ファンタジーな世界に猫が一匹、仲間を集めて旅をする

翠雲花

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11.ヌイのもの(sideジンカ)

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 私は、生まれた時からいくつもの道が用意されていた。
 侯爵家の嫡男でありながら、自由を許され、期待もされず、しかし弟達の見本であり続けた。
 両親が悪いわけではない。
 私が持つべきだったものを持っていなかった。
 ただそれだけ。
 だが、人生が変わるほどのものがスキルであり、特別な家系スキルだ。
 スキルの中でも、先天的なものと後天的なものがあり、家系スキルは先天的スキルだ。
 だからこそ、どう頑張っても私は後継者候補にすら入れない。


 一度、どこかの貴族が、スキル持ちでなくとも血を継いでいればスキルが引き継がれるかもしれないと思い、優秀だった嫡男に継いでもらったらしい。
 だがその後、何度代替わりしても家系スキルを持った者が生まれることはなく、最後には結婚もせずに途絶えた。
 家系スキルはステータスにもなるため、結婚しなかったのは良い判断だろう。
 もしくは結婚相手がいなかったのかもしれない。
 そして家系スキルを持った他の家族は、家を出れば消えてしまうのだから、家系スキルを守る為にも、スキルを持った者が継ぐのは仕方のないことだ。


「――……俺はなんとなく分かってたよ~。だから、ここにいる間は兄上に甘えてた。それに、兄上を見てれば公爵家に入っても問題なく立ち回れるだろうから」


 ルートはやはり気づいていたらしい。
 歳の離れたルートは大学へ通っているが、今年で卒業だ。
 そしてジークの方は、貴族学校を卒業しており、騎士学校へ通いながら冒険者をやっている。
 今が一番ちょうどいい時期なのだ。
 しかし、問題のジークは眉を寄せて私を見る。


「なぜだ。ジンカ兄上、今になってなぜ言う気になった?」

「今がちょうどいいからだよ。それに、私にはヌイがいる。ジークのおかげでヌイと会えて、本当に良かった」


 ヌイがいるから、私は嫡男という立場を諦められるのかもしれないね。
 本当は、私が継ぎたかった。
 父上や母上を支えるために、それなりに頑張ってきたつもりだからね。
 でも、もういいんだ。
 私にはヌイがいる。
 ヌイがいる場所が、私の居場所になる。
 私は……居場所を欲していたのかもしれない。


「にゃーん(ジンカは僕が貰うから諦めて。ジンカはもう僕のジンカだから)」


 可愛らしい声とともに、脳内に直接言葉が浮かび上がる。
 まるで魔法の呪文のようだ。
 自然と理解できてしまうのだから、この魔具を作ってくれた研究者には感謝しかない。


「んなー(ジークのお兄ちゃん、貰ってごめんね)」

「うっ……可愛い!」


 ヌイが可愛すぎる。
 ヌイのものなんて……私は幸せ者だ。
 その証拠に、この場にいる全員が、私を羨ましげに見ているじゃないか。


 ヌイは私の肩に乗り、頬擦りしてくる。
 これがなんとも言えないほど可愛いのだ。
 柔らかい毛を押し付けられ、温もりとともにゴロゴロという音も聞こえてくる。


「はぁ……分かった。ヌイが気に入ったなら、ジンカ兄上を連れて行け。スキルに関しては、どうにもできない。ジンカ兄上が幸せになるならそれでいい」

「ふふ、ありがとう。ジークもヌイについて行きたいだろうに……ごめんね?」


 ジークに謝りつつも、笑みを浮かべながらヌイの頭を撫でれば、ジークは悔しそうにする。
 ジークは分かりづらいが、ヌイのことが好きすぎるあまり、ストーカーになっている。
 ヌイからしてみれば"沼"と言うらしいが、ストーキングは別だろう。


「いいな~、兄上……ヌイちゃん、兄上をよろしくね~。兄上には俺達もいるけど、兄上からしてみたらヌイちゃんが一番だろうから」

「みゃ!(任せて!)」

「……ヌイ、ジンカ兄上を頼む。ジンカ兄上、ヌイを絶対に絶対に――」

「分かったよ。守ってと言いたいんだね。守るのは当然だけれど、私はヌイの望みを叶えるのが優先だからね」


 弟二人が納得したところで、父上と母上がヌイに私のことを頼む。
 そこには、スキルに関することも含まれているのだろう。
 その日以降、ヌイは私の部屋で眠るようになり、仕事の引き継ぎの合間に、王都へ行く為の準備を進めた。


 そうして数日が経ち、私は現在、ヌイがドリュアと呼んでいる大樹の森の精霊王を前に、蝶の精霊達に囲まれていた。



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