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第6幕 初めてのお忍び。

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「懐かしいな~。なんも変わってないな。」

    帝都を出発して東の国へ行って早2年。

   久しぶりに帰って来たが、町の賑わいは以前とあまり変わってはいなかった。

    男は馴染みの店に顔を出しながら町を練り歩いていると1組の男女を発見する。

ーーーー?まさか。

     男の方にはどことなく見覚えがあったが、女性の方は見た事があるという確信があった。いや、忘れるわけがない。あれは...俺の...

      ◆  ◆  ◆

    帝都はすっかり夏は終わり少し朝は肌寒くなってきた。

「どうだ?楽しいか?」

    珠羅は零の顔の方を向いて聞く。それに対して零は、大きく笑顔を顔に咲かせて、

「はい!楽しいです!今日はお誘いありがとうございます!」

ーーーー話は昨日へ遡る。

   昨日、珠羅は立ち去る前に零に質問する。

「明日...暇か?」

   暇...以外に答える事はあるだろうか。いくら、妃のバイトといえど妃の端くれだ。

    皆恐れ多いのか、誰も零に頼み事をして来ず零は暇を持て余していた。

「明日、暇なら私と帝都へこっそり遊びに行かないか?」

「それって...按司さんには...?」

「無論、内緒だ。」

    内緒にしてくれ。とイタズラっぽく笑う珠羅を見て零は絶対に言わない。と心に誓って、「はい!大丈夫です!」と答えた。

ーーーーそして、今となる。

   正直言って帝都は楽しい。

   市場を覗いたり、歌を聴いたり、演劇を見たりと、零の興味をそそるものばかりだった。

「どこかで何か食べないか?」

   珠羅はそう提案する。零も、そろそろお腹が空いてきた頃だったので最初に目に入ったお店を指さして「あそこはどうですか?」と提案する...が、

ーーーー失敗した...

と、零は心から思う。お店に入った時、ちょうど2人用の席が一つだけ空いていたのは良かった。

    ただ、お店が賑わっており他の客がいる中、一際目立つのが珠羅だった。

「ねえ!あの人格好いいよね!」「だよね!」等と様々な所から声が聞こえ珠羅に視線が集まる。

    そしてその後必ず零へ視線が集まり「あの人の隣にいるあの女は何者...?」といった空気が漂っていた。

   そして気まずい雰囲気の中、料理がやってきた。

   零は料理は同じだが、味付けが珠羅とは違う物を選んだ。

   すると珠羅は思いがけないことを口にする。

「食べ比べしないか?」

「ーーーー!?」

   何を言い出すのだろうか...。店内の女性達が騒がしくなるのを感じた。

「それを、食べさせてくれないか?」

と珠羅は零の料理を指さす。

「へ!?は、はい!!」

    零は恐る恐るスプーンに料理を1口のせ、ゆっくり珠羅の口元へ運ぶ。

    そして珠羅は口を開きその料理を1口食べる。そして口元を緩める。

「ーーーー悪くない。とても美味しい料理だ。さあ、次は零の番だ。」
 
    そう言うと珠羅もスプーンに料理を1口のせ、零へ向ける。

「!!へ、陛下ーーーーッ、食べなきゃ...ダメ...ですか?」

   こんなにも他の人が見ている中食べさせてもらうだなんて恥ずかしすぎて出来ない。

   すると珠羅は、物淋しそうな表情を浮かべ、

「そうか...やはり、無理なのか...」

と呟き、私はなんとも言えない罪悪感に包まれ、つい言ってしまう。

「あ、いや、そういう訳では!!い、頂きます!」

    どうとでもなれ。そういう勢いで零は1口食べる。

「どうだ?美味しいか?」

    柔らかい表情見せて微笑む珠羅を見て零は恥ずかしさでいっぱいになる。

「は、はい!美味しいです!」

   零が恥ずかしさと珠羅と一緒にいるということの嬉しさで顔がつい綻んでしまい、その表情をみて珠羅も頬を赤く染める。

    また、その珠羅の顔をみて店内に歓声が響き渡る。

「そっ、そろそろ出ましょうか!」

「あぁ、そうだな。」

    そう言って外へ出る。すると珠羅は零に話しかける。

「手、握っても良いか?」

「え!?は、はい!!」

    そう答えると珠羅は優しく零の左手を握る。

ーーーー暖かい。

    珠羅の手の温度が直に伝わってきて零の頬は熱を帯びる。

    そして町を少し歩いた時だった。

「れ、零じゃないか!?」

と背後から声をかけられた。すぐさま仏頂面で振り向いた珠羅は、

「お前は誰だ?」と聞く。すると男はヘラヘラと笑う。

「僕ですか?僕は煌雅(コウガ)と申します!」

    そう言うと煌雅は零に手を差し出し、零の全く予想もしていなかった台詞を言う。


「零。迎えに来たよ。」

「!?」

     零は思いがけない台詞に冷や汗がたらりと頬を流れる。

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