【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

《番外編》ホワイトデーストーリー18

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 テスト時間は二十分ほどで終わる昨日の復習のような内容だった。
 提出された答案用紙に目を通し採点を始めたアラン。生徒たちは自習へと切り替わったが、誰もが己のテストの点を気にして集中できずにアランの赤ペンに気を取られている。
 やがて、冷や汗をかいて覚悟を決めたようにきつく目を閉じるアオイの耳に以外な言葉が届く。なんと採点を終えたアランが生徒に告げた言葉は「全員合格ラインに達している」というものだったのだ。

「やったー! よかった!」

「あたしギリギリだったかも……」

 各々の心内を口にする生徒たち。その中でアオイだけが疑念の意を抱いてアランを見つめる。

(嘘……私が合格に達してるわけない……)

 そして穏やかに五時限目の終わりの鐘が響いて帰宅に備える生徒たち。
 どういうことだろうと悩んで立ち上がれずにいるアオイを無表情で見下ろすアランが近づき、用事を頼みたいという彼の言葉に断れるわけがないアオイはアランの背を追いかけて放課後の生徒指導室へとやってきていた。

「白紙の答案用紙を提出したのはお前だけだ。これは私への密かな反抗……というわけではないだろう?」

「……問題を目にした瞬間、頭が真っ白になってしまって……」

 連帯責任だと言われていたため皆に迷惑をかけてしまうと途方に暮れていたアオイだったが、そうしなかったのは他でもないアランのお陰だ。まずはその礼を述べるのが先のはずが、呼び出されたアオイを待ち受けていたのは、もはやアランではなくキュリオとの親子の会話だった。

 窓辺に立ち、生徒が下校する姿を眺めているキュリオの背後で肩を落としたアオイが椅子に座りながら申し訳なさそうに身を縮める。

「睡眠が不足すれば記憶の欠落や正しい判断ができなくなることはわかっている。いま思えば私の言うことを素直に受け入れないお前の言動や行動はそこにあると疑うべきだったな」

 日が傾いて金色の輝きを放ったそれは部屋の中を眩しいばかりに照らし、キュリオの美しい銀髪をも金色に染め上げて、彼の神々しさをより一層引き立てて煌いている。しかし、あくまでも自分に反発するアオイの態度がおかしいのだと言わんばかりの発言に、弾かれるように顔を上げたアオイは首を振って声をあげる。

「……っそれは違います! お許しを頂きたいとお願いした言葉は本心からのものでっ……」

「ならば」

 キュリオが言い終える前に振り返ったアランの瞳が冷たく鋭さを増す。

「愚かな気を起こさせた原因からお前を遠ざける必要がある。
相手は誰だ? あのふたりのクラスメイトか? 或いはこの学園の雰囲気そのものか?」

「……っ!? それをおっしゃるなら原因はお父様です! 
自己管理ができていなかった私に非があるのはわかりますが……いつまでも檻のなかにいるみたいで苦しいんです!!」

(どこに居てもお父様の目がある……そして少しでもご機嫌に触れるような行動に出れば強く抑えつけられてしまう! きっと学園を辞めさせられるのも……ミキやシュウと離されるのも時間の問題だわ!)

 力の限り想いを叫んだアオイは肩で荒い息を吐きながら、冷やかな目でこちらを見つめるキュリオへ更に訴えかける。

「お父様から逃げ出したいと言っているわけではないんです!
ただ……ほんの少し、私に判断を任せて頂けたらっ……」

 なるべく快く頷いてもらえるよう、言葉を選びながら反発ではなく懇願に徹する。本来ならば学園ではなく、互いの部屋で話し合うべきなのかもしれないが、キュリオの行動に歯止めが効かなくなる前にと決断を急いだアオイが正しいかどうかはわからない。

(ここまで言ってだめだったら……ううん、お父様はきっとわかってくださる。また交換条件は出されるかもしれないけれど……)
 
 キュリオはただでは頷かず条件を出すことが多い。それだけアオイに覚悟があるかどうかを試しているのだと思われるが、条件がいつかクリアできなくなったときに素直に諦めさせるキュリオの思惑であることにアオイは気づかない。
 どうあってもアオイを城の外に出したくないキュリオは、常にそのチャンスを狙っているといっても過言ではないのだ。

 そんなこととは露知らず、淡い期待を込めて信頼という名の愛情を言葉に載せるが――

「言いたいことはそれだけか?」

「え……?」

 アオイの中にあった希望の欠片は無残にも打ち砕かれ、必死の訴えなど最初から無意味であると思い知ることとなってしまったのだった――。
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