その香り。その瞳。

京 みやこ

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(72)SIDE:奏太

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 斗輝は見惚れるほどの魅力的な笑みを浮かべつつ、「だが、あと少しだけ、ここを可愛がってやりたい」と囁いた。
「……え?」
 心も体も彼と早く一つになりたいと願っている僕としては、その申し出には少々納得がいかない。
 一瞬ポカンとしたのち、ムウッと唇を尖らせて不機嫌全開の表情を浮かべる。
「斗輝の意地悪。やっぱり、僕を抱きたくないんだ。僕の体は、つまらないんだ」
 そう言い終えた瞬間、痛みを感じるギリギリの強さで乳首を摘ままれ、おまけにクニクニと捏ね回された。
「あっ!」
 途端に腰の奥から頭の先に掛けて快感が駆け抜け、不機嫌だった僕の表情がすぐさま蕩け始める。
 彼の指は容赦なく、だけど絶妙な力加減で快感だけを僕の乳首に与えていた。
 「こんなに可愛らしく色付いた乳首を愛撫できるなんて、そんな光栄なことはないからな。どうにも手放しがたいんだ」
 僕の乳首なんて、どうってことはないはずだ。
 色や大きさ、感触など考えたことがないけれど、どう見ても普通以上の代物であるはずがない。
 なにを真面目に言っているのかとほんの少しだけ呆れつつ喘いでいると、彼の手はいっそう熱心に乳首を弄り続けた。
 それからもしばらく乳首の愛撫は続き、僕は舌っ足らずな口調で喘いでいる。
「あ、んん……、も……、やだ……、あ、あ……」
 痛みを訴える一歩手前までジンジンと疼き、摘ままれて捏ね回されると、腰がビクビクと跳ねてしまう。
 それに合わせて、根元からしっかり勃ち上がった僕のペニスがプルンプルンと揺れている。
 乳首を愛撫されて気持ちいいけれど、もどかしさもある。
 体の奥で斗輝の存在を感じながら、二人で一緒に気持ちよくなりたい。
「斗輝、と、き……、早く……」
 快感によって潤んだ目で彼の姿を捉えた僕は、グズグズと半泣きになりながら訴えた。 
 すると、彼はクスッと笑ってから、左右の乳首にチュッチュッと音を立ててキスをする。
「さっきよりも赤みが増して、ぷっくり膨らんだな。可愛くていやらしい、最高の乳首だ」
 楽しそうに囁く言葉を聞きながら、『それは、僕の乳首だからって訳じゃないよね?』と、つい思ってしまう。
 斗輝にたっぷりじっくり愛撫されたら、どんな乳首でもこんな風に変化をするだろう。
 しかし、こういう時はやたらと勘のいい斗輝には、心の内を即座に見抜かれてしまった。
「また、変なことを考えてるな」
「へ、変なことなんて、考えてないもん……」
 ふいっと視線を逸らしたことが白状しているようなものだが、頭の芯がボンヤリしている僕には、そのことに気付いていない。
 彼はクスッと笑い、また乳首にキスをした。
「拗ねた奏太も可愛いが、誤解されたままでは困るな。奏太の乳首だから、俺はこれほど執着するんだぞ。他の人間の乳首など、どうでもいい。触りたいとも見たいとも思わない」
 次いで、彼はツンと尖った乳首をペロリと舐めた。
「奏太だからこそ、俺はこうして可愛がってやりたいんだ。少しずつでいいから、その体で理解していくんだぞ」
 柔らかい舌でソッと舐められただけなのだが、愛撫されまくった乳首には十分すぎる刺激だった。
「んっ!」
 甲高い声で短く啼いた僕の腰が震え、併せてペニスも揺れる。
 そんな僕の様子を見て、ようやく斗輝は移動を始めた。
 投げ出している僕の足の間に陣取り、右手で後孔に触れる。
 これまでのキスと愛撫により、ソコはすでにぐっしょり濡れていた。
 彼の指先が触れると、後孔がヒクヒクと動いたのが自分でも分かる。
 発情期ではないので溢れるほどということにはなっていないが、彼の指先が後孔付近を刺激するたびに、僕のお腹の奥からは新たな淫熱が生まれ、オメガ特有の分泌液をジワジワと滲ませていった。
 斗輝のことが欲しいのだと、ココで繋がって一つになりたいのだと、言葉以上に僕の体が告げていた。
 もちろん、それは彼にも伝わったようで、「目いっぱい、抱かせてもらうからな」と嬉しそうな声音でそう口にする。
 
――ああ、やっとだ……。やっと、斗輝に抱いてもらえる。

 安堵と期待に僕の表情が緩んだのもつかの間、彼はそこから動こうとしなかった。
 後孔に添えられた中指が静かに挿入されると同時に、斗輝の左手は僕のペニスを扱き始める。
 てっきり熱くて硬く育った彼のペニスを挿(い)れてもらえると思っていたのに。
「は、あ……。斗輝、それ、いいから……」

――そんなことより、早く、早く、斗輝のペニスを僕にちょうだい。

 喘ぎながら不満気に訴えると、彼の喉が低く鳴った。
「奏太……、必死に我慢しているんだから、煽らないでくれ」
 彼は右手と左手を器用に動かしながら、話を続ける。
「今の奏太は発情期じゃないから、準備が必要なんだ」
「で、でも、いっぱい斗輝に抱いてもらったから、準備なんか、いらない……。ん、ん……」
 言い返したら、彼の中指がググッと押し込まれた。
 分泌液でナカは潤っているけれど、指一本だというのに圧迫感がある。
 痛みはないが、僅かに顔をしかめてしまった。
 斗輝は手の動きを止め、静かに息を吐く。
「ほら、分かるだろ。奏太はまだ俺に抱かれ慣れていないから、しっかり解しさないと。奏太には、痛みも苦しみも味合わせたくないんだ」
「痛くてもいい……」
 グスンと鼻を鳴らして催促するけれど、今の斗輝は指以外を挿れる気はないようだ。
「一本でも簡単には入らないのに、俺のこのペニスを突っ込んだら、出血するぞ。そんな奏太の姿を、絶対に見たくない」
 分泌液の滑りを借りて、ユルユルと彼の指が前後する。
 内側から押し広げられる感覚がいくらか薄れた頃合いで、中指が根元までググッと入ってきた。
 後孔付近はだいぶ柔らかくなったみたいだけど、奥のほうはまだまだだった。
 十分に解れていない腸壁が、ギュウギュウと彼の指を締め付ける。
「あ、う……」
 無理やり広げられる感覚に、思わず眉が真ん中に寄った。
 少しでも圧迫感を和らげようとして、はふはふと一生懸命呼吸を繰り返す。
 そして、僕はしょんぼりとうなだれた。
 発情期ではない僕を抱くというのは、なんとも面倒なのだろうか。
 ほんの少しでも僕を傷付けたくないという彼の優しさをよそに、自分の勝手ばかりを押し付けてわがままを言っている僕は、なんてひどい番だろうか。
「斗輝、ごめんなさ……、やっ、あっ!」
 謝ろうとしたところ、最後まで言葉を発する前に、彼の左手が上下に激しく動き、僕のペニスを強めの力で扱き始めた。
 埋め込まれている右中指も前後に激しく動き、グチュグチュと音を立てながらナカを掻き混ぜる。
 乳首で感じていた以上の気持ちよさが二ヶ所から湧き上がり、頭の芯がドロリと甘く蕩けた。
「んんっ、やっ、斗輝、それ、駄目……。おかしく、なる……、あ、あぁっ!」
 全身をビクビクと震わせて喘ぐものの、彼の手はいっこうに動きを止めない。
「いくらでもおかしくなっていいから、『いつもの奏太』に戻るな。お前はなにも悪くない、ただ快感に溺れてくれればいいんだ」
 そう言って、彼は両手を動かし続けた。
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