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第一章「妄念の妖精」
04.旅の道中、謎の少女。
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大きな角が額の先に凛々しく聳え立つ2匹の馬が、そのよく手入れされた美しい純白の毛並みをたなびかせながら台車を牽き、力強く走っていた。その角ありの馬----空翔が元いた世界では伝説上の動物だったユニコーンが、この世界では実在し、聖角馬と呼ばれているらしい。聖角馬は陸路で長距離移動する場合には欠かすことの出来ない動物で、人々との関わりも深いと言う。
その聖角馬が牽く台車は外も中も絢爛豪華に装飾され、特にその内側は、大豪邸の部屋を一室そのまま移動させたのではないかと錯覚させるほど充分すぎる設備が整えられていた。聖角馬の美しい走りによって道の凹凸以上の振動が伝わって来ることのない台車は、その設備や装飾も相俟って最高級の過ごしやすさを生み出していた。
そんな台車の中、他の設備に負けず劣らずの豪華さを醸し出す大きな机をを取り囲むようにして、四人の少女と一人の少年が何やら表情を硬くしていた。
「つ、次は何をしよっか?」
少年がほかの四人に尋ねるも、無言。いつもならいの一番にその言葉に反応する元気少女すらも、桃色の綺麗な髪を後ろで一つに結った碧と紅のオッドアイの少女から何故か目を逸らし、少年の言葉に反応できないでいた。ほかの二人もまた、同じ人物に目を向けることができずに無言を貫いていた。その時目を逸らされている本人はというと、少し俯きながら、そのオッドアイにうっすらと涙を浮かべているという始末。その場に流れる微妙な空気のせいで、五人はそれ以降、暫く声を出せなかった。
「ま、まぁこの結果も趣があるってもんよねっ!」
五分ほど経った頃、そんな静寂をかき消したのは他でもないそのオッドアイの少女――――璃衣花だった。瞳の涙はまだ若干残ってはいたものの、明るく取り繕う程度の元気は取り戻せた、という感じだった。その突然の言葉にほかの四人が開いた口が塞がらないという様子で唖然とする。璃衣花もその反応に最初は戸惑ったが、しかし四人の表情は次第に崩れ、次の瞬間にはその全てが笑いに変わっていた。
突然笑い出したことに疑問符を浮かべる璃衣花。その様子に気づいた少年――――空翔は笑うことを止められないまま、しかし璃衣花に言った。
「趣って、お前...くふっ...」
「な、なによっ!」
「オセロ18連敗は...流石に...ふふっ」
「っ!うっさいわね!」
そう、璃衣花はこの旅路でオセロで18連敗という記録を叩き出していたのだ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
事の発端は七々瀬家を出発してから三十分程経った頃だった。突然璃衣花が自分のカバンを漁り、その中からオセロのセットを取り出した。そして彼女は溌剌と皆に告げた。
「皆でオセロ大会しない?まだ着くまで暫く時間かかりそうだし。」
その言葉を聞いた途端、三人の少女――――真衣夏、紅葉、雪奈の脳裏にはいつかの大富豪の様子が頭に浮かんでいた。そして同時に「あぁ、またこれ本気でやると大きい二人がめんどくさいことになるタイプだ」と感じていた。その隣ではやけに目を光らせて璃衣花の手にあるオセロセットを見つめる空翔がおり、その姿を見て三つ子はそれぞれ一つずつ、ため息をついたのだった。
しかしその予感は直後に半分だけひっくり返ることとなる。
戦う順番は最初はくじで決められ、その結果初戦は空翔と真衣夏の対局となった。互いに対面の椅子に座り、そして軽く言葉を交わした。
「空翔にぃが相手だからって、手加減とかはしてあげないからね!」
「おう、全力で来い!半端なことしてたら、オセロでの俺には勝てないぜ!」
「へぇ、この手のゲームでは珍しく強気なんだね。もしかして、オセロ得意?」
「得意...と言うよりかは、ちょっとした秘策があるんだよ。まあ、やってればわかるさ。」
空翔の態度の珍しさに多少の疑問を持つ真衣夏。しかしそれに気付かなかった空翔は、先手である自分からその試合を始めていた。真衣夏も慌てて対局に戻り、その試合は始まった。
そこから数分の時が流れ、対局は大詰めを迎えていた。面の中で空白なのは残り四つ。本来であれば空翔の番であるが、どこに置いても真衣夏の石を挟めないのでパスをし、真衣夏の手が空きに伸びる。残りの空きは三つ。そのとき、真衣夏が空翔に話しかけた。
「空翔にぃ、これ次もパスじゃん。もーらいっ。」
その言葉の通り空翔はまたしても置ける場所が無かったので真衣夏が置く。残り二つ。
「あれ?またパスじゃない?これは私の勝ちみたいだね!」
また真衣夏が置く。残り一つ。この時点で明らかに真衣夏の白の方が多かったので、全員が真衣夏の勝ちを確信していた。
ただ一人、対面に座る空翔を除いては。
そして空翔は、小さくもはっきりとした声で呟いた。
「...釣れた。」
「え?」
真衣夏が不思議に思ったのも束の間、空翔の手によって白の石が黒にひっくり返された。その手はなかなか止まらず、多くの石をひっくり返し続けた。
なかなか止まらない空翔の手。オセロの石をひっくり返すと言った単純作業で、実際には20秒もかかっていないのだが、なぜだか何分にも引き伸ばされたように感じられるひとときだった。
そしてその手がやようやく止まり、この対局を審判として見ていた紅葉が石を数え始めた。全員無言のままその作業は続き、やっと終わって紅葉は口を開いた。
「30対34で、空翔お兄ちゃんの勝ち、だよ...!」
その言葉は、一瞬だけ時が止まったかのように錯覚させるほどに衝撃的なものだった。つい数刻前まで、圧倒的な差が着いていた盤面がひっくり返ったからだ。すると空翔は、勝利の喜びを噛み締めながら少女達に話しかけた。
「どーだ、驚いただろ。実のところ最後の展開まで、全部計算通りなんだ。」
「「「「全部!?」」」」
驚きのあまり、四人の声が重なった。にわかには信じ難いその言葉に、それぞれが驚愕の色を浮かべていた。しかしそんな四人に何食わぬ顔で空翔は告げる。
「そ、全部だ。昔っから父さんとやりまくってたからさ、普通くらいの相手の打つ手ならだいたい読めんのよ。」
「...空翔にぃ、オセロはちょー強いんだね!大富豪はあんなに弱かったのに!」
「うぐっ!?」
思いがけない方向からの攻撃に、空翔が疼く。しかしその会話からどんどん場が盛り上がり、すぐに和気藹々とした楽しい旅の道中へと、変化していったのだった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
しかし、璃衣花は予想通りに弱く、空翔という強者もいるせいで彼女は18連敗というある意味歴史的な記録を叩き出してしまったのであった。そんな時に張本人の「趣がある」発言に空翔が笑いを堪えられず、今の状況に至ったのだった。
「つ、次は...そうね!ポーカーでもしよ!?」
それでもめげずに次のゲームを提案する璃衣花。しかしそこに空翔がつっこむ。
「お前ポーカーやったら間違いなくロイヤルストレートフラッシュ一点狙いするだろ...」
「ええ、あたりまえじゃない。一番強い役で上がってこそ価値があるのよ!」
「ただでさえ俺と同じでこういうゲーム下手くそなのに、そんなことしてるから負けるんだよ...」
「ーっ!いいじゃないのーっ!」
そんなやりとりのせいでなかなか次にやることが決まらない。妹三人も混ざって計5人で、あーだこーだ言いながら何をするか決めていた。すると突然
「警戒!」
と、何かに気づいた椎也の声が台車に響いた。五人は疑問符を浮かべながら椎也の方を向き、何があったのかを聞こうとしたが時すでに遅し。椎也への疑問が喉から発せられる直前――――
――――台車が真横に倒れた。
さっきまで重力を受けていた方向と文字通り90度違う方向から重力を受けている。このままではさっきまで壁であったところに叩きつけられると思った空翔は
「エスーカ!」
と叫んだ。反射的に叫んだその魔法により七々瀬家の者を全て浮遊させていた。後になって振り返ればよくもこんなことができたと本人すら驚く所業だったのだが、
「ねえねえ!異端魔法使いさんはどこですか?ねえってば!出てきてよぉ~!ミーちゃんが殺してあげるから~!はーやーくー!ねえ!」
そんなふうに振り返ることすらできなくなりそうな恐ろしい声が、車外から聞こえてきていた。
元気で溌剌とした可愛らしいその声には、どこか真衣夏を彷彿とさせるものがあった。しかしその物騒な物言いと
「ねぇ~!この中にいるんでしょー!あっ、そこの男の子だよね!ねぇ!早く出てきて!ミーちゃんに殺されて!ねえ!」
そう言って車内を覗いた、完全に光を失った双眸によって、明らかに自分達とは違う人間だという印象を七々瀬家全員が与えられていた。
空翔は無意識のうちに七々瀬家全員をゆっくりと着地させ、意識して目の前の謎の少女の言葉の意味を咀嚼していた。
『突然台車が倒れたのはなぜだ...?そしてあいつはなぜ俺が異端魔法使いだと言う事を知っている...?』
そんな二つの疑問が空翔の脳内を巡り続けていた。しかしいくら考えても答えが出るはずもなく、ついには数刻の後に少女が痺れを切らしたように
「ねえ!ちょっと!ミーちゃんの質問に答えてってば~!ねぇ!キミが異端魔法使いさんなんでしょ!ねぇ!答えてくれないならみんな殺しちゃうよ!ねぇ!」
そんな恐ろしい事を言い始めた。一同の背筋が凍った。流石にこのまま黙っているわけにもいかないと感じた空翔は、去勢を張って少女の質問に初めて答えた。
「い、異端魔法使い?変な事言ってんじゃねえよ。まずそもそもお前は誰だ?人にべらべら物を聞く割には、まともに自己紹介すら出来てねえじゃねえか。」
すると煽るように空翔が言ったことに腹を立てる様子もなく、むしろやっと答えてくれたことに喜びを覚えているかのようにその口角を吊り上げ、不気味な笑いを顔面に貼り付けて空翔に返した。
「あ!ねぇ!やっと答えてくれたねぇ!確かに自己紹介してなかった!ごめんね!」
「...お、おう、それでいい。早く自己紹介してくれねえか?」
会話が続いたことに更に嬉しくなったのだろうか、謎の少女はさらにその口角を吊り上げる。口角を吊り上げれば吊り上げるほど不気味さが増していくその奇妙な笑顔は、七々瀬家の者たちに相当の圧迫感を与えていた。
そしてその吊り上がりきった不気味な口から、恐怖の言葉が告げられた。
「えっとねぇ!ミーちゃんはねぇ!幻蝶団の第六幹部、ミースっていうの!あ!幻蝶団ってのはねぇ!有名な魔法使いさんとか、何故か生き残ってる異端魔法使いさんをみーんな殺すためのぐるーぷなんだよ!すごいでしょ!あ!自己紹介はこんな感じでいいよねぇ!ねぇ!」
その聖角馬が牽く台車は外も中も絢爛豪華に装飾され、特にその内側は、大豪邸の部屋を一室そのまま移動させたのではないかと錯覚させるほど充分すぎる設備が整えられていた。聖角馬の美しい走りによって道の凹凸以上の振動が伝わって来ることのない台車は、その設備や装飾も相俟って最高級の過ごしやすさを生み出していた。
そんな台車の中、他の設備に負けず劣らずの豪華さを醸し出す大きな机をを取り囲むようにして、四人の少女と一人の少年が何やら表情を硬くしていた。
「つ、次は何をしよっか?」
少年がほかの四人に尋ねるも、無言。いつもならいの一番にその言葉に反応する元気少女すらも、桃色の綺麗な髪を後ろで一つに結った碧と紅のオッドアイの少女から何故か目を逸らし、少年の言葉に反応できないでいた。ほかの二人もまた、同じ人物に目を向けることができずに無言を貫いていた。その時目を逸らされている本人はというと、少し俯きながら、そのオッドアイにうっすらと涙を浮かべているという始末。その場に流れる微妙な空気のせいで、五人はそれ以降、暫く声を出せなかった。
「ま、まぁこの結果も趣があるってもんよねっ!」
五分ほど経った頃、そんな静寂をかき消したのは他でもないそのオッドアイの少女――――璃衣花だった。瞳の涙はまだ若干残ってはいたものの、明るく取り繕う程度の元気は取り戻せた、という感じだった。その突然の言葉にほかの四人が開いた口が塞がらないという様子で唖然とする。璃衣花もその反応に最初は戸惑ったが、しかし四人の表情は次第に崩れ、次の瞬間にはその全てが笑いに変わっていた。
突然笑い出したことに疑問符を浮かべる璃衣花。その様子に気づいた少年――――空翔は笑うことを止められないまま、しかし璃衣花に言った。
「趣って、お前...くふっ...」
「な、なによっ!」
「オセロ18連敗は...流石に...ふふっ」
「っ!うっさいわね!」
そう、璃衣花はこの旅路でオセロで18連敗という記録を叩き出していたのだ。
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事の発端は七々瀬家を出発してから三十分程経った頃だった。突然璃衣花が自分のカバンを漁り、その中からオセロのセットを取り出した。そして彼女は溌剌と皆に告げた。
「皆でオセロ大会しない?まだ着くまで暫く時間かかりそうだし。」
その言葉を聞いた途端、三人の少女――――真衣夏、紅葉、雪奈の脳裏にはいつかの大富豪の様子が頭に浮かんでいた。そして同時に「あぁ、またこれ本気でやると大きい二人がめんどくさいことになるタイプだ」と感じていた。その隣ではやけに目を光らせて璃衣花の手にあるオセロセットを見つめる空翔がおり、その姿を見て三つ子はそれぞれ一つずつ、ため息をついたのだった。
しかしその予感は直後に半分だけひっくり返ることとなる。
戦う順番は最初はくじで決められ、その結果初戦は空翔と真衣夏の対局となった。互いに対面の椅子に座り、そして軽く言葉を交わした。
「空翔にぃが相手だからって、手加減とかはしてあげないからね!」
「おう、全力で来い!半端なことしてたら、オセロでの俺には勝てないぜ!」
「へぇ、この手のゲームでは珍しく強気なんだね。もしかして、オセロ得意?」
「得意...と言うよりかは、ちょっとした秘策があるんだよ。まあ、やってればわかるさ。」
空翔の態度の珍しさに多少の疑問を持つ真衣夏。しかしそれに気付かなかった空翔は、先手である自分からその試合を始めていた。真衣夏も慌てて対局に戻り、その試合は始まった。
そこから数分の時が流れ、対局は大詰めを迎えていた。面の中で空白なのは残り四つ。本来であれば空翔の番であるが、どこに置いても真衣夏の石を挟めないのでパスをし、真衣夏の手が空きに伸びる。残りの空きは三つ。そのとき、真衣夏が空翔に話しかけた。
「空翔にぃ、これ次もパスじゃん。もーらいっ。」
その言葉の通り空翔はまたしても置ける場所が無かったので真衣夏が置く。残り二つ。
「あれ?またパスじゃない?これは私の勝ちみたいだね!」
また真衣夏が置く。残り一つ。この時点で明らかに真衣夏の白の方が多かったので、全員が真衣夏の勝ちを確信していた。
ただ一人、対面に座る空翔を除いては。
そして空翔は、小さくもはっきりとした声で呟いた。
「...釣れた。」
「え?」
真衣夏が不思議に思ったのも束の間、空翔の手によって白の石が黒にひっくり返された。その手はなかなか止まらず、多くの石をひっくり返し続けた。
なかなか止まらない空翔の手。オセロの石をひっくり返すと言った単純作業で、実際には20秒もかかっていないのだが、なぜだか何分にも引き伸ばされたように感じられるひとときだった。
そしてその手がやようやく止まり、この対局を審判として見ていた紅葉が石を数え始めた。全員無言のままその作業は続き、やっと終わって紅葉は口を開いた。
「30対34で、空翔お兄ちゃんの勝ち、だよ...!」
その言葉は、一瞬だけ時が止まったかのように錯覚させるほどに衝撃的なものだった。つい数刻前まで、圧倒的な差が着いていた盤面がひっくり返ったからだ。すると空翔は、勝利の喜びを噛み締めながら少女達に話しかけた。
「どーだ、驚いただろ。実のところ最後の展開まで、全部計算通りなんだ。」
「「「「全部!?」」」」
驚きのあまり、四人の声が重なった。にわかには信じ難いその言葉に、それぞれが驚愕の色を浮かべていた。しかしそんな四人に何食わぬ顔で空翔は告げる。
「そ、全部だ。昔っから父さんとやりまくってたからさ、普通くらいの相手の打つ手ならだいたい読めんのよ。」
「...空翔にぃ、オセロはちょー強いんだね!大富豪はあんなに弱かったのに!」
「うぐっ!?」
思いがけない方向からの攻撃に、空翔が疼く。しかしその会話からどんどん場が盛り上がり、すぐに和気藹々とした楽しい旅の道中へと、変化していったのだった。
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しかし、璃衣花は予想通りに弱く、空翔という強者もいるせいで彼女は18連敗というある意味歴史的な記録を叩き出してしまったのであった。そんな時に張本人の「趣がある」発言に空翔が笑いを堪えられず、今の状況に至ったのだった。
「つ、次は...そうね!ポーカーでもしよ!?」
それでもめげずに次のゲームを提案する璃衣花。しかしそこに空翔がつっこむ。
「お前ポーカーやったら間違いなくロイヤルストレートフラッシュ一点狙いするだろ...」
「ええ、あたりまえじゃない。一番強い役で上がってこそ価値があるのよ!」
「ただでさえ俺と同じでこういうゲーム下手くそなのに、そんなことしてるから負けるんだよ...」
「ーっ!いいじゃないのーっ!」
そんなやりとりのせいでなかなか次にやることが決まらない。妹三人も混ざって計5人で、あーだこーだ言いながら何をするか決めていた。すると突然
「警戒!」
と、何かに気づいた椎也の声が台車に響いた。五人は疑問符を浮かべながら椎也の方を向き、何があったのかを聞こうとしたが時すでに遅し。椎也への疑問が喉から発せられる直前――――
――――台車が真横に倒れた。
さっきまで重力を受けていた方向と文字通り90度違う方向から重力を受けている。このままではさっきまで壁であったところに叩きつけられると思った空翔は
「エスーカ!」
と叫んだ。反射的に叫んだその魔法により七々瀬家の者を全て浮遊させていた。後になって振り返ればよくもこんなことができたと本人すら驚く所業だったのだが、
「ねえねえ!異端魔法使いさんはどこですか?ねえってば!出てきてよぉ~!ミーちゃんが殺してあげるから~!はーやーくー!ねえ!」
そんなふうに振り返ることすらできなくなりそうな恐ろしい声が、車外から聞こえてきていた。
元気で溌剌とした可愛らしいその声には、どこか真衣夏を彷彿とさせるものがあった。しかしその物騒な物言いと
「ねぇ~!この中にいるんでしょー!あっ、そこの男の子だよね!ねぇ!早く出てきて!ミーちゃんに殺されて!ねえ!」
そう言って車内を覗いた、完全に光を失った双眸によって、明らかに自分達とは違う人間だという印象を七々瀬家全員が与えられていた。
空翔は無意識のうちに七々瀬家全員をゆっくりと着地させ、意識して目の前の謎の少女の言葉の意味を咀嚼していた。
『突然台車が倒れたのはなぜだ...?そしてあいつはなぜ俺が異端魔法使いだと言う事を知っている...?』
そんな二つの疑問が空翔の脳内を巡り続けていた。しかしいくら考えても答えが出るはずもなく、ついには数刻の後に少女が痺れを切らしたように
「ねえ!ちょっと!ミーちゃんの質問に答えてってば~!ねぇ!キミが異端魔法使いさんなんでしょ!ねぇ!答えてくれないならみんな殺しちゃうよ!ねぇ!」
そんな恐ろしい事を言い始めた。一同の背筋が凍った。流石にこのまま黙っているわけにもいかないと感じた空翔は、去勢を張って少女の質問に初めて答えた。
「い、異端魔法使い?変な事言ってんじゃねえよ。まずそもそもお前は誰だ?人にべらべら物を聞く割には、まともに自己紹介すら出来てねえじゃねえか。」
すると煽るように空翔が言ったことに腹を立てる様子もなく、むしろやっと答えてくれたことに喜びを覚えているかのようにその口角を吊り上げ、不気味な笑いを顔面に貼り付けて空翔に返した。
「あ!ねぇ!やっと答えてくれたねぇ!確かに自己紹介してなかった!ごめんね!」
「...お、おう、それでいい。早く自己紹介してくれねえか?」
会話が続いたことに更に嬉しくなったのだろうか、謎の少女はさらにその口角を吊り上げる。口角を吊り上げれば吊り上げるほど不気味さが増していくその奇妙な笑顔は、七々瀬家の者たちに相当の圧迫感を与えていた。
そしてその吊り上がりきった不気味な口から、恐怖の言葉が告げられた。
「えっとねぇ!ミーちゃんはねぇ!幻蝶団の第六幹部、ミースっていうの!あ!幻蝶団ってのはねぇ!有名な魔法使いさんとか、何故か生き残ってる異端魔法使いさんをみーんな殺すためのぐるーぷなんだよ!すごいでしょ!あ!自己紹介はこんな感じでいいよねぇ!ねぇ!」
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