に燃え上がっている。
「まあ落ち着けよ、お天ちゃん。しかし、怒った顔も悪くない」
「お天……ちゃん!?僕は男子だ!馬鹿にして!」
天音はなおも手を振り解こうとするが煙十朗の束縛はびくともしない。
「おやおや。見かけよりじゃじゃ馬だね。力も強い。尋常の男なら逃げられているなあ。しかしこの霧ケ峰煙十朗はそう甘くない。さて、先も言ったがキミは人間だ。しかし、怪異と濃密に繋がっている」
「くぅ……」
「天音!?」
主人が青ざめながら後退りする。天音は美しい顔を歪ませて彼を睨みつける。
「逃げるな!大雑把業平!貴様の首を獲る為に僕は今の今まで我慢してきたのだ!」
「我慢?」
「そんな!天音!」
天音の我慢という言葉に煙十朗は引っかかったようだった。
「そうだ。このペテン師の言う通りだ。僕が一連の怪異を呼び寄せた。全ては大雑把業平。貴様を殺すため」
「おーおー。ご説明ありがとう。殺し屋さん」
「嘘だ……あんなに愛し合っていたじゃないか」
「それが嘘だ!誰が貴様のような好色なひひ爺いを!」
「おーおー。いいねえいいねえ。見えてきた見えてきた」
煙十朗だけが二人との温度に差がある。高騰する二人と、一定を保つ煙十朗。奇妙である。
「ずっと、ずっと我慢してきたのだ。気の弱い貴様が、怪異に疲弊することを。心が弱くなればいとも簡単に殺せる」
「はー。しち面倒くさい。そんなことせずパッと殺してさっと逃げればいいだろうに」
「先生!?」
大雑把業平は情けないことに顔を恐怖で歪め膝をわなわなと震えさせている。身動きのとれない華奢な少年とて、自分の命を狙っていると聞けば恐ろしくて身動きができなくなる。彼という人間はそれほど小心者なのだ。
「それをやらんのは出来なかったんだろう。お天ちゃん。キミは殺しの玄人ではない。ずぶの素人もいいところだ。ペラペラとよく喋るし。ついでに教えておくれ。誰に雇われた」
「それは言えない!僕だって殺し屋の端くれだ!雇い主は明かさない!」
「やはり誰かに雇われたのか」
「は!」
「なんと!」
天音は露骨に「しまった」という顔を浮かべてしまい、それを見た煙十朗はなおも顔をニヤけさすのであった。
「おおかた、ご主人が邪魔な奴がいて、それが雇ったどこぞの下っ端に、更にはした金で雇われたんだろう。下請けの下請け。末端もいいとこだ。ご主人、言っておきますが彼を締め上げても雇い主は分からないと思うよ。それで、この美少年をどうするね?殺すかい?逃すかい?」
殺す、という言葉に主人の大雑把業平は大層驚いた。
「そんな!先生!殺すだなんて!とてもとても」
「じゃあ逃すかい?ひょっとするとまたアンタを殺しに来るかもしれないよ?」
「それは困る!」
そんなやりとりを黙って聞いているような天音ではなかった。
「いい加減にするんだね。もう僕だって我慢の限界だ。ペテン野郎め。まずはお前から始末してやる」
そう、言うやいなや。烏森天抓音の顔がだんだんと変化していくのだった。
ギチギチ
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