恋と首輪

山猫

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主人と首輪

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「月宮様、蓮様がお呼びです」
「……はい、」
東雲蓮の執事らしき男性が教室まで私を呼びに来る。
教室内がざわつくのがわかった。

今日から、
今日から私は、あの人の言いなりなんだ。

外すこともできない首輪が、妙に重く感じる。
教室を出て、行くところは一つ。

この学園で1番大きく、1番謎が多い
東雲蓮の専用部屋。

"首輪"だけが入れるその部屋。

ガチャッ

執事の男が、その大きな扉を開けた瞬間、思わず目を背けてしまった。
あまりにも、眩しすぎて。

「さあ、入りましょう」
執事のその声に私は足を進める。
想像通り、とてつもなく広い部屋。

足を踏み入れてしまった私は、もう終わりだ。

部屋の奥、大きいソファに座りこっちを見据える人影。
忘れもしない、その彫刻のような綺麗な顔。

「ようこそ、歓迎するよ。みゆちゃん」

全身が震えた。

「…蓮様…お呼びでしょうか…」
止まらない震えを、必死に抑える。

その何を考えてるかわからないあの人の顔が、…怖い。

「君は、いつも震えてるね」
ソファから腰を上げ、私に近づく東雲蓮。

「何をそんなに怖がってるの?」

そんなの決まってる。
私の目の前で、ふっ、と微笑むその笑顔。

その存在自体が、私には、恐怖でしかない。

「そんなに怖がらなくてもいいんだよ。俺こう見えて優しいから。」

私の髪をサラッと触る仕草が、何とも色っぽい。

そろそろ、しっかりしよう。
私は、ふぅと一息をつく。

こうなったからには、怯えてばかりでは仕方ない。
私に残された選択肢は、この人に気に入られて、卒業まで耐え続けること。
それしかないから。

「蓮様、全力でお仕えさせて頂きます。」

私は震えてなんかいられない。

「お、決心ついたみたいだね。」
ニコッと微笑んだ主人は、再びソファに腰掛ける。

「今日呼んだのはね、首輪のシステムを説明したくて。」
「…システム、ですか?」
「うん、まず学校内の噂では俺が首輪の女の子達をめちゃくちゃ虐げてるみたいなひどい噂が流れてるみたいだけど、そんなことは全くない。」

確かに。あまりにも、首輪を外される女の子が多いから、
東雲蓮はドSだとか、すごい仕打ちをしてるとかの噂は、聞いたことがある。

「俺にそんな趣味ないし、基本的に身の回りのことはこの執事の南雲がやってくれるから特別にしてもらう事もないんだ。ただ、側にいてくれればいい。」
「……えっ?」

あまりにも、意外すぎて間抜けな声が出てしまう。

「ただ一つ、絶対に守ってほしいことがあるんだ。」
主人の形のいい口から出た次の言葉は、あまりにも、意外すぎた。


「絶対に俺を好きにならないで」


「……それが、守ってほしいこと、ですか?」
「うん、簡単でしょ?」

確かに。
それだけなら、すごくいい条件な気もする。

ただこの人の側にいるだけで、好きにならずにいさえすれば。

「もし、俺を好きになってしまったら、その時点で首輪を外しちゃうことになる。」
主人を好きになった瞬間に、退学?
そんなのって…

「……それだけですか?蓮様が首輪を外す理由は」
「うん、それだけだよ。」

だったら、今まで首輪を外された女の子達は…

「そう、君の考えてる通りだよ。前の女の子達は、みんな俺を好きになったんだ。最初にこうやって忠告したはずなのに。」
「…どうしてですか?」
「んー?」
「いや、どうしてそんなに首輪に好きになられたくないんですか?」
主人はんーと考える素振りを見せる。

「人間の1番怖い感情って知ってる?」
「……え?」
「愛情だよ」
「……愛情、」
「一見美しいものに見えるけど、一変すると、嫉妬、妬み、独占欲。すっごく怖いものになるんだ。」

淡々と、低い声で話す主人は、やっぱり人間味に欠けていると思う。

「俺は、愛とか恋に微塵も興味はないし、信じてもない。だから、相手が自分を好きになった瞬間、面倒くさくなって萎えちゃうんだ。」
「……ッ、」
「まあ理解してもらえないだろうけど、とりあえずそうゆうこと。」

「いえ、理解できます。」
私は真っ直ぐに主人の目を見た。

「……え?」
「私も、同じ考えなので。」

愛とか恋なんて馬鹿らしい。
愚かな感情。

愛は人を狂わせ、壊す毒だと。

そう、母親が教えてくれた。

この人なら、決して誰も愛さないだろう。
だからこそ、私はここで安全に生きられる。

「はは、やっぱ君面白いよね。ますます気に入った。」
「……ありがとうございます」
「話はそれだけ。呼び出しは、それのアラームが鳴ったらここに来て。わかってると思うけど、呼び出しは絶対だから。」

執事の南雲さんから、腕時計型のスマホが渡される。

「わかりました。」
「じゃ、行っていいよ」

主人に深く一礼をして、部屋を出る途中、私は立ち止まる。

振り返ると、主人は驚いたような顔を見せた。

「蓮様」
「ん?なに?」

「蓮様は、やはり恐ろしいお方ですね」
「…それは褒め言葉ってことでいいの?」
「もちろん、では。」

私はもう一度頭を下げ、主人の部屋を出た。


「恐ろしい……」
あの子が最後に俺に言った言葉。
最後に見せた柔らかい笑顔は、何だったんだろう。

「ねえ南雲、俺って恐ろしい?」
「…いや、私には分かりかねます。」

最初、全身が震えてた彼女と、立ち去る彼女は、まるで別人のようだった。

「不思議なお方ですね。ですがお二人、案外似ていらっしゃるかもしれません。」
南雲はふ、と笑ってそう言った。

「ああ、面白いでしょ?」
彼女はやっぱり知れば知るほど面白い。

「俺の本性、見抜いたのかもな」
「だとしたら、只者ではないですね」

すごいよ君は。
自然と笑いが出てくる。

わかった。
どうしてこんなに彼女に興味が湧くのか。

それはきっと、
…俺と彼女は同じタイプの人間だからだ。
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