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第14幕 初めての来客1

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「私、変な格好じゃない...ですよね?」

    零はそう言いながら鏡に映り込む自分の姿を見る。

    いつもとは違った薄く明るい化粧の施された顔、きちんとくしでとかされた髪、そして零はこの前お忍びで帝都を訪れた時、珠羅が勝手に購入していた少し明るめの黄色の着物の袖に手を通す。

ーーーーなぜ、こんなにも見た目にこだわっているかというと、珠羅曰く、今日どこかの国から補佐官が視察に来るそうだと言ったからだ。

    だから変な格好をして珠羅が不利な状況になるような事はしたくない。

    そう零なりに考えて、今こうして鏡の中の自分と睨み合っている。

    そうこうしているとドアがコンコンと叩かれる。

「はい、どうぞ。」

と言うと、ドアが開き中に入ってきたのは大智だった。

「失礼します!!妃様、陛下がお呼びです!何か、そろそろお見えになるとか...」

「わっ!もうそんな時間ですか!?すみません!失礼します!!」

    零は大智の言った言葉に驚き部屋を急いで飛び出す。

ーーーーーーーー王宮内の執務室にて。

「すみません陛下!遅くなりました!!」

「すまないな。零。思ったよりも早くこの国に到着したらしい。」

    零が部屋へ入ってすぐに謝ると珠羅が笑いながら出迎えた。

「今、按司が出迎えに行っているのだが...」

    珠羅とそんなやり取りをしていると、

「これはこれは陛下。お会いできて光栄です。」

と男の声が部屋に響く。

「あぁ、華洛(カラク)殿、長旅ご苦労だつた。今回はよろしく頼む。」

    すぐに珠羅はそう言いながら声のするドアの方へ向きをなおし、零も遅れて視線を向ける。

    そこには1人の男性と女性が立っていた。

「いえいえ、そんな。こちらこそよろしくお願いします。」

    そう華洛と呼ばれた背の高い男はにっこりと珠羅へ微笑む。

    華洛の第一印象はまさに仕事が出来そうな感じだった。

    黒くサラリと伸びた髪を後ろで1本に束ね、全く顔色変えずただ、笑顔を貼り付けている顔の表情からは今、何を考えているのかは全く読み取ることは出来なかった。
 
「そしてお妃様も今回はよろしくお願いします。」

    華洛は珠羅へ一礼すると零へ向きを変えてまた一礼する。

「は、はい!よろしくお願いします!」

    零は急な事で驚いたものの何とか挨拶を返すことが出来た。

   しかし、華洛は一礼をした後零の事をじっと眺める。その様子はまるで値踏みしている様だった。

「あ、あの...何か...?」

    視線に気づいた零が華洛へ尋ねると華洛は笑顔を見せて、

「あぁ、これは失礼。何しろこの国の国王は全く妃を娶ろうとはしないと有名でしてね。そんな中最近妃を娶ったと聞いたのでどんな方かと...」

「は、はぁ...なるほど...?」

「それで安心しました。貴女様は自分の想像以上の麗しい方でしたので。陛下は幸せな方ですね。」

    急にそんな事を言われて零はとても恥ずかしくなったが、

ーーーーこの人...何か変。

    零には何か腑に落ちない感じがあった。

    何だか華洛がとても恐ろしく感じる。

    向こうはただ、褒めてくれているだけかもしれないが何か、別の意図があるような。

     もしかしたらこの視察もそれのためかもしれない。

「それといった歓迎も出来ずにすまない。何しろ急だったのでな。」

    そうこう考えていると珠羅が華洛へ声をかける。

「いえいえ、そんな。お気遣いありがとうございます。」

「どうだ?早速だが見ていくか?」

「あ、はい!では、是非。」

    華洛を案内しようと珠羅が、部屋を出ようとした時、何を考えたのか珠羅はくるりと零へ方向転換する。

「それでは、私は少しの間案内してくるが零、そちらの舞羅(マイラ)殿を案内してはくれないか?何かと女性同士の方が話も弾むだろうからな。」

「は、はい!」

    そう言って部屋を出ていく珠羅と華洛を見送り、零は舞羅へと視線を移す。

「あ、あの!私、李  零、と申します!今回はよろしくお願いします!!」

    零はそう言って頭を下げると、「よろしくお願いします。」と舞羅も頭を下げ返してくれる。

    そして零は心の中の炎を燃え上がらせる。

ーーーー私、李  零、陛下のために妃を演じきります!!

    そう言って零は1人、手元で拳を力強く強く握るのだった。
    
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