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第5幕 私にとってあなたは...

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    お風呂へ入り自室へと戻り椅子に座りながら髪を乾かす。

(今日は大変な1日だったわ...)

    はあ、とため息をつき髪が乾いてきたので用意された巨大なベッドにごろんと寝転がる。

    そして天井を見つめながら今日の出来事を振り返る。

    誘拐された事、殺されそうになったこと、そして珠羅が助けてくれたこと。

    そしてはぁ、とため息をつき、ぽつりと呟く。

「陛下...かっこよかった...」

    その時、天井を見ていた零の視界に珠羅が入って来る。

    それを見て零は驚いて声を出すと共に頬は熱く熱を帯びる。

「ひゃっ、へ、陛下!?どうしてここへ!?」

    それに対して珠羅は優しく微笑み、

「今日はあんな事があったからな。今日は私がこの部屋にいると決めたんだ。」

「は、はぁ。なるほど...?」

     なにか無理やりな感じが漂うが、珠羅は近くの長椅子へ腰を降ろす。

「今日はここにいてもいいか?零。」

「は、はい!陛下が宜しければ大丈夫ですよ。」

    零は熱くなった頬を出来るだけ珠羅に見られないよう近くにあった枕で顔を隠す。

    そして、少しの間静寂が訪れる。

    しかし、零には言葉はなくとも恐らく珠羅は今日の事を思い返しているのだと見当がついた。

    零はそっと視線を探られないようこっそりと珠羅を眺める。

    黙って 長椅子に座っている珠羅はやはり美しく、せっかく冷めてきた頬がまた火照る。

「そ、そういえばどうして居場所がわかったのですか?」

    このままだと恥ずかしさで押しつぶされそうになるため、零は口を開く。

「なぜだか知りたいか?」

「はい。知りたいです。」

    零がそう言うと珠羅はニヤリと不敵に笑う。

「それはな、愛の力だ。」

「あ、愛の力!?」

    零は驚くが、直ぐに声を上げる。

「って、そんなわけないじゃないですか!!」

    それに対して珠羅はイタズラに笑い、

「すまなかった。本当はな、荷物で判断したんだ。」

「荷物?」

「まだ、数日とはいえ零はここへ来て後宮で働いている者とはある程度面識があるだろう。だから、妃を抱えるなんて目立つことはしないと思った。それであの男はこっそり零を運ぶために人が入る程の大きな箱か何かを用意するだろう。と考えたんだ。」

    珠羅はさらに話を続ける。

「だから、人1人入れそうな大きな箱か何かを後宮へ持ってきた奴を調べたところここ2、3日のうち、あの男だけだった。」

「それで、あの男の最近の移動場所を調べたところ不自然に使われていない倉庫に何度も出入りしている痕跡があったんだ。それで零は倉庫に連れ去られたんだと考えたんだ。」

「そうだったのですね...」

    零がそう言って納得し、また辺りは静寂に包まれる。

    するとベットの上に座っている零に珠羅は「そんなことより...」と言って近づき、零をベットへ押し倒す。そして珠羅は、

「男を自室へ連れ込むとは...無神経にも程があるぞ?零。これからどうなるか私が教えてやろう。」

と、零の耳元で小さくささやき、珠羅は零の腕を掴んでいる手に力を込めていき、零がちょっと捻るくらいではビクともしなくなった。

「ちょ、陛下!?待ってください!」

   零はそう言って頬は熱を帯びたまま体を捻って抵抗するが、抵抗も虚しくどんどん珠羅の顔が近づいてくる。

「え!あ、ちょ、陛下!」

ーーーーあぁ、もうダメだわ...

そう思った時、

ーーーーーーーーコツン。

と珠羅の額が零に当たる。

「どうした?顔が赤いぞ?熱か?それとも何かを期待していたのか?」

と珠羅はイタズラな微笑みを浮かべて零から顔を離していく。

「ーーーーへ?」

    零は最初何が起こったのか分からなかったが、珠羅の表情をみて全てを察する。

「もう、陛下酷いです!私はもう寝ます!!」

    零は火照った頬をそのままに布団を頭から被る。珠羅はクス、と笑って、

「そうか、すまなかった。私も戻るとしよう。」

と言って部屋を出ようとするところを「待ってください!」と零は引き止める。

   零には恥ずかしすぎて顔の上半分しか布団から出てないが、ありったけの勇気を振り絞って珠羅へ伝える。

「あの...今みたいにからかう陛下は酷いですけど、今日、私を助けてくれた陛下はとっても、格好良かったです!」

   思いがけないセリフに珠羅は目を丸くし、零は「おやすみなさい!!」とまた頭から布団を被る。

    それに対して珠羅は「あぁ、おやすみ。」と言って部屋を出るが、廊下に出た時、自然に口がつい綻んでいた事に気づく。

   そしてフッ、と笑みを浮かべてポツリと呟いてから珠羅は自分の部屋へと戻って行った。


「ーーーー彼女にとって私はどのように見えているのだろうな。」


   珠羅の部屋への足取りはいつもより軽かった。


    

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