王宮での値段の良いバイトの正体は国王の花嫁役でした...

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第7幕 黙ってそこで見ていろ。

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    ここは急遽、珠羅が知り合いの役人に借りた家。立派な和風建築で立場の良さが伺える。

    広い畳の部屋には座布団と長い机が置かれており、すぐそこに縁側があって綺麗に手入れされた庭がよく見える。

「ーーーーそれで?話とは?」

「いやいや貴方に用など無いですよ。僕は零に用があるんだ。」

   煌雅と珠羅はお互い薄く笑みを浮かべているが、両者声に抑揚は無く、空気が張り詰めている。

    煌雅は髪は短く一般的な好青年の印象を与えさせ、ゆったりとした着物を着こなし手に持っている扇子で自分を扇ぐ。

「えっと...それで...貴方は...」

    煌雅はそう言いかけると珠羅は自分の名前を言おうとしたが、ここへはお忍びで来ている。

    だから、国王が帝都を歩いていたなんてバレては行けない。

「...陛下...お名前は伏せてください!」

    零はそっと珠羅に、耳打ちすると珠羅から小さく「分かっている。」と返ってきた。

「私は朱蘭(しゅらん)だ。」

ーーーーあまり変わってない気がする...

    零は心の中で呟くが声には出さない。

「そうですか。失礼しました。しかし、役人様が日の出ている時間から外でブラブラ遊んでいていいんすか?」

    お察しの通り、珠羅は外では役人という事にしている。煌雅の皮肉混じりの質問に珠羅は一瞬顔をしかめたが、すぐにニヤリと笑う。

「今日は有給を取っていてな。だから今こうして零と帝都を歩いていたのだ。巷で言うところのでぇと(?)だ。」

   しかし、以外にも煌雅の反応は素っ気なく、乾いた返事を返すと零へと向きを変える。

「なあ、零。君は彼とどんな関係なんだ?」

    そう聞かれて零が本当のことを言うべきか悩んでいると、珠羅が横から、

「ただの恋人関係だ。」

   と堂々と嘘をつき、「え!?」と零の顔が薄く赤色に染まる。

「本当に零、そうなのかい!?」

「え!?あ、へ、は...!」

   零はこの衝撃的な展開について行けず頭の中が混乱する。

ーーーーへ、陛下と私が恋人関係...!?

    しかし、(でも...)とこころの中の自分が即座にこの恥ずかしい気持ちを否定する。

ーーーー私と陛下はただのバイトと国王の関係...これもきっとこの場をしのぐ言い訳だろう。

   そう思うとギュッと零の心が締め付けられる感じがした。

「おい、朱蘭さん?零が困っているじゃないか。嘘なんだろう?」

    煌雅がそう珠羅に尋ねると彼はすぐに否定する。

「零はただ、お前の前だから恥ずかしがっているだけだ。」

...まあ、急にそんな事を言われるのだから、あながち間違ってはいなかった...しかしこんな爽やかな好青年を零は知らない。煌雅という名前も知っている中では1人しか居ないが全く見た目が違う。

   そう思っていると煌雅は珠羅へどんどん話しかける。

「ほほう。では、何かそれを証明できそうな事はないですかな?」

「...いいだろう。お前と零がどんな関係かは知らないが見せてやる。零いつもの事をしようか。」

「へ!?いつも...のこと...?」

   零がそう思い驚くと珠羅が小声で「合わせてくれ。」と呟く。

    了解。そう思っていると突如珠羅が零の肩に手を置きそっと零を抱き寄せる。

「~~~ッ!?」

    突如急接近してきた珠羅の顔を見て零の胸の鼓動の音が大きくなる。

    そしてそれに合わせて珠羅の唇がどんどん近づいてくる。

「へ!?あ、あのへ、へい...」

「うるさいぞ。零。いつも通りにするだけさ。」

   慌てる零に対して珠羅はイタズラに微笑みカァッ、と零の頬が赤くなる。

   そして珠羅の顔がどんどん近づいてき来る。

   零は煌雅に気づかれないように少しずつ体を動かしてみるが、全く逃げ出せる気配が無い。

ーーーーあぁ...愛しい陛下の顔がこんなにも近くに...!!

    逃げようと何度も試みたがもうどう足掻いても無駄だと零は悟る。

   そして心を決めて零は目をそっと閉じて全ての神経を集中させる。

   そして文字通り、珠羅の唇が目と鼻の先になったその時、煌雅がすっと立ち上がる。そして、

「すみません用事を思い出しました。失礼します。」

とまるでこの場所からいち早く逃げ出したいと言わんばかりの足早で屋敷から出ていく。

   零は目を丸くし、

「帰っちゃいました...ね。」

と頬を赤く染めたまま言い、珠羅も

「そうだな。」と言って零の体を解放する。

「え...?」

「今回は手強い奴だったな...」

    そういつも通りの声音で喋る珠羅を見ていると少し悲しくなる。

「へ、陛下...もしかして今のって...」

「あぁ。突然の事ですまなかった。これしか案がなかったんだ。形だけでもすれば彼も納得するだろうと思ってな。それともなんだ?何を考えていたんだ?」

    昨日からといい、珠羅の今の子供の様な表情を見ると零の中からワナワナと、とても言葉に表せない感情が沸き立ち、思わず叫ぶ。

「もう!陛下なんて知りません!!!」

    零の声は屋敷中に轟いた。

     ◆   ◆   ◆

ーーーー思わず逃げて来てしまった...

   煌雅はそう思いながら頭をかく。彼らの口付けを見るのを彼の本能が許さなかったのだろう。

(それでも...)

ーーーーおかしい。彼女があんなにもあの男に夢中になるなんて。しかも役人だと?絶対に彼女は騙されている。

「朱蘭...か。僕は必ずお前から彼女を取り戻す。」

    煌雅はそう呟きながら帝都の人混みへと溶け込んで行った。

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