90 / 211
悠久の王・キュリオ編2
王都にもなり得た街
しおりを挟む
発掘が行われている地から一番近い街に宿泊することになっていた一行は、月の輝きが目立ってきたこの時分、大所帯で足を踏み入れた。
すでに灯されていた街灯が賑わう街並みをあたたかく照らすなかを、キュリオとガーラントを乗せた馬車が一行の先頭を行く。
「いい街だな」
だいぶ古い建物が連なっているが、それでもよく手入れされたそれらは年数を重ねることによって、人が年齢を重ねるように深みのある趣へと変化して街の印象に美しい歴史を感じさせてくれている。
「ですな! 今回の発掘現場にいまでも王の住まう城があったとすれば、ここが王都になったかもしれませぬな」
「そうだな」
石畳の上を軽快なリズムを刻む馬の蹄の音と馬車が行く音を聞きながら街並みを眺めていると、キュリオの姿を一目見ようと路上に詰めかけた人々が群れをなして道の両脇に押し寄せる。
「うむうむ。儂らがいつまでも健やかに笑って居られるのもすべてキュリオ様のお陰じゃからなぁ。皆、その御尊顔を一目でもと願う気持ちは痛いほどわかりますな!」
「……そうか……」
キュリオからしてみれば、王としてやるべきことをやっているに過ぎないが、民の望みに寄り添うのもまた王の為すべき事なのかもしれない……という認識は少なからず心に留めているため、自身の姿を遮る布の幕を下ろそうとはせず成り行きに身を任せている。
片肘をつきながら物憂いげに窓の外を見つめるキュリオの横顔に、ガーラントは城で待つ幼い姫君の存在が脳裏を過った。
「恐れながらキュリオ様、アオイ姫様もこちらにおいで頂くというのは如何ですかな?」
「……っ!」
唐突な大魔導師の提案に美しい空色の瞳がこれでもかと見開かれた。
ガーラントは内心(これはいかん申出じゃったか!!)と肝を冷やし、キュリオから厳しい言葉が返ってくるであろうことを予想してすぐさま言葉を取り下げようとしたが――……
しかし、キュリオの唇から次いで出た言葉は意外なものだった。
「……だが、今宵はもう遅い。明日の朝ならばアオイの起床に合わせて私が連れてくることは可能だな」
密かに今夜から愛娘を連れて来たいという想いがキュリオの心のどこかにあったらしい。
予想とは真逆の言葉にガーラントは耳を疑ったが、善は急げとばかりに早速腰を上げたキュリオに大魔導師の笑い声が高らかに響き渡った。
「ほぉっほぉっほぉっ!! キュリオ様が明日お立ちになられる頃に侍女らをこちらへ向かわせれば姫様のお世話も出来ましょう!」
「そうだな。まだ幼いが、この経験がアオイにとってよい刺激になるかもしれない。また明日会おう。ガーラント」
珍しく急いだ口調でそう告げると、街中の民が押し寄せる中で馬車の扉を開いたキュリオは、王の証たる真っ白な翼を広げてあっという間に夜空へ舞い上がる。銀色の光が残像のように一筋の光を残し、神々しいその姿は城を目指してあっという間に見えなくなってしまった。
ある者は月のように輝いた美しい王と言い、またある者は神を具現化したような眩いお姿だったと言った。
しかし、この時のキュリオは……自分の帰りを待つ愛娘を想うただの父親のひとりに過ぎなかった――。
すでに灯されていた街灯が賑わう街並みをあたたかく照らすなかを、キュリオとガーラントを乗せた馬車が一行の先頭を行く。
「いい街だな」
だいぶ古い建物が連なっているが、それでもよく手入れされたそれらは年数を重ねることによって、人が年齢を重ねるように深みのある趣へと変化して街の印象に美しい歴史を感じさせてくれている。
「ですな! 今回の発掘現場にいまでも王の住まう城があったとすれば、ここが王都になったかもしれませぬな」
「そうだな」
石畳の上を軽快なリズムを刻む馬の蹄の音と馬車が行く音を聞きながら街並みを眺めていると、キュリオの姿を一目見ようと路上に詰めかけた人々が群れをなして道の両脇に押し寄せる。
「うむうむ。儂らがいつまでも健やかに笑って居られるのもすべてキュリオ様のお陰じゃからなぁ。皆、その御尊顔を一目でもと願う気持ちは痛いほどわかりますな!」
「……そうか……」
キュリオからしてみれば、王としてやるべきことをやっているに過ぎないが、民の望みに寄り添うのもまた王の為すべき事なのかもしれない……という認識は少なからず心に留めているため、自身の姿を遮る布の幕を下ろそうとはせず成り行きに身を任せている。
片肘をつきながら物憂いげに窓の外を見つめるキュリオの横顔に、ガーラントは城で待つ幼い姫君の存在が脳裏を過った。
「恐れながらキュリオ様、アオイ姫様もこちらにおいで頂くというのは如何ですかな?」
「……っ!」
唐突な大魔導師の提案に美しい空色の瞳がこれでもかと見開かれた。
ガーラントは内心(これはいかん申出じゃったか!!)と肝を冷やし、キュリオから厳しい言葉が返ってくるであろうことを予想してすぐさま言葉を取り下げようとしたが――……
しかし、キュリオの唇から次いで出た言葉は意外なものだった。
「……だが、今宵はもう遅い。明日の朝ならばアオイの起床に合わせて私が連れてくることは可能だな」
密かに今夜から愛娘を連れて来たいという想いがキュリオの心のどこかにあったらしい。
予想とは真逆の言葉にガーラントは耳を疑ったが、善は急げとばかりに早速腰を上げたキュリオに大魔導師の笑い声が高らかに響き渡った。
「ほぉっほぉっほぉっ!! キュリオ様が明日お立ちになられる頃に侍女らをこちらへ向かわせれば姫様のお世話も出来ましょう!」
「そうだな。まだ幼いが、この経験がアオイにとってよい刺激になるかもしれない。また明日会おう。ガーラント」
珍しく急いだ口調でそう告げると、街中の民が押し寄せる中で馬車の扉を開いたキュリオは、王の証たる真っ白な翼を広げてあっという間に夜空へ舞い上がる。銀色の光が残像のように一筋の光を残し、神々しいその姿は城を目指してあっという間に見えなくなってしまった。
ある者は月のように輝いた美しい王と言い、またある者は神を具現化したような眩いお姿だったと言った。
しかし、この時のキュリオは……自分の帰りを待つ愛娘を想うただの父親のひとりに過ぎなかった――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる