君と僕達の英傑聖戦

寿藤ひろま

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第一章 さらば日常

第4話 夕闇は姿を変える

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何気ない日常を歩いていた夕暮れ時、突如として謎の爆発音が鳴り響く。
「なんだなんだなんだ!?……」
2発・3発と立て続けに鳴り響く爆発音は、鼓膜を今にも裂き開かんとするほどに大きかった。
上空を見渡すとうっすらと黒煙の様なものが上がっているように見え、僕たちはパニックに陥った。
民家ガスの爆発か…!?それとも近くにある発電所での事故…!
あまりに突然の出来事に僕たちは声も出ないほどの恐怖を感じ、とにかく今は原因を探っている場合ではないと五感が叫んでいた。
頭の中に浮かんでくる言葉は帰宅の2文字だけだった。
「幸人!走るぞ‼︎」
僕は幸人に走って家に帰ろうと言ったが、なぜか彼は首を横に振った。
「なんでだよ!外にいたら危険だ!!」
この状況から早く逃げ出したいという焦りと、どうして立ち止まっているのか?という怒り2割で構成された言葉を幸人にぶつけた。
なのに、彼から帰ってきたのは予想外の言葉で…それが全ての始まりだった。


「宏樹!あれが見えないのか?」
「…え?」
焦りながらも僕は幸人が指差す方向を見つめた。
……なんだなんだ……??
一見するとそこには特に変わらない暗闇が広がっているようにしか見えなかった。
「…!!」
だが、そこに潜んでいた存在に気づいた僕は絶句した。

……!!どうしてこんな場所に…!?
それはなんと、戦争時代に使われていた陸上兵器『戦車』だった。
「ありえない……!!!」
通常の車の一回りも二回りも大きく、無数の生々しい弾痕だんこんが残されているそれは、街々の木々や家の壁を破壊しながらどこかに向かって進んでいた。
一体誰が………!

不思議なことにその車両からは人の気配を感じ取ることができず、それがまた恐ろしく不気味なオーラを放っていた。
自宅で見たあの写真が関係しているのだろうか?
まさかこれも夢……?いや、夢にしてはあまりにも鮮明でとても似つかない……。
これは間違いなく現実。なのに目の前で起こっていることは明らかに非現実的…!
絵に描いた様な白昼夢に僕の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

「早く逃げよう!」
「逃げても無駄だ!」
……???
「どうして……!?」
…何を言って、、るんだ…?
一刻も早く逃げたほうがいいのに、それに拒む幸人の反応に僕は戸惑う。
奴らの様子からはまだこちらに気づいているような気配は感じられない。走って逃げればまだなんとかなるのではないかと強く思う。

幸人も恐怖で気が動転して冷静な判断ができなくなっているのか?
それとも逃げても追いつかれると考えている?
……いや…そもそも奴らはこちらを襲ってくるのか…?
元から奴らは襲ってくるような存在ではないのか……?
考えれば考えるほどぐるぐると思考は巡り、ただただ時間だけが流れていく。
そんな時、さらに奇妙な事実に僕は気がつく。
それは周囲の人に助けと避難を呼びかけようと辺りを見渡した時だった。

「おい…幸人、まずいぞ…」
気づいた時にはもう通行人は誰一人としていなかった。
すっかり暗くなったとはいってもまだ時刻は午後6時前で、加えてここは電灯のついている街道路。
仕事から帰宅しているサラリーマンや部活から帰る中高生の1人くらい歩いていてもおかしくない。
むしろ歩いていないほうが不自然だ。
「早く逃げたほうがいいだろ!?…絶対おかしいって!」
僕は焦りで我を忘れてやや声を荒げる。
「やっぱり…逃げるしかないのか…?」

………え?逃げるしかないのか…?とはどういう意味だ??
こんな状況になってまで逃げる以外の解決策なんてあるはずがない。
幸人はまるでフリーズしてしまったゲームのキャラクターの様に、どこか一点を見つめて何かを考えているようだった。
…いや、、、そうだ、よく思い返してみると今の幸人は何かがおかしい。
さっきから妙に場慣れしているように見えるし逃げようともしない…。
それに、まるで奴らのことを…?
……もしかして…“既に”知っている…??
「幸人、何か知って…」
僕が幸人に尋ねようとした瞬間、地響きの様な轟音が耳に入ってきた。


…近い!
感覚がそう叫んでいる。
少なくとも半径50mくらいの距離に何者かがいると。
そして、その何者かに最初に気がついたのは幸人だった。
「宏樹後ろだ!!!」
彼が叫ぶや否や僕は振り返る。
……やばい!確実にやばい‼︎
街角からヌッと姿を現したのは、角ばったフォルムをしている見たこともない戦車だった。
大きさは3mはゆうにあろうかというほど巨大で、遠目からでもその威圧は凄まじいものだった。
人間の頭の様な部分から突き出ている図太い砲身ほうしんは、言葉で言い表せないほどの重圧を放っていた。
さらに怖いのは頭を左右に振っている様子がまるで周囲を見渡しているように見えるのだ。
……動いたら、、、殺される…‼︎
直感でそう思った僕は一歩も動かずに、その存在がその場からいなくなることをただただ祈った。
だが、その願いが叶うことはなく遂に恐れていたことが起こる。

ゴゴゴゴゴという鈍い轟音と共に、それは白煙を撒き散らしながらこちらに向かってきたのだ。
流石に身の危険を感じた僕は、一刻も早くここから逃げようと幸人の手を掴んだ。
「に…!逃げるぞ幸人!!!ゆきっ……!?」
だが掴んだ手から反応が返ってくることはなかった。
そう、彼はその場に倒れていつの間にか気を失っていたのだ。
「幸人おい!起きろって!!!」
精一杯友人の体を揺すったが結局彼は起きることはなく、近づいてくる轟音に混じってだんだん自分の声すら聞こえなくなった。
逃げられないと悟った時あまりの恐怖に頭が真っ白になり、近づいてくる存在をただ呆然と眺めていることしかできなかった。
……もう、間に合わない…。
距離にして5mくらいだろうか?いやそれよりもっと近い。
その戦車は僕と幸人の目と鼻の先に停車し、頭から突き出た砲身を下に向けてこちらを狙ってきた。

死ぬ!撃たれる…!!!
現代社会において、こんな状況に陥った人間が果たしているのだろうか?
誰かに撃たれる、殺されるという感覚を覚えた高校生が他に居ただろうか?
これが幻なら、どれほどよかっただろうか?
これがただの悪い夢で、今すぐにでもいつもの日常に戻れるとしたらどれほど嬉しかっただろうか?
そんな直視できない現実を前に、ただただ行き場のない感情だけが目から溢れ出る。
…もう、終わった……………。

太く大きい砲身から今、砲弾ほうだんが放たれると思い全てを諦めたその時。
え…?!なんだなんっ…!?
僕の視界に急に青色の何かが広がった。
なんと、目前に迫った戦車から出火したのである。
その火は見たこともないほど青白い色をしており、目の前で燃え盛っているのにも関わらずまるで熱くなく、むしろ涼しいと感じるような気さえした。
遂には戦車全体が炎に包まれ、一つの巨大な炎の塊になった。
そして炎は徐々に小さくなっていき、最後には手のひらに乗るほどに小さい人玉の様になった。
僕はしばらくそれを眺めていたが、突然その炎がこちらへ飛んできた。
「なっ!………」
驚いた僕は反射的に右手を出して顔を隠した。
出した右手にわずかな熱を感じると共に、僕は強い眠気に襲われてその場に倒れ込み、気を失ってしまった。
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