その香り。その瞳。

京 みやこ

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(69)SIDE:奏太

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 普段はこちらがビックリするほど勘がいい斗輝なのに、時々、こんな風に『弱気な彼』が顔を覗かせる。
 僕のことを大事にしすぎるからこそ、変に気を回してしまうのだろう。
 そのことがちょっとおかしくて、だけどすごく嬉しい。
 こんなにも誰かから大切に思われたことは、今までになかった。
 もちろん、両親や兄姉たちも、僕のことをすごく可愛がってくれた。ベータの家族の中で唯一のオメガである僕に、いつだって優しく接してくれた。
 だから僕は家族愛の深さに対し、胸を張って自慢できる。
 そうは言うものの、斗輝ほどに愛してくれたかとなったら、それは違うと首を横に振ってしまう。
 家族愛よりも、番の彼が与えてくれる愛情は底なしに深いのだ。
 だからこそ、斗輝の中に躊躇が生まれてしまうのかもしれない。
 それは彼に意気地がないということではなく、それほどまでに斗輝は僕が好きだからということ。
 彼と番になったことで、オメガとしての喜びと幸せを何度も何度も感じた。
 彼に出逢えて、本当によかった。
 僕はすっかり斗輝に抱かれる気になっていたけれど、ここできちんと言葉にする必要がある。
 斗輝が僕を大事にしてくれるのと同じように、僕だって彼が大事なのだ。
 ちょっとだけ冷静になった僕は、フッと口角を上げた。
「僕は斗輝と初めて会った瞬間から、ものすごく大切にしてもらってきました。そんな斗輝に嫌気が差すなんて、これっぽっちもありません。斗輝に逢えてよかったと、心の底から思っているんですよ」
 彼は不安げな表情のまま、大人しく話を聞いていた。
 そんな彼の唇に、ソッと唇を押し付ける。
 たっぷり一呼吸分のキスを贈った僕は、静かに唇を離した。
「僕は斗輝が思っているほど、器用な人間じゃありません。考えていることが顔に出過ぎだと、よく家族から言われてきました。どんなに言葉で取り繕っても、まったくの無駄だそうです」
 彼の頬を両手でやんわりと挟み、恥ずかしさを我慢して改めて言葉にする。
「……さっき『したい』と言ったのは、正直な気持ちですよ」
 それなのに、斗輝の表情はまだ曇っていた。

――まったくもう、しょうがないなぁ。

 心の中で苦笑いを零すと、僕は彼の頬にあった右手を外し、斗輝の頭をポカッと軽く叩いた。
 もちろん、痛くはないだろう。
 それでも、彼の気持ちを切り替えるきっかけにはなったはずだ。
 それが証拠に、僅かに目を見開いた彼の表情からは影が消えていた。
「斗輝は僕の気持ちを僕以上に理解してくれますが、時々、おかしなほうに誤解していますよね。まぁ、それだけ僕のことを大切にしてくれようという気持ちの現れでしょうけど」
「もちろんだ。奏太は誰よりもなによりも大切な存在だからな」
 即答した彼の瞳には、いつものような光が戻っていた。
 そして落ち着いた表情の彼は、さっきの「なんで?」という発言について尋ねてくる。
 僕は恥かしさに負けて目を逸らさないように、なんとか頑張って説明を始めた。
「あ、あの、それは……、 斗輝の、その……、あの部分が、僕以上に反応していたからで……」
 つかえながらも、どうにか説明したのだが、彼にはいまいち伝わっていないらしい。
 軽く首を傾げてゆっくりと一度瞬きをした斗輝に、僕はさっきよりも細かく説明をする。
「えっと、つまり……、僕は斗輝にあちこち触られて気持ちいいから、反応してしまうんですけど……。と……、斗輝は僕になにも、されていないのに、あと、自分でもしていないのに、か、硬くなっているから、それで、『なんで?』って……」
 話を聞き終えた彼は、またしてもゆっくりと瞬きを一度だけした。
 ところが、目を開けた彼の瞳には、ほんの少しだけいたずらっ子のような輝きがある。
「なぁ、奏太。その説明じゃ、『なんで?』という発言に至った理由が俺にはよく分からないな」
「え?」
 僕としては、けっこう頑張って説明したのに。
 恥ずかしくて直接的な言葉は使ってなかったけれど、勘のいい斗輝なら絶対に分かってくれるはずなのに。
「と、斗輝?」
 弱々しい声で彼の名前を呼んだら、切れ長の目が弧を描いた。
「奏太、もう一度説明してくれないか」
 楽しそうに微笑んでいる様子に、僕は視線とウロウロと彷徨わせる。
「いえ、あの、ですから……」
 ペニスや愛撫は頭の中では呟ける言葉でも、実際に口に出すのはできなかった。
 そんな僕に、彼はさらに目を細めてくる。
「なら、こうしよう。俺が質問するから、『いいえ』か、『はい』で答えてくれ」
 僕はドキドキしながら、コクンと頷き返した。
「よし、まずは……。俺のあの部分は『ペニス』ってことか?」
 それを聞いた途端に、耳がボワッと熱くなった。
 アウアウと意味の分からない言語を発した僕は、ややあってから「……はい」と答える。
「なるほど。じゃあ、次はあちこち触られて気持ちよかったのは、『愛撫』か?」
 またしても、耳が熱くなる。
 愛撫という言葉は、自分で口にするだけではなく人から聞かされても、妙に気恥ずかしい。
「……は、はい」
 さっきよりも小さな声で答えたら、「これで、最後の質問だ」と言われた。
 恥ずかしい思いをするのはこれでおしまいだとホッとしたのもつかの間、彼は自分の下半身をグリグリと僕の下半身に擦り付けてきたのだ。 
「俺のペニス、硬いか?」
 僕の目を覗き込みながら問いかけてくる斗輝は、やたらと楽しそうである。
 どうせまた、恥ずかしがる僕が可愛いとか思っているのだろう。
 しかし、どんなに頑張っても平然と振舞うことなど不可能だ。
 僕は頭のてっぺんからマグマが噴き出たのではないかと思えるほどの恥ずかしさを感じつつも、唇を震わせて「……はい」とものすっごく小さな声で答えた。
 斗輝は望む通りの反応を見せた僕にニッコリと微笑み、長い腕で僕を抱き締める。
 僕の左耳に唇を寄せ、チュッと音を立ててキスをした。
「奏太、耳が真っ赤で可愛い……」
 うっとりとした口調で囁いた斗輝は、また耳にキスをする。
「俺を励ましてくれて、ありがとう。やっぱり、奏太は優しいな」
 響きのいい低音が耳に注ぎ込まれると、うなじの辺りが快感でソワッとした。
「べ、別に、僕は、特別優しくないですよ……」
 答えた僕の耳を、彼の舌がペロリと舐めてくる。
「いや、とんでもなく優しい。俺が意地悪しても、怒ったりしないできちんと答えてくれただろ。ごめんな、奏太。だが、本当に可愛かったぞ」
 やはり、あの質問は僕に恥ずかしい思いをさせるためのものだったのだ。
 とはいえ、僕を馬鹿にするのが目的ではなく、彼にとっては照れる僕が可愛くてたまらないらしいという理由なので、怒るに怒れない。
 それになおも彼が腰を押し付けてくるせいで、僕のモノも硬さを増していった。
 おかげで、頭の中が徐々に白く霞んでいく。
 彼と話をするために落ち着かせていた気持ちが、彼に抱かれたくてしかたがない思いにシフトチェンジした。
 僕も静かに腰を揺らし、彼のペニスに自分のモノを当てる。
 ここで、ふと気が付いた。
「それで……、僕が『なんで?』と言った理由が分かったんですか?」
 熱のこもった呼気を吐き出しながら尋ねると、彼が顔を上げて僕を覗き込む。
 次いで、彼の目がひときわ綺麗に弧を描く。
「ああ、もちろんだ。奏太は俺の愛撫で気持ちよくなったからペニスが反応したが、なにもされていない俺のペニスがどうして勃起しているのかってことだろ?」
 ストレートな回答を艶っぽい笑顔と共に聞かされ、僕の後孔からは新たな分泌液がジュワリと滲んだ。
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