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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》バレンタインストーリー11
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※作者より皆さまへ
こちら別で先行しております未だ見ぬ登場人物が出て参ります。
ネタバレは少ないと思いますが、ご了承くださいませ。
「ひぇっ!!」
(ど、どうしようバレちゃったっ!!)
「ご、ごめんなさいお父様っ!! 嘘ついて……、わたし……っ!!」
即座に父親の膝から降りようとしたアオイの腰をキュリオの腕が強く引き寄せた。
「民からの献上品を手にしないのは私の意志だ」
「……お父様……」
「幸い私は満ち足りている。
だからこそそれは必要としている民のもとへ届ける」
「……」
(……孤児院へという意味がわかった気がする……)
「しかし」
「……?」
「私でも欲しくてしょうがない物がひとつだけ存在するんだ」
「……お父様が欲しいもの? ……ですか?」
キュリオが何かを欲することなどあまり心当たりのないアオイは、小首を傾げて美しい父親の瞳を見つめ返しながら次の言葉を待つ。
「ああ、お前の心がこもった物だよ」
「で、でも……例外はないって……」
”…ひとつ残らず孤児院へ。例外はない”
先程の会話を思い出し、アオイの胸がまた切なく痛んだ。
「ああ、すまなかった。
まさかお前が用意していてくれているとは夢にも思わなかったんだ」
「アオイをこの腕に抱いたときからお前の愛を渇望してやまない私が生まれ、同時に私の中のルールに当て嵌まらない唯一の人物が誕生した」
「……それって……」
「もちろんお前だ。お前が与えてくれるものは喜んで受け取ろう。
そして、私がアオイに与えるもの全て……お前にも受け取って欲しい」
キュリオの真っ直ぐな瞳がアオイを見つめている。
空色の瞳の奥に宿すのは親子の絆を越えた愛を求めてやまないキュリオの願望と……
「はい……っ! もちろんですお父様っ!」
嬉しさのあまりキュリオの首に腕をまわして抱き着く彼女の背を幸せそうな微笑みを浮かべて抱きしめるキュリオ。
「アオイ、ひとつ聞いてもいいかい?」
「はいっ!」
キュリオに問われ、まわしていた腕を緩めて再び向き合うと、それまで穏やかだったキュリオの口調がわずかに低くなって暗い感情がなりを潜める。
「……私以外の者にも用意しているのか?」
それは、アオイを愛すれば愛するほどに膨れ上がる嫉妬の炎だった。
「は……」
とまで言いかけて、アオイはなぜか不機嫌さを匂わせるキュリオの堅い表情に親友の言葉を思い出した。
『もうすぐバレンタインデーだねー』
昼食が終わり、教室へと戻ってきたミキとアオイはそれぞれの椅子に座る。
いつも元気なシュウは欠伸を繰り返しながら”寝不足だ”と、人気の少ない体育館裏で昼寝を決め込んでしまったためふたりだけで戻ってきた。
『……バレンタインデーってなぁに?』
『……ん? それってボケてる? それとも渡す相手のいないあたしをからかってる?』
『渡すって何を?』
目を丸くして首を傾げているアオイの様子を見たミキは、その身を乗り出して彼女に迫る。
『でたっ!! 究極の箱入り娘っ!!』
ミキは参った! とはばかりに右手で顔を覆っているが、それでも楽しそうに世間知らずなアオイにいろいろなことを教えてくれる。
『つまりね、バレンタインって今じゃ友達にあげる友チョコとかあるくらいだし、本命にあげる以外はお世話になってますー! って感じで義理チョコあげちゃえばいいって!!』
『友チョコ、……本命、義理? あげるチョコレートにも意味があるの?』
『そうそうっ! 本命がメインで、それはたったひとつだよ♪ 元々の意味はちょっと違うみたいだけどさ、女性が愛を伝えるには最良の日! って……大好きなお父様にもあげたことないんだよね? 言葉知らなかったくらいだし……』
『う、うん……。私あまり家から出たことなくて、そういう日があることも知らなかったから……』
『家庭教師ずっとついてたんだっけ?
そういうことは流石に教えてくれないかー!
じゃあお父様はその日になにか貰ってくるとかなかった? 職場の人からとかは?』
『……どうだろう。皆に聞けばたぶん少しはわかると思うけど……』
ふと、城に従事する女官や侍女の顔を思い浮かべたアオイ。
『皆って?』
『え!? えっと、お父様のお仕事仲間の皆……? ……とか?』
『同僚かー。あんたのお父様ってすごくカッコイイんでしょ?
子持ちでも絶対モテてると思うし……もらってると思うよ? チョコ』
『……それってお父様が皆の”本命”になるのかな……』
ミキの言葉に自然と心が沈んでいくアオイ。
それは表情にも表れて。
『で、でもさ!!
アオイからもらえるチョコが一番うれしいに決まってるって!!
あっっ! それと!! 他の誰かにも渡すなんてことは言わないほうがいいからねっっ!!』
『……他の人にも渡すって言っちゃいけないの?』
『そりゃあそうでしょ!
可愛い娘が他の男にもチョコ渡すなんて知ったら……父親は絶叫もんだからね!』
『……そんなことはないと思うけど……』
『あるのっ! いいからあたしの言うこと聞きなさいっ!! なんか聞かれたら友チョコ用意してるっていいなよ!?』
『う、うん……。わかった』
(友チョコって言葉……お父様わかるかな?)
こちら別で先行しております未だ見ぬ登場人物が出て参ります。
ネタバレは少ないと思いますが、ご了承くださいませ。
「ひぇっ!!」
(ど、どうしようバレちゃったっ!!)
「ご、ごめんなさいお父様っ!! 嘘ついて……、わたし……っ!!」
即座に父親の膝から降りようとしたアオイの腰をキュリオの腕が強く引き寄せた。
「民からの献上品を手にしないのは私の意志だ」
「……お父様……」
「幸い私は満ち足りている。
だからこそそれは必要としている民のもとへ届ける」
「……」
(……孤児院へという意味がわかった気がする……)
「しかし」
「……?」
「私でも欲しくてしょうがない物がひとつだけ存在するんだ」
「……お父様が欲しいもの? ……ですか?」
キュリオが何かを欲することなどあまり心当たりのないアオイは、小首を傾げて美しい父親の瞳を見つめ返しながら次の言葉を待つ。
「ああ、お前の心がこもった物だよ」
「で、でも……例外はないって……」
”…ひとつ残らず孤児院へ。例外はない”
先程の会話を思い出し、アオイの胸がまた切なく痛んだ。
「ああ、すまなかった。
まさかお前が用意していてくれているとは夢にも思わなかったんだ」
「アオイをこの腕に抱いたときからお前の愛を渇望してやまない私が生まれ、同時に私の中のルールに当て嵌まらない唯一の人物が誕生した」
「……それって……」
「もちろんお前だ。お前が与えてくれるものは喜んで受け取ろう。
そして、私がアオイに与えるもの全て……お前にも受け取って欲しい」
キュリオの真っ直ぐな瞳がアオイを見つめている。
空色の瞳の奥に宿すのは親子の絆を越えた愛を求めてやまないキュリオの願望と……
「はい……っ! もちろんですお父様っ!」
嬉しさのあまりキュリオの首に腕をまわして抱き着く彼女の背を幸せそうな微笑みを浮かべて抱きしめるキュリオ。
「アオイ、ひとつ聞いてもいいかい?」
「はいっ!」
キュリオに問われ、まわしていた腕を緩めて再び向き合うと、それまで穏やかだったキュリオの口調がわずかに低くなって暗い感情がなりを潜める。
「……私以外の者にも用意しているのか?」
それは、アオイを愛すれば愛するほどに膨れ上がる嫉妬の炎だった。
「は……」
とまで言いかけて、アオイはなぜか不機嫌さを匂わせるキュリオの堅い表情に親友の言葉を思い出した。
『もうすぐバレンタインデーだねー』
昼食が終わり、教室へと戻ってきたミキとアオイはそれぞれの椅子に座る。
いつも元気なシュウは欠伸を繰り返しながら”寝不足だ”と、人気の少ない体育館裏で昼寝を決め込んでしまったためふたりだけで戻ってきた。
『……バレンタインデーってなぁに?』
『……ん? それってボケてる? それとも渡す相手のいないあたしをからかってる?』
『渡すって何を?』
目を丸くして首を傾げているアオイの様子を見たミキは、その身を乗り出して彼女に迫る。
『でたっ!! 究極の箱入り娘っ!!』
ミキは参った! とはばかりに右手で顔を覆っているが、それでも楽しそうに世間知らずなアオイにいろいろなことを教えてくれる。
『つまりね、バレンタインって今じゃ友達にあげる友チョコとかあるくらいだし、本命にあげる以外はお世話になってますー! って感じで義理チョコあげちゃえばいいって!!』
『友チョコ、……本命、義理? あげるチョコレートにも意味があるの?』
『そうそうっ! 本命がメインで、それはたったひとつだよ♪ 元々の意味はちょっと違うみたいだけどさ、女性が愛を伝えるには最良の日! って……大好きなお父様にもあげたことないんだよね? 言葉知らなかったくらいだし……』
『う、うん……。私あまり家から出たことなくて、そういう日があることも知らなかったから……』
『家庭教師ずっとついてたんだっけ?
そういうことは流石に教えてくれないかー!
じゃあお父様はその日になにか貰ってくるとかなかった? 職場の人からとかは?』
『……どうだろう。皆に聞けばたぶん少しはわかると思うけど……』
ふと、城に従事する女官や侍女の顔を思い浮かべたアオイ。
『皆って?』
『え!? えっと、お父様のお仕事仲間の皆……? ……とか?』
『同僚かー。あんたのお父様ってすごくカッコイイんでしょ?
子持ちでも絶対モテてると思うし……もらってると思うよ? チョコ』
『……それってお父様が皆の”本命”になるのかな……』
ミキの言葉に自然と心が沈んでいくアオイ。
それは表情にも表れて。
『で、でもさ!!
アオイからもらえるチョコが一番うれしいに決まってるって!!
あっっ! それと!! 他の誰かにも渡すなんてことは言わないほうがいいからねっっ!!』
『……他の人にも渡すって言っちゃいけないの?』
『そりゃあそうでしょ!
可愛い娘が他の男にもチョコ渡すなんて知ったら……父親は絶叫もんだからね!』
『……そんなことはないと思うけど……』
『あるのっ! いいからあたしの言うこと聞きなさいっ!! なんか聞かれたら友チョコ用意してるっていいなよ!?』
『う、うん……。わかった』
(友チョコって言葉……お父様わかるかな?)
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