異世界から来た馬

ひろうま

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第1章 出会い

第2話 出会い

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◆Side アイリス◆
「何かあったんですか?」
私は、集まっていた獣人の一人(犬獣人と思われる女性)に聞いてみた。
「これから、勇者の送還が始まるのよ。」
「送還……ですか?」
「勇者にとっちゃあ、元の世界に戻る最後のチャンスらしいぜ。主にリーソンの獣人と仲良くなって、これまでこの世界に留まるか元の世界に戻るか決めかねていた連中だ。ここに集まってる連中は、彼らと関わりがあった者ということよ。」
隣の男性(犬種は違うがこちらも犬獣人と思われる)が補足してくれた。
「普通、送還はエラス内でやるらしいんだけど、見送る獣人に配慮してこの場所でやることになったみたい。ほら、エラスは獣人が入れないから。あっ、始まるみたいよ。」
最初に私が話しかけた女性が、更にそう付け加えた。
最後の言葉に女性が向いた方を見ると、大きな魔方陣がうっすらと光っていた。
あの中にいる人たちが勇者なのだろう。
そこで、私は突然閃いた。
あの中に入れば、お父さんの元いた世界にいけるかも!
次の瞬間、私はそこへ向かって駆け出していた。
「あっ!ちょっと待って!」
「えっ!?」
「おい、馬が紛れ込んだぞ!」
「捕まえろ!」
皆が叫んでいるが、気にせずに魔法陣を目指す。
そして、魔方陣に辿り着いた瞬間、周りが見えなくなるくらい光が強くなり、私は思わず目を閉じた。

~~~~~~~~~~
「ここは……?」
周りを見回すと、さっき魔方陣の中にいたと思われる人達が集まって、誰かの話を聞いていた。
どうやら、私だけ別にされた様だ。
まあ、私は無理矢理入り込んだだけだから……。
「あなた、ユウマの所の子ね。」
「え?あ、はい。」
突然後ろから声を掛けられたので振り返ると、頭が馬の人(?)が……。
えっ?こんな人いるの!?
「私は馬女神よ。」
「馬女神?ここはどこなんですか?」
「ここは、どこでもない……強いて言えば世界の狭間というところかしら?」
「……。」
意味がわからない。
「勇者達はこれから元の世界に戻るけど、その前に注意などを聞いているの。問題は、あなただけど……。」
「すみません。」
「あなた、このまま転移しても良いの?もう戻れないのよ?お母さんやユウマにも二度と会えないわ。本来ならここから戻るのは無理だけど、あなたは巻き込まれたということで、獣神様を通して調停者にお願いすれば戻してもらうことはできるわ。」
「いえ。もう決めたことですから。」
「そう……。わかったわ。転移先なんだけど、勇者と一緒に召還された場所に行っても困るでしょう?」
「え?」
困る理由がわからないけど……。
「今から行く世界では、人間にとって馬は馴染みが無いの。あなたが住める場所も限られてるわ。」
「……。」
「だけど、あなたのテレポートと同じで、転移先は特定できる場所にしかできないのよ。だからね……。」

~~~~~~~~~~
気付くと、見知らぬ場所に居た。辺りは薄暗い。
見回すと、道端に不自然な木が刺さっていた。
その前には、枯れかけた花が置かれている。
あれって、もしかして……。
私はそこに近付いた。
ここはこの世界でお父さんとルナおばさんが亡くなった場所。馬女神が特定できる転移先として選んだ場所だ。
とすると、確信はないが、これは二人のお墓なのではないか。
お墓については、クレアおばさんから聞いたことがある。
人間はお墓という物を作って、死者を弔うということだった。
私が産まれた世界では二人とも元気とは言え、これがこちらの世界では二人が亡くなっていることを示していると考えると、複雑な気持ちだった。

暫くそこでお墓らしき物を見つめていると、人が近付く気配がした。
私は反射的に逃げかけたが、近付いて来るのは一人だったので踏み留まった。
警戒はするべきだが、ここで逃げると、人からずっと逃げ続けることになってしまう。
更に近付いて来ると、その人(男の人だった)は花を持っているのがわかった。
暗いために、今までそのことに気が付かなかった。
恐らく、今置いてある花もその彼が置いたのだろう。
私は彼に頭を下げ、邪魔にならない様に少し避けた。

彼は、置いてある花を持って来た花と交換すると、お墓らしき物に手を合わせた。
私は、その様子をずっと見ていた。
彼は手を合わせるのをやめて、こちらを見た。
「君、どこから来たの?」
「……。」
彼があまりに自然に聞いて来たので、思わず返事をしそうになったが、何とか声は出さずに済んだ。

◆Side 紫明◆
厩舎作業を終え、帰宅する前にいつもの場所に向かう。
秋に入り、この時間はもうかなり暗くなっている。
あれ?馬?
目的の場所に何かの姿があった。
暗いのではっきりとはわからないが、馬の姿の様だ。
うちの馬は厩舎に皆いたし、どこから来たんだろう?
そう思いつつ、その馬を驚かさない様にゆっくり近付いて行った。

ある程度の距離迄近付くと、その馬は一瞬逃げかけた様に見えたが、逃げずにその場に留まった。
更に近付くと、僕が持っている物を見て何かに気付いたようで、僕に頭を下げた。
……って、え?偶然?それとも、芸を仕込まれているのか?
もしかしたら、近くに来ているサーカス団から逃げ出したのかも知れない。
そんな話は聞いてないが、後から調べてみるか。
僕はいつもの場所に花を供え、古くなった花を回収した。
ここは、悠馬さんとその愛馬であるルナさんの亡くなった場所で、簡素な墓標が作ってある。
実はユウマさんは先祖代々のお墓が有るらしいが、そこには骨壺が入っている訳でもないし、ルナさんと共に祀られているここが本当のお墓だと僕は思っている。
ちなみに、馬にさん付けするのも変に思われるかも知れないが、ルナさんは悠馬さんのパートナーである凄い馬だと聞いているので、敬意を払ってそうしている。

僕が最初にここに来た時、かなり前に供えられたと思える枯れた花が寂しく置いてあった。
僕はそれから、毎日ここに来て手を合わせ、時々花を換えている。
今日はちょうど花を換える日だったのだ。

僕が墓標に手を合わせた後、帰ろうとすると、さっきの馬がずっと僕を見ている事に気付いた。
「君、どこから来たの?」
返事があるはずが無いのに、ついついそう聞いてしまった。
「……。」
馬は、黙って僕を見ていたが、その後墓標の方を見た。
「ああ、これは悠馬さんとルナさんのお墓だよ。」
「やっぱり、お父さんのお墓なのね……。」
「えっ!?」
「あっ!」
馬が喋った!?というか、『お父さん』って……。
僕は混乱して固まってしまったが、その馬もどうしたら良いかわからない様子だった。
それを見て、僕は少し落ち着いたので、気を取り直してその馬に聞いてみた。
「『お父さん』って、どういうこと?」
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