糸目推しは転生先でも推し活をしたい

翠雲花

文字の大きさ
19 / 43

19.想い(sideヒバリ)

しおりを挟む


 ユルは俺の腕の中で眠ると、俺の編み込まれた長い髪を掴む。
 ユルが眠る時は、密かに寝顔を見ていたが、その時も俺の垂れ下がった髪を掴むユルは、無意識に俺を求めているのだろうと思っていた。
 これがなければ、俺もユルのツガイになりたいなどと思わなかっただろう。


 ユルに求められ、ユルが俺を好きだという声が、明らかに他の者に対するものと違っていた。
 慣れることができないのも、俺から逃げようとするのも、全てが俺を好きだと言って誘っているようにしか思えないのだから、愛しいと思うのも仕方ないだろう。
 尾羽を揺らしながら逃げ、俺が追ってきているかを何度も確認する姿も愛らしく、気をひこうとするように急に倒れて眠ってしまうのも、現実逃避だと分かっていても可愛いのだ。


 そして何より、最近は俺を誘うようなフェロモンを放っているため、発情期がくる前にツガイになって俺の匂いを纏わせ、ユルに安心して発情期を迎えてほしかった。
 だが、それと同時に俺一人では、今後のユルの発情期を支える事はできないと思っていた。
 今のユルならまだ問題はないが、ユルは神獣としてはまだまだ未熟であり、魔力はどんどん増えていくだろう。
 そうなれば、魔力量に応じた発情期という名の、魔力の発散が行われるため、俺一人では限界があるのだ。
 ユルのツガイが例え魔王であっても、魔王一人では無理だろう。
 それほどまでに、神がユルを愛しているのだから、厄介でしかない。


「それにしても、本当にヒバリさんは八重歯があるの?」


 ユハクは疑わしげな目で俺を見つめる。


「ある……が、これは隠していた。俺が特別な理由に、この牙も関わっているからな」


 ユルはよく見つけたな。
 短く削って隠してたはずだけど……笑っても見えないんだけどな。


「ヒバリ殿、ユルをツガイにするのなら、シュッツ家は中立となる為、神殿に移ろうと思うが……本当にいいのか?」


「構わない。俺が許可するだけで、いつでも移れるからな。それよりも、ユルのツガイになる俺は、お義父さんと呼ぶべきかい?」


「いや、ルーフェンで構わない。こちらは年齢も立場も、本来ならヒバリ様と呼ぶべきだからな」


「なら、遠慮なくルーフェンと呼ばせてもらう。俺のことは好きに呼んでほしい」


 敬称はユル以外には面倒だから、正直助かる。
 ユルがいる手前、ルーフェンにだけは使っていたが、違和感しかないうえに、俺が敬称を使う度にエルフ達に笑われるからな。


「ヒバリ様、ユル様の側近として質問させていただきます。ヒバリ様はユル様のツガイ……というより、夫になるのでしょうか。同じ意味ではありますが、ユル様にとっては違いますよね?そうなると、ツガイはエルフでは無理なはずです」


 この側近は本当に優秀で厄介だ。
 ユルの側近として、今後付き合いがあると思うと……面倒だな。
 まあ、ルーフェンに縛られてる状態なら、問題はないか。
 それに、ユルが選んだ俺に下手な事をして、ユルの側近から外されても困るだろうからな。


「契約の話になると、夫婦関係の契約とツガイの契約は別物だ。ツガイは命の契約。つまり、ツガイのどちらかが死ねば、一緒に死ぬ事になる。これは魔族や魔物が、厳しい環境でツガイという裏切る事のない家族をつくり、群れをつくる事を目的とした生きる手段だ。命による契約なんて、これ以上ないほどの愛だろ?」


 契約はエルフと精霊の間にもあるが、それは対価を必要とする協力関係に過ぎない。
 しかし、エルフと精霊王の間にはツガイ契約が成り立つ。
 そして稀に、エルフと精霊王の間には、精霊でもなければエルフでもない者が産まれるのだ。


「ヒバリ様はユル様とツガイ契約ができると?」


「できるかできないかで言えば、当然できる。ユルが本当に望めばな……俺はユルがツガイなら、全てを預けてもいいと思える。あとはユル次第だ」


 俺が何者であるかは、ツガイ以外に言うつもりがないため、ツガイになれる事だけを伝えれば、ノヴァは不満を顔には出さずに、ニッコリと笑って頭を下げた。
 どうやら、ノヴァは俺がユルの側近になる事は許さないが、ツガイになる分には問題ないようだ。
 そしてそれはユハクもルーフェンも同じであり、ユハクはユルの兄として、ルーフェンはユルの父として、それぞれがユルの唯一の存在である事が重要らしい。


 理解ができないな。
 確かに、ユルの唯一にはなりたい。
 けど、ユルのツガイになれるのならそんなものはどうでもいい。
 ユルのツガイという立場以上に、唯一の立場に拘る事が、俺にはできない。


 そうして、ユルが俺を選んだ事で誘惑する必要もなくなった精霊は、すぐに神殿まで繋げてくれたため、褒美の魔力を与えてから精霊門を出た。
 空にある神殿は外界から目視する事はできず、精霊門がなければ出入りできないようになっている。
 自然豊かな神殿では、エルフ達は木の上に住んでいるが、俺だけは白の塔に住んでいるため、ルーフェン達を他のエルフ達に任せ、俺は眠っているユルを塔の中に連れて行く。


「ユル……可愛い。俺の愛しい鳥」


 自分のベッドにユルを下ろし、俺の髪を握るユルを抱きしめ、フニフニとした唇に口づけをした。
 その瞬間、ユルはゆっくりと目を覚まし、寝ぼけた様子でふにゃりと笑った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...