異世界から来た馬

ひろうま

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第2章 心境の変化

第9話 初雪

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◆Side アイリス◆
こっちの世界に来て、2ヶ月経った。
シメイの説明によると、1ヶ月というのは約30日(なぜか月によって日数が違うらしい)、12ヶ月で1年ということだ。
かなり、朝晩は寒くなってきていて、周りには服を着ている馬もいる。
向こうでは、こんなに寒くなることはなかった気がする。
馬も服を着るとは知らなかった。

あれから、私には何人かの人が交代で乗っていたが、最近同じ人だけしか乗らないようになった。
女の人で、乗り方は柔らかい。
技術的なレベルは、最初に乗せた男の人の方が上だが、この女の人の方が私には合っていると思う。
ここの人たちもそう思って、この人に決めたのだろう。
もちろん、レベルが低いという訳ではなく、これから上を目指せるという感覚があった。
こっちの世界に来た目的が達成できて嬉しいはずなのだが、なぜか心にモヤモヤした感じが残っていた。

朝、シメイが近付いて来るのに気付き、馬房から顔を出した。
「アイリス、おはよう!今日は寒いね。」
シメイが声を掛けに来たので、私はシメイに顔を擦り付けた。
返事ができないので、その代わりだ。
わたしは他の馬の行動を見て、どれくらなら問題無いかを覚えていった。
どうやら、こっちの馬は向こうの馬ほど知能が高くないようだ。
繋ぎ場で隣になった馬に、隙を見て何頭か会話を試みたが、まともに会話できなかった。
隣の馬房の馬のように、私にちょっと興味を示して片言で少しだけ答える馬もいたが、ほとんど私をチラッと見るだけだった。
行動にも、知能の低さが見て取れる。
もちろん、個体差もあるが、私のお母さんと同じくらいの知能がある馬は見当たらない。
あと、ついでに言うと、こっちの馬は向こうの馬より一回り大きい。
向こうで会った馬が少ないので、それが平均的かどうかはわからないが。
「あ、雪が降って来た。今年の初雪は早いね。」
シメイが外を見て、そう言った。
「……。」
ユキって、何だろう?
シメイと同じ様に外を見ると、白くて白いものがいくつも落ちて来ていた。
これが、ユキなのかな?
そう言えば、いつもお父さんにくっつているユニコーンの子が「ユキ」という名前だったが、この色から付けられたのかも知れない。
「あの落ちて来ている白いのが雪だよ。」
「……。」
シメイは、私がわからないのを理解してくれたようだ。
私は彼を見て、頭を縦に振った。
「大分冷え込んで来たし、アイリスも馬着着る?」
「……?」
バチャク?私は首を傾げた。
あら?なぜかシメイが慌てている様に見える。
「あのー、アイリス。その仕草は僕以外にはやらないでね。」
どうやら、今のはあまりやってはいけない仕草だったらしい。
今度から気を付けよう。
ちなみに、バチャクというのは他の馬が着ている服のことで、私も着せてもらうことにした。

運動後、シメイが手入れしてくれている所へ、乗せた女の人がやって来た。
「シメイ、あなたもそろそろアイリスに乗ってみない?」
「いえ、僕は良いです。」
女の人の問い掛けに、シメイが答えた。
シメイが私に乗るのを想像し、表現するのが難しい気持ちになった。
敢えて言うなら、心をくすぐられるような感じだろうか。
「そう?このコは、扶助への反応が良いし、勉強になると思うけど……。まあ、無理にとは言わないけどね。その気になったら言ってね。」
「わかりました。」
シメイはこれまでも私に乗らないか聞かれていたが、全て断っていた。
シメイは私に乗る気はないみたいだが、なぜだろうか?
女の人が去った後、周りに人がいないことを確認して、シメイに小声で聞いた。
「シメイは、どうして私に乗ろうとしないの?」

◆Side 紫明◆
朝、アイリスの馬房に近付くと、アイリスが馬房から顔を出した。
「アイリス、おはよう!今日は寒いね。」
側に行ってそう声を掛けると、アイリスは顔を僕に擦り付けて来た。
可愛い過ぎる。
アイリスは、この行動なら馬として不自然ではないとわかったらしく、最近いつもこうして来るのだ。
凄く恥ずかしいけど、素直に受け入れている。
うっかり拒む様な反応をすると、アイリスがやってくれなくなる可能性があるためだ。

「あ、雪が降って来た。今年の初雪は早いね。」
馬房の窓から外を見ると、雪が降っていた。
この時期に雪が振るのは珍しい。近年、雪が降るのは遅くなっているからだ。
「……。」
アイリスも釣られた様に外を見たが、反応からすると雪は見たことが無いように思える。
「あの落ちて来ている白いのが雪だよ。」
「……。」
アイリスがこちらを見て、首を立てに振った。
「大分冷え込んで来たし、アイリスも馬着着る?」
「……?」
アイリスは首を傾げた。
うわっ、ヤバい!可愛い過ぎる!
「あのー、アイリス。その仕草は僕以外にはやらないでね。」
他の人がアイリスの可愛さにやられてしまうと困るから……。
あ、馬着のことを忘れるところだった。
僕が馬着についてアイリスに説明すると、アイリスは欲しいようだった。
可愛い馬着を探さないとな……。

運動後、アイリスの手入れをしていると、さっき乗っていた林藤先輩がやって来た。
どうしたんだろう?
「紫明、あなたもそろそろアイリスに乗ってみない?」
僕の側までやって来た彼女は、そう僕に聞いた。
「いえ、僕は良いです。」
これまでも「手入れだけでは申し訳ないから、乗ってみたら」みたいな感じで何回か言われたが、全て断っている。
「そう?この子コは、扶助への反応が良いし、勉強になると思うけど……。まあ、無理にとは言わないけどね。その気になったら言ってね。」
「わかりました。」
林藤先輩が僕の技術向上を考えてくれていたのは嬉しかったが、アイリスに乗るつもりはなかった。
「紫明は、どうして私に乗ろうとしないの?」
先輩が去った後、アイリスが小声で聞いてきた。
慌てて周りを見回したが、誰もいなかった。
アイリスは、ちゃんと確認して声を出したんだろう。
「アイリスは、上手い人に乗ってもらいたいんだよね。」
「え?ええ。」
「僕は未熟だから、乗せたくないだろうと思って……。」
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