君と僕達の英傑聖戦

寿藤ひろま

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第二章 手がかり

第8話 逃げた先で少年が見たもの

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…やっば!!!
咄嗟に身を隠した宏樹だったが、今ごろ隠れてもすでに手遅れだった。
ドッガーーン………バゴン!!!ボォ……ゴォォォオオオオオーーー
「えぇ………!!!」
目の前に止まっていた車が突然砲撃を受け、宙を舞い地表に強く叩きつけられた。そして撃たれて大破した車は大炎上し始めたのだ。

やばい……やばい……!!!
あまりに突然で非現実的な出来事に宏樹は開いた口が塞がらなかった。
心臓がはち切れそうなほどに脈打ち始め、立て続けに鳴り響く轟音のせいか鼓膜がキンキンと唸っていた。
さらに追い打ちをかけるかのように2発3発と砲撃音が鳴り響き、戦車の駆動音が段々とこちらに近づいてきているのがわかった。
……早く逃げないとやばい!!!!
ここにいたら死ぬと本能で感じ取った宏樹は、急いでその場から逃げ出した。
車の中に人がいたかもしれないと一瞬だけ頭によぎったが、この状況でそれを確かめることなど到底できなかった。
もし曲がり角から炎上する車に向かって飛び出していこうものなら、今度は自分が車と同じ運命を辿るのが目に見えていたからだ。それに…。

…どうせ確認しても意味ない………
宏樹は最初から、車の中に人なんて乗っていないのだろうと推測を立てていた。
そして、その推測はある場所へとたどり着いたところで確信へと変わった。
「やっぱり、誰もいないんだな………」
宏樹がたどり着いたのは、県内を縦断する幹線道路で片側が四車線もある大通りだった。
ひとまず背後から奴らが追ってきていないことを確かめた宏樹は歩速を緩めた。

「絶対に普通じゃないよなこれ……」
道路端の歩道を歩きながら宏樹はポツリとつぶやく。
この道路は高速のインターチェンジがこの付近にあるためか、ひどい時は1キロ進むのに10分かかるような超渋滞が起こる道路。
それに加えて、夕方は職場から家に帰る社会人や、母のようにスーパーへと買い出しに行く人が運転している車でごった返す時間帯。
だからこそ、この時刻のこの場所に車が一台も走っていないなんて、まずあり得ないはずなのだ。
「えっっぐいなぁ」
今までの経験からなんとなく察していたことではあったが、いざ目の当たりにするとその光景に圧倒される。

異世界…!これが異世界ってやつなのか…!?
少し前に、異世界に迷い込んだ主人公がさまざまな能力を得て冒険するというストーリーが、流行りに流行っていたという記事を雑誌で見かけたことを宏樹は思い出した。
そして、今まさに自分がその状況に迷い込んでいるような気がした。
人玉には遭遇するし戦車には襲われるし、と。
現実では起こり得ない数々の出来事を前にそう思ってしまうのは無理もないだろう。
そうは言っても、違和感が拭いきれない点もいくつかあった。

いや、やっぱりこれは異世界じゃない……異世界と呼ぶには、あまりに不自然だ…。
魔物なんて出てきてないし……勇者や冒険者なんて見てない……というよりこの世界で人間を誰一人として見てない……
チート能力なんてものも身についてない……というより、ずっと逃げ回ってる最弱のモブみたいになってるよな…俺。
考えれば考えるほどこの世界が謎に満ちていくのがわかった。
「これは一体…どういう世界なんだ…??」
車が一台も走っていない夕方の幹線道路という異様な光景を眺めながら、宏樹は独りこの世界について考えていた。
だが非現実的なこの世界には、ゆっくり考える時間など用意されていなかった。


ドゴッーーン!!!
背後に雷が落ちたかと思うほどのでかい砲撃音が聞こえた。
ヤッベ追いつかれた……!!!
少し考え事をしていただけなのに、あっという間にあの戦車群に追いつかれてしまっていた。
戦車は宏樹から100mくらいの場所にいて道路端の段差から道路に上がってくると、ジョギングくらいの速度でゆっくりとこちらに近づいてきた。
ボッガーーーン!!バキバキバキバキ!!!バリーーン!!!!!
「いぃぃ!!それはやばい……!!!!」
それから、最も右端の戦車が砲撃をしたかと思うと歩道に立てられていた鉄柱が破壊され、鉄柱に据え付けられてあった青看板が目の前に落ちてきた。

……こんな場所にいたら絶対やばい!!!
今思えば、ここは車が通るために作られた道のため戦車からの攻撃を防ぐものが何もない。こんな場所をずっと逃げ続けていたらモロに撃たれてしまう。そうなったらもうおしまいだ。
住宅に逃げるしかない…!!!
そう思った宏樹は数十メートル先の左手に見えた、住宅街へと続く住宅街入り口へと向かって全速力で走った。
初めの出で湯通りに引き返すことになってしまうが、戦車から逃れるためには住宅街に逃げ込むしかなかった。
しかし、住宅街入り口まであと少しというところに差しかかったその時である。

「おいおい!嘘だろ…!」
なんとさっき撒いたはずの人玉が、目的の住宅街からヌッと姿を現したのだ。
…まずい…!塞がれた!!!
後方からは戦車に追われ、前方からは人玉が現れ行く手を阻まれてしまった。
前に行っても後ろに行っても地獄。となれば残された手段は一つしかない。
「渡るしかねぇ!」
左右を確認した宏樹は意を決して巨大道路を横断し始めた。
背後を振り返って戦車が追ってきているかを見る勇気はなかった。
ただ、駆動音がずっと響いており、2、3発の砲撃音が聞こえていたから、後ろにつかれていることだけはわかった。
道路を渡り終えた宏樹はその先の住宅街へと逃げ込んだ。

なんとか道路を渡り切った宏樹は、道路を挟んだ反対側の住宅街の中を走り続けた。
さっきが右…!次は左…!
宏樹は僅かでも追ってくる戦車から距離をあけるために住宅街の中をジグザグに逃げ回った。
そうすれば、住宅が盾となってうまく逃げられると思ったのだ。
そう考えて、ひたすら左に右にと宏樹は走り続けた。
だが、結果的にこの判断は悪手となってしまった。

「いっ…!行き止まり…!?」
ある角を右に曲がった時、目の前に巨大な壁が現れた。
壁の上を見上げると壁に上にやや上り坂の道路が走っていたが、少なくとも10mはある断崖絶壁で登れそうな梯子も足場もついていなかった。
闇雲に動き回ったのだからこうなるのは当然の結果だった。
そんな状況に絶望していると背後から駆動音が聞こえてきた。
やっばっ………!!!!!
宏樹が後ろを振り返るとそこには、数体の戦車がこちらに主砲を向けて迫ってきている姿があった。
あんなにジグザグに動いたというのに、もう追いつかれてしまっていたのだ。
「やめろ……くるな!!!」
宏樹はジリジリと後退りした。背後は壁で逃げ場なしという状況だったから、もう後ろに下がっても意味はない。
でも、体が勝手に安全なほう安全なほうへと動いてしまうのだ。

あと50m…
戦車は計3体、どれもボロボロだ。
あと40m……
戦車の大きさは2m以上はゆうにある。
あと30m………
これ以上近づかれたら、本当に終わる…!!
あと20m…………
いつ撃たれてもおかしくない………!!!
あと15m……………
撃たれる!もう逃げられない!!!!!
宏樹がそう思いながら後退りをしていたその時…!

「いてっ!」
何か硬いものが背中にぶつかった。
くっそ、もう後がない…!誰か助けて…!!!
後ろを見ずに後退りをしていた宏樹は、早くも行き止まりの壁に到達してしまった。と思っていたが…。
…ん?なんだろう…これ?
宏樹は背後に聳え立っているであろう壁に、妙な違和感を感じた。
妙にひんやりしているし、平たい壁だったはずなのに何故かゴツゴツしている。
「壁…か?これ…」
気になって背後を振り返った宏樹はその違和感の正体を知ることになった。
「えっ!?ええぇぇ!!!?????」
後ろを振り返った宏樹が見たもの…それは…。


あの時街中で遭遇した戦車「KV-2」だった。
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