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第一章 出会い

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「すまんが先生か、コーチはいるか??」


「え、あ、はい!! 少し待っててください」


 待て待て待て!! 何するつもりだこいつら!! ここバレー部だぞ。


「お、ヤン先じゃん!! どったの?? というか誰その子等」


鹿島かしま、お前エースだったよな?? スパイク打ってくれねぇか??」


「それ選択肢俺に無いじゃんよ。ヤンキー怒らせっと怖えんだから」


 この人エースなのか!! なんかすっごいお調子者感するんだけど……でもこういう人の方が凄い選手だったりするんだよなあ。


「佐良先生、ボールの次はうちのエースですか?? 流石に貸せませんよ」


「おう!! 新開しんかい先生、ちょーっとスパイク一本打ってもらえればいいんだよ。うちの息子に向かって一本だけ本気で打ってもらえればな」


 そう言って父さんは俺の肩を掴んで前に出した。


「息子ですか?? 確かに顔は似てるような……」


「そうそう、この二人双子で俺の可愛い息子なんだわ。そんで、うちの凛にスパイク打ってもらいたいんだわ。レシーブの瞬間をカメラに収めるためにな!!」


 ワハハと一人で笑っているが、俺は頭がおいつかないし、バレー部顧問とエースの人は、ポカンとしている。


「いいんじゃないの?? その子が鹿島のスパイク、一本で拾えるとは思えないけど、あっちは一本って言ってるんだから」


 うわ!! さっき遠目から見てたリベロの人!! ……だよな?? 身長高いな。


「一本で十分だ。まあ、凛を狙って打てないってんなら仕方ないけどなあ」


「は!? おっさん今なんつった!? 俺ができないとか……できるに決まってるわ。それより拾えなくても知らんからな」


 うぇ~、待って。俺無理なんだけど。父さん下手に喧嘩売らないでよ。俺なんも言ってないのに睨まれてるじゃん!!


「あう……す、すみません。うちの父が困らせてしまって。あの……俺拾えないと思うんで、わざわざエースの方じゃなくても……」


「いいや、売られた喧嘩は買わないとな。それにお前は拾えなくてもいいじゃんか。あっちは写真撮りたいだけなんだろ?」


 あー、はい。そうですね!! もういつも通りにしますよ!! 俺どうなっても知らないからな!! 主に父さんが……


 顧問の先生を放ったらかしにし、俺はコートに一人立って、向こう側はエースとセッター、それと球出しの人が居る。


 うへぇ~、こんな大人数に注目されてると、なんかやりづらい。でも、コートに一人っていうのはなんか……寂しいような、動きやすいような。


「そんじゃ一本よろしくなあ!! 凛頑張れよ~。こっちは写真撮るのに必死だから」


 そこは寧ろ要らないだろ!! というか写真を何に使うんだ!!


 ボール出しの人がバレーボールを手に取る。

 俺は深呼吸をし、スパイカーの体の向き、セッターの姿勢を確認し集中する。

 ボールはセッターへ渡り、セッターはレフトへオープントスをあげる。綺麗に吸い込まれるようにして、エースへとボールがいく。


 あぁ、この感覚……凄い好きだ。この後に俺の期待してるボールがくると思うと……ニヤけるのを抑えずにはいられない。


 スパイカーの身体の向きは、少しバックセンター向きのクロス。ボールを打つ瞬間、少し肩が内に入り手がクロスへと向く。


 ん……これ少しズレるな。


 走り出しと同時に放たれるボールは、俺の真正面にくる。


 これはいつもよりボールころさないとだ。


 俺の腕にきたボールは重たく、スピンがかかっていて、少しの痛みがくる。それでも、弾かれないよう少し腰を落とした後に、腕の向きと肩の位置を変える。


 重たい筈のボールは静かに、そして綺麗に居ない筈のセッターの位置へと、スピンを緩やかにして返っていく。


 あぁ、この瞬間が俺は一番好きだ。


「ありがとうございました。父さんと陣はちゃんと撮れたの? 早くバレー部の人達に謝ったら、あっちに帰るよ。もう迷惑かけるなよ??」


「凛~!! やっぱり俺の息子!! 綺麗だ!! あ~、写真撮りたさとはいえ、ちょーっと見せすぎたかな。みんな放心状態だ。じゃあバレー部はありがとうな~!! 敵になる風狼リベロの、綺麗なレシーブ見せたから、これでチャラなあ」


 おい!! 父さん何バラしてんだ!!


「父さん、家に帰ったら印刷手伝って」


「当たり前だ、陣!! パパも持ち歩こうかな~、ねぇ凛いいよね」


「もう好きにしろ!! 」


 その後、練習を終えて家に帰った陣と父さんは、母さんも混ぜて俺の写真を選んで印刷していた。


 本当にやめてほしい。それ額縁に入れてどうするのか聞いたら、ベンチに置くって言うから、尚更最悪だった。知らずに、好きにしろと言ってしまった俺も悪いが、陣と父さんは勿論、母さんまで飾ると言い出し、恥ずかしさでいっぱいだった。



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