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第二章 手がかり
間章
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静まり返った夜道をディーゼルカーの駆動音が走り抜けていく。
「もう少しで着くぞ」
「はい、上官」
私はとある国の軍人として働いている。
今日は同盟国である「亜大」と「露寒」との重要な軍事会合がとある野営基地で開催されるそうだが、実態は既に決定していることを確認し合うだけの意味のない集会だ。
上の人たちは今日の会合を、これからの陸軍の動きを決める重要な日とかなんとか言っているが、参加するのが面倒だからそこそこの階級についた自分達を良いように使っているだけだろう。
「こんな中で会合とか、正気じゃねぇよ全く」
「ほんとにそうですよ」
上官のうんざりした声に思わず私も続いた。
今の季節は真冬の中の真冬。
辺りは降り積もった雪で覆われ、道路とそばにある畑との境界はまるで見えず、いつ溝に落ちるか分からない。
それでもなお雪は降り続け、前進するのが怖いくらいフロントガラスが真っ白になっていく。
車内に流れるラジオから、これから猛吹雪になるという情報が耳に入ってきて、ラジオよりも大きいため息を吐く。
……なんでわたしこんなとこにいるんだろう………
過ぎていく銀世界を眺めながらそう考える。
淡々と仕事をするところが評価されたのか、軍人今はもうそこそこの階級についているし、俸給もそれなりにもらっていて不満を感じたことはない。
でも正直に言って地位だとかお金だとか、そんなものは欲しいと思っていない。
わがままなことかもしれないが、私が軍隊に入った理由は他にある。
私が軍隊に入った理由は理想的な出会いをしたかったからだ。
軍隊に入ったら優しくて頼もしく、それでいて品のある男性に出会えると思ったのだ。
毎日欠かさず訓練をして体を鍛え、世のため人のため国のために。
日々戦っている屈強な男性にある種の憧れを抱いていたのだ。
なのに現実はまるで違っていた。
余裕がないのかみんなピリピリと張り詰めた人ばかりで、モラルがないのか当たり前のように更衣室の中に入ってこられたこともあった。
軍人の全員がこんな人間じゃないとは頭では分かっているが、今の私にはこんな場所で理想的な男性と巡り合うのは絶望的なことのように思えてならなかった。
「はぁーー」
私は吐息で曇らせたドアガラスに小さなハートを書いては消し、書いては消した。
後ろの席だから上官には多分バレない…いや、別にバレても問題ないけど…。
今更だけど、こんな場所で「出会いが欲しい!」なんてとても言えたものじゃない。
そんなことを言おうものなら男性たちの心象を悪くしてしまう。
間接的に『あなたたちは理想の男性じゃない』と言っているようなものだろう。
私の身勝手で部隊の士気を下げてしまうのは気が引ける。
………どこでなら会えるんだろう…
今から男探しのために他の仕事を探す!なんて親にも友達にも言えないことをするような勇気は持ち合わせていない。
いや、そんなことを言ったらそもそも男性へ告白するだけの勇気さえない。
男性に告白したという友達は口から心臓が飛び出てくるかと思うほどドキドキしたと言っていたし、私にはきっと無理だろう。
…でも告白しないと始まらないよね………案外言ってみたら簡単かも…?
………いや、やっぱ怖い!誰かいい男性と巡り合えないかなぁ………あ!合コンに誘ってもらおうかな!そうだ、そうしよう……!
…でも………売れ残ったら寂しくて三日三晩落ち込むかも……
それに合コンに誘ってくれそうな友達は………
「はぁ…」
きっとこんな風にどっちつかずで無気力な女だから誰からも好かれないのだろう。
ああ、どこかに思わず声をかけたくなるような男性はいないだろうか?
白馬に乗った王子様じゃなくてもいい。
甲冑を纏った勇者様じゃなくてもいい。
ただただ笑顔が素敵でずっとずっとそばにいてくれる恋人が欲しい。
こんなわたしにもいつか誰かの花になれる日が訪れるのだろうか?
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