君と僕達の英傑聖戦

寿藤ひろま

文字の大きさ
19 / 22
第四章 ハルマの館

第16話 美しい彼女の名は...

しおりを挟む


…綺麗だ……
座っていたのはとても落ち着いた雰囲気を纏った20代後半くらいの女性だった。
セミロングくらいの髪は透き通るようなミルク色をしており、まるで春風に吹かれてなびく花々のように、美しく彼女の周りに舞い広がった。
普段見ることのない碧眼へきがんは雲一つない青空のように澄み切っていて、まるで宝石のようにキラキラと光り輝いていた。
そのあまりの美しさに、宏樹は求められた対応を忘れてしまっていた。

「あれ?大丈夫?」
「…ああ!すいません、よろしくお願いします」
彼女の声かけで宏樹は我にかえった宏樹は伸ばされた右手と握手を交わした。すると彼女は90度横を向いて天井を眺めながら喋り始めた。
「それじゃあ、私の紹介をするわね」
彼女はベージュのズボンを纏った長い脚を30℃ばかり開いて伸ばし、両手をまっすぐに伸ばしながらゆっくりと口を開く。

「私の名前は宮姉みやね安奈あんな。この館に住んでいるわ」
彼女は先ほどの柔らかい声から、初めの低く落ち着いた声に戻っていた。これが素の声なのだろうか?
「職業は見ての通り医者をやってるの。この館で唯一の医者なのよ」
宏樹の予想通り、安奈はしっかりとした医者のようで急病患者の手当や、年一回の健康診断など通常の医者と変わらない仕事をしているという。

そして彼女は親近感が湧くような話題を振ってきた。
「私も通ってたのよ、あの高校」
「あの高校って、御谷山高校ですか?」
「そう、もうだいぶ前の話だけどね。私はあそこの福祉系を卒業したのよ」
初対面ではあるが意外な共通点があったからか、宏樹はなんだか距離が縮まったような感じがした。

「今もあるってことは、最近50周年を迎えたんじゃない?」
安奈のいう通り、宏樹の通っている高校は去年の10月に50周年の記念式典が行われていた。
「そんなことまで知っているんですね」
「ええもちろん…!…でも、もう長いこと、向こうの方には行ってないんだけどね」
彼女はそう言って手を天に翳し、今度は背伸びを始めた。
宏樹はそんな彼女を見ながら、今の会話に出てきた妙な言葉への質問を投げかけた。

「向こうのほうって…どういうことですか?」
「……」
彼女はじっと地面の方をみつめ、意味もなく右腕をさすりながら少しばかり沈黙していた。
「そっか…そうだよね、わかんないよね。だってそれを聞くために、ここまできたんだもんね」
宏樹は何が何だかよくわからなかったが、横から見る彼女の瞳はどこか遠くの方を見つめているようで、言い知れぬ哀愁が漂っていた。
「それじゃ長くなるけど、説明するね」

彼女の話によるとここは『ハルマの館』と言う大きな建物の中だそうで、それなりの人たちが住む小さなコミュニティだと言う。
そして、この館は現実世界とは少し性質の違ういわば異世界のような場所に建っているという。
「異世界…ですか?」
「そう。向こうの世界とはまた別の世界だから、あなたが元いた場所には長らく行っていないの」
「なるほど!そういう意味だったんですね」
宏樹はその話を聞いて妙に納得した。

「でも、異世界と言っても現実と違うところはほとんどないわ。強いて言うなら人がほとんどいないと言うことかしら」
…人が、“いない”…
それを聞いて宏樹はドクンと脈拍が上がった。その話には思い当たる節があったからだ。
「もしかして、敵とかいたりします?」
宏樹は今までの経験を確かめたくてそう質問した。
「…いる。でも、この場所にいればそう危険なことはないわ」
彼女は一瞬だけ迷ったような仕草をして、そう答えた。
「そうなんですね」

宏樹にはこの“敵”の正体がもう分かりきっていた。しかしそれは、誰かの口から聞くまでは単なる自己推測にすぎない。
「その敵っていうのは?もしかして戦車ですか?」
その正体を確かめるために、はるばるやってきたのだから宏樹はなんの躊躇いもなくそう聞いた。
「もう知っているなら話が早いわね。そう、この世界には意志が宿った戦車がうじゃうじゃいるの。信じたくないかもだけど」
「…いえ、逆によかったです。はっきりと言ってもらえて」
改めてそう言われる宏樹は逆にホッとした気分になっていた。
そんな話を聞かされたら普通は絶望しそうなものだが、背負っていた迷いを断ち切ったという安堵感の方が強かったのだ。

「でも、なんで僕はあんな戦車の群れに遭遇するんですか?」
「それはね、あなたが傑帥の資質を持っているからなの」
「け…けっすい…ってなんですか?」
その響きは知っている単語で構成されている会話文の中でひときわ異彩を放っていた。
「私やあなたのように、”英傑を宿した“人のことをそう言うのよ。あ、英傑っていうのも知らない…よね?」
流石の安奈も、宏樹が何も知らないということを理解したのか一度立ち止まってくれた。だが、宏樹にはその言葉には覚えがあった。

「英傑って、もしかして自分を守ってくれる戦車のことですか?」
「そうよ。…でも、どうしてそれを知ってるの?」
安奈は疑問に思った。何も知らないであろう宏樹がその言葉を知っていたのだから無理もない。
疑問を投げかけられた宏樹は、とある人物のことを話した。
「実は昨日、戦車に乗った同い年くらいの青年と街の中で遭遇して、その人に教えてもらったんです」
「青年…?」

宏樹はその青年に助けられたことや、その青年の外見を覚えている限りで伝えた。
「長髪で同い年くらいの青年…。私は知らないわ…ごめんなさいね」
「いえ、いいんです」
彼女の話によるとそんな人は今ここにはいないようで、ここの支配人なら何か知っているかもしれないとのこと。
「支配人…って誰ですか?」
「この館を管理している人よ。あ、そうだわ」
安奈はせっかくだから挨拶しに行きましょうと言われ、何もわからない宏樹はとりあえず彼女の言うことに従って、その人物の元に行くことになった。

✳︎  ✳︎  ✳︎

釣りランタンに照らされた長い長い室内の廊下をしばらく歩いていると、館内の中にあるという広場へと出た。
「広いなぁ~」
「でしょう?結構この場所は館の人たちの間でも人気なのよ」
中央には大きな噴水が置かれ、16世紀ごろのルネサンス期を思わせるような左右対称で華やかなデザインが広場には施されていた。
広場をまっすぐに貫く歩道にはあまり見ない形の“灯籠”が3mくらいの間隔で置かれており、すっかり夜だと言うのにかなり明るかった。
「ここは見ての通り館の広場よ。子供達が遊びまわったり、お花見をしたりもできるの」
安奈の言うとおり、広場にはひまわりにアジサイにコスモスといろんな木々が植えられていて、存分にお花見が楽しめそうだった。
さらに、砂場や遊具などがいくつか設置されているようで、大人がお花見している時に子供たちも思いきり遊べる作りになっていた。

そんなグローバルな広場を抜けると、次はとても年季の入った商店街へとやってきた。
「ここは小さな娯楽施設ね。味のある料亭や古いカフェもあるし、極め付けに温泉施設だって完備してるのよ」
「へぇ~、なんでもあるんですね~!」
彼女が説明したもの以外にも、駄菓子屋や小さな商店にカラオケや居酒屋など。
あげればキリがないほどの娯楽店が所狭しと詰まっていた。
「あら、こんばんわ安奈ちゃん」
「こんばんわ~」
「ど、どうも…」
流石に商店街ともなると、たびたび通行人とすれ違うようになり宏樹は一歩遅れて挨拶を交わした。

そんな風情ある商店街を抜けると、最後はこれまた古そうな扉が二人の前に姿を現した。
高さは3mくらいあるだろうか?こんなにも高い扉は今までにみたことがなく、どこか足を踏み入れてはいけないような空気を醸し出していた。
「この扉の先には何があるんですか?」
「見たらわかるわよ」


安奈はそう言って躊躇なく扉の鍵を開錠した。すると閉められていた扉がギィ~っと音を立てゆっくりと開き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...