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第三章 出ずる巨人
第9話 その一撃は全てを壊す
しおりを挟む…なんでここに!?
宏樹の背後に鎮座していたのは、まさに昨日街中で襲い掛かって来た戦車「KV-2」だったのだ。
「なんなんだ一体…!?」
つい先日に目の前で人玉に変化するところを見てしまっただけに、宏樹は突然の出現にひどく驚いた。
そもそもなぜ戦車が人玉に変化して、その人玉がこちらを追いかけてくるのか?
そして、なぜ今目の前にこの戦車が現れたのか?考える謎が多すぎて、宏樹の頭は混乱していた。
そんな謎は解決することなく、事態は宏樹を置き去りにするかの様に進展していく。
「なんだ…?」
KV-2の出現と同時に、こちらに進んで来ていたはずの戦車がぴたりと停車した。
何が起こったのかと思い、止まった戦車の方を眺めていると、止まった三体の戦車がこちらに向けて砲撃を仕掛けて来た。
「うわっ!!」
2発3発4発とドゴンドゴンと砲撃音が響く中、宏樹は頭を隠して地面に張り付いた。
砲弾が直撃すれば頭を隠していてもなんの意味もない。
そんなのは考えなくても直感で分かりそうなものだが、今までに沢山の怪異に襲われている宏樹には、状況を冷静に判断できるだけのゆとりは残されていなかった。
ただ怪我の功名というべきか、その行いは結果として正しい判断だったことになる。
「なっ…!」
砲撃が止んだのを確認した宏樹が恐る恐る頭を上げてみると、そこには傷ついたKV-2の姿があった。
「どうして…こいつに」
三体の戦車から放たれたであろう数発の砲弾は、全てこの戦車に向けて放たれていたのだ。
砲弾を受けたKV-2には生々しい弾痕が複数つけられ、直撃した砲弾の何発かが砲塔や車体に刺さったままになっていた。
「うおっ…動いた!?」
宏樹がなぜか自分の盾となり蜂の巣となった戦車を呆然と見つめていると、突然その戦車が動き始めた。
車体から豪快に白煙をあげながら少し後退して車体を斜めに振り、次に砲塔を動かして追って来ていた戦車に対して主砲を向けた。
「まさか…!」
その特徴的な姿勢には見覚えがあった。
「やっば…!!」
そう、宏樹にはこれから起こることが分かってしまったのである。
✳︎ ✳︎ ✳︎
宏樹は、マウスカーソルを下に下に進ませながら物憂げにモニターを見ていた。
検索を進めていけばいくほど、初めに調べていた内容から離れていっているように宏樹は感じたが、もうかれこれ30分以上検索しては戻しを繰り返していたから、再検索する気は起きなかった。
「ん…?これは…?」
そんな中、宏樹はふとある動画が目についた。
「『各国のタンク』か…ちょっと見てみよう」
宏樹はカーソルを動画に合わせ、それを再生してみることにした。
動画の内容は戦時中に撮られたと思われるもので、実際に動いている戦車が数えきれないほど写っていた。
「一回ケツを振って、次に砲塔を振る…」
宏樹はその動画の途中に出てきた戦車の動きをまじまじと見つめていた。
そして次の瞬間、戦車はとてつもない轟音を響かせ、砲塔から生える長い長い砲身から砲弾を撃ち放ったのである………。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「やっば…!!!」
宏樹は全てを察して耳を塞いで再び地面に張り付いた。
ッッッ!!!ドッゴゴゴーーーン!!!!!
直後に破壊的な砲撃音が鳴り響いた。
肌にヒリヒリくる様な凄まじい衝撃と、吹き飛ばされそうなほどの突風が宏樹を襲う。
今までに聞いたことのないほどの砲撃音は、思わず耳を塞ぐ手に力が加わるほどに桁外れなものだった。
砲撃によって辺りは白煙に包まれ、宏樹は自分がどういう状況にあるのか分からなくなった。
程なくして周囲の白煙が薄れ始めた。
「なっ……!?」
辺りが見えるようになった時、宏樹は砲撃によって起こった出来事を目の当たりにした。
なんと、三体のうちの一体の戦車から砲塔が消え去り、車体もほぼ原形をとどめていなかったのだ。
車体は燃え盛っており、もう動くことはないと確信するほどには破壊され尽くしていた。
…これは…えっぐ…………!
KV-2の砲弾が直撃したことによるものだと見て間違いなさそうだった。
…でも…どうして……?
とりあえず目の前の状況だけは把握した宏樹だったが、彼は今目の前で起こったことがうまく理解できなかった。
「こいつら…仲間じゃないのか…?」
なぜなら、宏樹にとっては追って来る戦車とKV-2は同じものだと思っていたからだ。
そもそも同じものだとすれば、この互いに対立しあっているような構図はあり得ない。
砲撃によって一体が粉々にされるなんて、もっと不自然だ。
自分の中にあった認識と大きく乖離する事態の発生に、宏樹はますます混乱していく。
…仲間じゃないとすれば………まさか?
もしこれらの勢力が対立する関係であるなら、それに付随してある理論が成り立つかもしれないとふと思った。
…いや、ありえるかもしれない………。
今まで、考えたこともなかったが思い返せば、確かにそう思えなくもない気がしてきた。
もし、そうじゃなかったのならあの時木っ端微塵にされていたはずだ、と。
……でも、違うかもしれない…!
しかし、それには確証に至るような決定的な証拠がなく、直に訪ねることも不可能だった。
加えてそれが全くの見当違いであった場合、自分の命が危険に晒されてしまう可能性だって全然あり得る。
…どうする…?かけるか!?
こいつは敵か…?それとも……!?
じっくり考えなくてはならないのに、もう宏樹には迷っている時間など残されてはいなかった。
「うわ!来てる!!」
気づいた時、宏樹は残存していた二体の戦車に目前まで詰められていた。
宏樹は危険を承知でKV-2の車体に側面からよじ登った。そして車体にうつ伏せになり姿勢を低く保った。
その直後、追って来ていた戦車は両側面に周り、宏樹と戦車を取り囲んだ。
やばいやばいやばい…!!!
宏樹は戦車の車体に伏せながらただ頭を抱えていることしかできなかった。
KV-2の車高が高いからか奇跡的にどちらからも撃たれずに済んでいるが、周囲から聞こえてくる駆動音はじわじわと宏樹の心を蝕んでいた。
そんな中で、かれこれ5分は過ごしただろうか?
なんだ…なんの音だ…?
未だ戦車は両側面をうろついて離れていかないが、宏樹はその音に混じって何か別の音が聞こえてくるのを感じていた。
車体に伏したままだから状況は掴めないが、明らかに追いかけて来た戦車とは異なる何者かの気配がしたのだ。
そんな状況が1分ほど続いていた時、事態は進展する。
ガンッッッ!!!
何か大きな衝撃音のような音が左側面から入ってきた。
それと同時に、左側から聞こえていた駆動音がしなくなった。
………え?
何が起こったかと思いチラッと左側を覗くと、そこには燃える戦車の砲塔だけが僅かにはみ出して見えた。
…やられてる!?
なんと、周囲を徘徊していた二体の戦車のうちの一体が何者かによって破壊されていたのだ。
事態をうまく飲み込めない宏樹に、さらなる異変が襲い掛かる。
……………っ!?
突然、大きな影が宏樹の上空を通過した。彼は思わずちびりそうになる程驚いた。
無理もない話だ。なぜならその通過した影からは駆動音の様なものが聞こえたからだ。
一体なんだ………?
その音は戦車のように大きなエンジンが搭載されたものが発する特有の音であるから、上空を飛来する謎の影からその音が聞こえたというのは到底信じられる訳がなかった。
……止まった…のか?
程なくして音は鳴り止んだ。
音が通過していった方向からして、その音の主がKV-2の砲塔を挟んで向こう側にいるのは明らかだった。
宏樹はその正体を探るべく、砲塔の陰から向こう側をチラッと覗いてみた。
「人だ…!?」
宏樹は思わずそうこぼした。
そこにいたのは、自分と同じように戦車に乗る人間の姿だった。
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