その香り。その瞳。

京 みやこ

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(71)SIDE:奏太

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 すでに硬くなっていた左乳首は、優しく丁寧に舐めしゃぶられる。
 その一方、まだ反応を示していない右乳首は、指で強めに弄られた。
 斗輝は摘まんだ乳首をクニクニと捻ったり、指の腹同士を擦り合わせるようにクリクリと捏ね回す。
 チリチリと僅かな疼きを感じ始めた頃合いで、彼は人差し指の先でピンと右乳首を弾いた。
 いきなり与えられた刺激に、ビクンと僕の体が大きく跳ねる。
「んんっ!」
 甲高い声と共に、背中がシーツから浮いた。
 そんな僕の反応に、彼は左乳首に吸い付きながら喉の奥でクスッと笑う。
 愛撫に反応を示す僕の様子を、斗輝はいつだって楽しそうに眺める。
 どんな反応でも彼が引き出したものなら、なんでも嬉しいらしい。
 僕が変な声を出しても絶対馬鹿にしないし、大きな声で喘いでもうるさいとは言わない。
 体が小さく震えても大きく跳ねても、彼は微笑みながら眺めている。
 今もそうだ。
 両方の乳首を弄られて悶えている僕に、時折「可愛い」、「いい声だ」と言いながら笑っているのである。
 ここまで盲目的に愛されているのに、不安に思う僕は馬鹿なのではないだろうか。
 斗輝は言葉でも行動でも僕が一番大切で、なによりも愛していると示してくれている。
 だから、僕が僕自分のことをないがしろにすることを納得しない。
 さっきのことが、まさにそうだ。
 僕は女性のように柔らかさも丸みもないこの体を、つまらないものだと思っている。
 いや、胸やお尻の肉が薄くても、魅力的な体形の男性はたくさんいる。
 大学構内で斗輝に迫っていた男性オメガたちは肌艶がよく、きっと触り心地もいいことだろう。 
 見た感じでは僕と同じように華奢だったけれど、服の下に隠されている体は、けして貧相ではないはずだ。
 それが、僕にとってのコンプレックスでもある。
 斗輝に抱かれるまではそんなことを気にしたことがなかったけれど、こうして裸で抱き合うことがあるから、嫌でも意識してしまう。
 それでも、斗輝はこんなみっともない体を魅力の塊だと言ってくれた。
 言葉が表す通り、彼の体ははっきりと欲情してくれていた。
 嬉しい。すごく嬉しい。
 とはいえ、彼の言葉をすんなり受け入れるのは、やっぱり難しいかもしれない。
 情欲と理性の間で僕の意識が揺れながら、そんなことを考えていた。
 すると、斗輝が左乳首から唇を外す。
 そしてずり上がってきて、僕の顔を覗き込んできた。
 どうしたのかと思い、浅い呼吸を繰り返しながら僕は首を傾げる。

――やっぱり、つまらなくなったのかな?

 オメガの発情フェロモンに引きずられていないから、のっぺりした僕の体に飽きてしまったのではないだろうか。
 はじめのうちは、僕のことが好きだいう感情に後押しされて彼のペニスは反応したのだろう。
 それが色気もないツルペタでみっともない僕の裸を見ているうちに、やっぱり萎えてしまったのかもしれない。
 これについて、斗輝は悪くない。
 彼の恋人として、番として相応しくない僕が悪いのだ。
 僕の顔は平凡だから、せめて体だけでも魅力的だったらよかったのに。
 ふいに悲しくなってきて、蕩けていた頭の芯が徐々に冷静さを取り戻していく。
「奏太?」
 右乳首への愛撫も止めて、彼が僕の名前を呼んだ。
 なんでもない振りをしないといけないのに、ジワジワと目頭が熱くなってしまう。
「奏太?」
 もう一度名前を呼ばれ、僕は首をソッと横に振った。
「……なんでもないです」
 小さな声で返事をしたら、斗輝はいきなり両手で僕の頬を覆った。
「口調が戻っている。奏太、どうした?」
 色気が滲む瞳には、不安や心配の色も浮かんでいる。
 僕は改めて首を横に振る。今度は、無言で。
 すると、穴が開くほど僕の顔を覗き込んでいた彼が、いきなり唇を押し付けてきた。
 突然のことに驚いて薄く口を開けてしまうと、素早く肉厚な舌が侵入してくる。
 斗輝のキスはいつも優しく甘くて、深く激しいキスの時でも、それは変わらなかった。
 それなのに、今のキスは強引と言うか乱暴と言うか、これまでのキスとはどこか違っている。
 戸惑う僕にかまうことなく、彼は舌を絡め、口内を舐り、唇を吸う。
 どうすることもできない僕は彼のキスが終わるまで、身動きが取れずにいた。

 人が変わったようなキスを仕掛けてきた斗輝は、始まりとは反対に静かに顔を後退させた。
 そのまま大きな手で僕の頬を包み込みながら、ジッと僕を見つめている。
 今のキスのせいで、戻りつつあった理性がふたたび情欲に押しのけられた。
「斗輝、どうしたの?」
 つたない口調で問い掛けると、彼が表情を緩めて短くホッと息を吐く。
 だけど、まっすぐな視線には変わりはない。
「奏太の反応が悪くなって心配になった。さっき、表情が暗かったぞ」
「……え?」
 なんのことかと、パチクリ瞬きをする。
 激しいキスのせいで腫れぼったくなっている僕の唇を、斗輝がペロリと舐めた。
「そういう時の奏太は、自分を否定している。だから、俺が奏太にどうしようもないほど溺れていることを、行動で示そうと思ったんだよ」
 それが、このキスだったのだろうか。
 確かに、さっきの斗輝は我を忘れたようにも思えた。肉食獣がごちそうに食らい付いているような、そんな激しさを含んたキスだった。
 おかげで僕のほうも、いったん冷めてしまった熱がふたたび煽られて温度を上げた感覚はある。
 体の奥深いところがジンジンと疼いているのを感じていると、まつ毛が触れ合うほど彼が顔を近付けてきた。
「奏太、俺は絶対にお前を離さない。俺の番は、世界でただ一人。奏太だけだ。最高で、最愛の奏太だけなんだ。奏太が落ち着いたら、言葉でたっぷり説明する。だが、今はこの可愛い体に俺の欲情が収まらないことを、身をもって教えてやる」
 なんだか、斗輝の様子がちょっとおかしい。いつになく、ワイルドだ。
 でも、そんな彼もかっこよくて、僕の心臓がキュンと音を立ててときめく。
 うっとりと眺めていたら、両方の乳首をギュッと強く摘ままれた。
 そして、引っ張ったり、捻ったり、押し潰したり、指先で引っかいたりと、連続して愛撫される。
「やっ、あ、んんっ……!」
 たまらず、僕は全身を震わせて大きな嬌声を上げた。
 彼は利き手ではない左手も器用に動かし、さらに僕の乳首を弄ってくる。
「俺の胸にも同じものが付いているが、なんの興味も湧かない。だが、奏太の乳首だと、可愛くて色っぽくて、いつまででも弄っていたくなる」
 言い終えると、今度は一転してそれぞれの人差し指の先で乳首を優しく撫でた。
「はじめは濃い目のピンク色だったのに、今は赤みが差して朱色に近い。それに、硬くなってコリコリしているな。そういう変化を俺が引き出したと思うと、誇らしい気持ちになる」
 絶妙な緩急をつけて与えられる愛撫により、僕の頭の芯はかなり蕩けていた。
 彼がなにを言っているのか、はっきりとは理解できない。
 ただ、僕の乳首に対して並々ならぬ愛情と情熱を持っていることがうっすらと分かった。
「は、あ……。ホント、に?」
 喘ぎつつ問いかけたら、左右の乳首が同時にピンッと指で弾かれる。
「あんっ!」
 甲高い喘ぎ声が僕の口を衝き、ビクンと腰が震えた。
 驚いて目を見開く僕の視界に、瞳に艶を浮かべて微笑む斗輝が映る。
「本当だ。だが、俺は奏太の乳首だけを気に入っている訳ではない。頭の先から足の先まで、奏太を構成しているすべてのものを、俺は愛している」
 そう言って笑う彼の顔は、かっこよくて、綺麗で、艶っぽくて、男らしくて、僕の心臓と体の奥がキュンと音を立てて震えた。


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