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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》バレンタインストーリー10
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フォークに手を伸ばしたアオイよりも先にキュリオが行動に出た。
キュリオはその長い指先でフォークを掴んだと思えば、アオイの届かないテーブルの端へそれを置き去りにしてしまう。
「お父様……?」
父親の意図がわからず戸惑いの表情を浮かべるアオイ。
「深い意味で食を堪能するには素手が一番だと聞いた事がある」
「……っ!?」
キュリオはアオイの手から直接チョコレートを口にしようと考えているのだ。
「そ、それって……」
「何か不都合でもあるかい?」
「……い、い、いいえっ!」
恥ずかしさにあまり口をパクパクさせているアオイにキュリオが甘く微笑む。
「ああ、甘味が増してしまうかもしれないね」
アオイの背を支えている腕に力を込めると、キュリオは彼女の首元に顔を寄せ幸せそうに呟いた。
「あっ……お父様、くすぐったい……です」
柔らかなキュリオの唇がアオイの肌を撫で、意図せぬおかしな声が出てしまう。
「あまりお前の熱を上げ過ぎるとチョコレートが溶けてしまうな。次へ進もうかアオイ」
もはやキュリオに翻弄されっぱなしのアオイが小箱を手に取り、覚悟を決めてその一つを指先でつかんだ。ココアパウダーのサラサラとした感触が状態の良さを意味しており、ほっと胸を撫で下ろす。
「どうぞ……、お父様」
緊張とキュリオにより齎された甘美なやりとりがアオイを夢見心地へと誘っていく。
「ああ、頂こう」
いつにも増して穏やかな笑みを浮かべたキュリオ。
完璧な美を誇る彼の唇が薄く開くと、アオイの視線と指は吸い込まれるように目的地へと急ぐ。やがてアオイの指先がキュリオの口内へと侵入し、チョコレートが銀髪の王の舌へ移ると……ちゅっと小さく音を立てたキュリオの唇が名残惜しそうにアオイの濡れた指を口元から離した。
(や、やだっ……ドキドキしちゃう……)
パッと視線を逸らしたアオイに気づいたキュリオがくすりと笑う。
キュリオはアオイとふたりきりで過ごすこの甘美な時間がたまらなく愛おしい。
(私は幸せ者だな)
頬を染めて恥じらう彼女が食べてしまいたいほどに可愛い。キュリオの一挙一動に蒼くも赤くもなる愛らしいアオイをどうしてくれようか? と、喜ばせてやりたい反面、もう少し困った顔を見てみたいような衝動に駆られるのを必死で抑えつけながら口の中に広がる優しい甘さに目元を和らげる。
「実に私好みの味わいだ。作った者へ礼を言わなくては」
「ほ、本当ですかっ!?」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべたアオイが嬉しさのあまりキュリオの膝の上で小さく飛び上がった。
「ああ、明日にでも店の者を探し出して城に来てもらおうか」
「……えっ!?」
「さぞ愛にあふれた心優しい者だろう」
「は、はいっ……! お父様のことを考えて作りましっ……」
気に入られ、褒められているとわかった気の緩みからアオイの口を突いて出てしまった本音が室内にこだまする。
「……っじゃなくてっっ!!」
(いけないっ! 私ったら……っ!!)
慌てて口元を押さえるも、気づいたときにはすでに遅く、生まれ出てしまった言葉を回収することも出来ずアオイは激しく動揺をみせる。
すると、小箱を握りしめたアオイの手を覆うようにキュリオの手がそっと重なって――
「アオイ。
すべてお前の手作りなのだろう? 気づかないふりをしてすまなかった」
キュリオはその長い指先でフォークを掴んだと思えば、アオイの届かないテーブルの端へそれを置き去りにしてしまう。
「お父様……?」
父親の意図がわからず戸惑いの表情を浮かべるアオイ。
「深い意味で食を堪能するには素手が一番だと聞いた事がある」
「……っ!?」
キュリオはアオイの手から直接チョコレートを口にしようと考えているのだ。
「そ、それって……」
「何か不都合でもあるかい?」
「……い、い、いいえっ!」
恥ずかしさにあまり口をパクパクさせているアオイにキュリオが甘く微笑む。
「ああ、甘味が増してしまうかもしれないね」
アオイの背を支えている腕に力を込めると、キュリオは彼女の首元に顔を寄せ幸せそうに呟いた。
「あっ……お父様、くすぐったい……です」
柔らかなキュリオの唇がアオイの肌を撫で、意図せぬおかしな声が出てしまう。
「あまりお前の熱を上げ過ぎるとチョコレートが溶けてしまうな。次へ進もうかアオイ」
もはやキュリオに翻弄されっぱなしのアオイが小箱を手に取り、覚悟を決めてその一つを指先でつかんだ。ココアパウダーのサラサラとした感触が状態の良さを意味しており、ほっと胸を撫で下ろす。
「どうぞ……、お父様」
緊張とキュリオにより齎された甘美なやりとりがアオイを夢見心地へと誘っていく。
「ああ、頂こう」
いつにも増して穏やかな笑みを浮かべたキュリオ。
完璧な美を誇る彼の唇が薄く開くと、アオイの視線と指は吸い込まれるように目的地へと急ぐ。やがてアオイの指先がキュリオの口内へと侵入し、チョコレートが銀髪の王の舌へ移ると……ちゅっと小さく音を立てたキュリオの唇が名残惜しそうにアオイの濡れた指を口元から離した。
(や、やだっ……ドキドキしちゃう……)
パッと視線を逸らしたアオイに気づいたキュリオがくすりと笑う。
キュリオはアオイとふたりきりで過ごすこの甘美な時間がたまらなく愛おしい。
(私は幸せ者だな)
頬を染めて恥じらう彼女が食べてしまいたいほどに可愛い。キュリオの一挙一動に蒼くも赤くもなる愛らしいアオイをどうしてくれようか? と、喜ばせてやりたい反面、もう少し困った顔を見てみたいような衝動に駆られるのを必死で抑えつけながら口の中に広がる優しい甘さに目元を和らげる。
「実に私好みの味わいだ。作った者へ礼を言わなくては」
「ほ、本当ですかっ!?」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべたアオイが嬉しさのあまりキュリオの膝の上で小さく飛び上がった。
「ああ、明日にでも店の者を探し出して城に来てもらおうか」
「……えっ!?」
「さぞ愛にあふれた心優しい者だろう」
「は、はいっ……! お父様のことを考えて作りましっ……」
気に入られ、褒められているとわかった気の緩みからアオイの口を突いて出てしまった本音が室内にこだまする。
「……っじゃなくてっっ!!」
(いけないっ! 私ったら……っ!!)
慌てて口元を押さえるも、気づいたときにはすでに遅く、生まれ出てしまった言葉を回収することも出来ずアオイは激しく動揺をみせる。
すると、小箱を握りしめたアオイの手を覆うようにキュリオの手がそっと重なって――
「アオイ。
すべてお前の手作りなのだろう? 気づかないふりをしてすまなかった」
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