33 / 361
第一章 出会い
33
しおりを挟む菱洋と風狼の試合が始まる時間となり、両校は各ベンチに集まり、最終確認をしていた。
「取り敢えず落ち着いたな。事情は分からんが、相手に喧嘩売るならバレーでやってみろ。凛も考えがあるなら、その都度周りに言ってみろ」
(トシと向井には悪いが、これは凛が周りを頼る切っ掛けになったな)
「分かりました。相手に地獄を見せるなら、とにかく跳ばせて疲れさせたいです。逆にこっちは守備に回って、相手のブロックが疲れ始めたところで、スパイカーの人達には、力一杯打ち込んでほしいなと」
「それはいいかもね。相手はあの二人だけじゃなく、他も攻撃型で、ブロックもしっかりついてくるからね」
向井は凛の考えに賛成なようで、自分が相手のブロックを振れるように、考えてみると続けた。
「せやけど、こっちのブロックはどうするん? こっちも疲れるんは一緒やない?」
「ブロックは一枚で自分と向き合う、相手一人だけにしましょう。多くて二枚ブロックで、俺が居る側を常に開けて欲しいんです。それから、これはゼルさん次第なんですけど、相手がイラついてきた頃に、止めに行ってほしいんです。ゼルさん、そういう勘が鋭いですよね?」
凛が珍しく、ニヤッと少し悪い顔をすると、ゼルはその一瞬を逃さなかった。
(凛くん、ほんま容赦ないやん。ゴメンて。けど、珍しい顔見れたんは、嬉しい思ってまうんよなあ)
ピー
「しゃーないな。俺のお姫さんの期待に応えたるわ」
(うっ……その顔ずるい)
凛と同じ悪い顔をした、ゼルの声は凛にしか聞こえず、咄嗟に目を逸らした凛は、逃げるようにして整列の為にコートへと向かった。
そうして始まる、菱洋VS風狼の試合。風狼のサーブから始まる。今回は向井からのサーブなため、サーブ位置から向井、山田、敏朗、静流、ゼル、圭人と、反時計回りで見た順でのオーダーとなる。
菱洋側は、前衛レフト位置に1番の河野、前衛ライト位置に3番の将野が、スターティングオーダーとなっている。
ピー
『ナイッサー』
風狼のいつも以上に、気合の入ったサーバーへの声掛けに応えるような、向井のサーブは空気抵抗によって、軽く変化しながらも、アタックラインより少し手前の、ネット際に立つ将野と、レシーバーの間に向かっていく。
(初っ端から、悟は嫌なサーブ打つなあ。でもこれは挨拶するのにちょうどいいかも~)
将野はセッターにも関わらず、自ら声をかけてファーストタッチをとる。そしてその将野に合わせるように、将野の対角位置であるOPが、ツートスをあげ、ライトから助走を取り、当たり前のように打とうとする菱洋セッター。
(うわ。早速挨拶代わりに打ってくるのかよ。でも、普通に打たれるなら、問題無いな。トシさん、クロス締めてくれよ)
敏朗はクロス側をしっかり締めて、凛へのストレートを開ける。ストレートへ打たされた将野のスパイクは、凛の手元へ吸い込まれるように来て、綺麗に上がったボールを、向井は敢えて速攻で山田に打たせる。
(将野はバカだよ。こうやって速攻きたら、お前は邪魔になるだけなんじゃない?)
向井が思った通り、相手のライト側は、守備が薄くなっていて、山田のスパイクはその薄くなった場所へ決まった。
「悟~、性格悪いよ~」
「こんな初っ端に打つのが悪いんじゃない? セッターなら自分の仕事しなよ」
お互いに挨拶が終わったところで、ここからが本番となる。
向井はもう一度同じところへサーブを打ち、次はしっかりレシーバーにあげてもらった将野は、河野へとあげる。
それを河野はクロスのインナー、敏朗めがけて打つが「オーライ」と、河野の手からボールが離れる瞬間に、凛の声が河野にも聞こえた。
敏朗は凛の声で、自分は打つ体勢に入り、凛にとらせる。
(んー、重いけど、まだトシさんのスパイクの方が重たいな。もしかしたら、俺の声が聞こえて咄嗟に向きを変えようとしたのかもしれないけど)
凛の読み通り、確かに河野は咄嗟に方向を変えようとしたが、インナーに打つ場合、そこからさらにインナーか、フェイントにするしかなかった。それにより、思いっきり打つ事ができず、少し変な角度で打ってしまったのだ。
そこからは、一回一回が長いラリーとなり、14-12で風狼は、凛がいないところや、大きく外されたワンチなど、少しづつ弱いところを突かれて、勝ってはいるものの、点差を離しては追いつかれての繰り返しだった。
ピー
第1セット、先にタイムアウトを取ったのは菱洋だった。
(やべぇな。肩に少し負担かけちまったか? 折角治ったばっかだってのに。それにあのリベロ……すげぇとは思ってたけど、アレは異常な判断の速さだろ)
「おい将野。あのリベロ見たことあるか?」
「いや、無いなあ。あんな上手いなら見た事あっても、おかしくないんだけどね~。何処から出てきたんだか。アレじゃあ悟の頭も、フル回転できるだろうね~」
「お前等、あのリベロを狙ってはいないんだろうが、こっちから見ると、打つ瞬間には、もうあっちは落下地点に着いてる。注意して見なければ、あのリベロを狙ってるようにしか見えないぞ」
菱洋の監督の言葉に、全員が思った事はただ一つ。
「何処から拾ってきたんだよ」
全員の言葉を代表するように、河野が言ったが、その言葉に返す人は居ない。
一方その頃、風狼側のベンチでは、凛が河野の不調に気付いていた。
(なんかあの1番の人、肩痛めてないか? んー、でも気のせいかもしれないし……いや、でも俺しか気づいてなかったら、あの人きっと無理するだろうなあ。それで肩壊れても、なんか後味悪いよなあ)
「凛くん何悩んどるん?」
「いや、なんでもないです。こっちではどうする事も出来ないので」
「こっちではってどういうこと?? 何かあったの?」
向井は凛から聞き出そうとするが、凛は敵ではどうする事も出来ないと思い、向井に聞かれても言う事はなかった。その代わり、長引かせないようにと、一つお願いしてみる事にした。
「あの、此処からは1番の人に打たせないように、コミットしませんか?? 1番の人にだけ常に2枚から3枚、コミットブロックして、1番の人が後衛に下がったら、さっきと同じにするっていうのはどうでしょう」
「クイックでもないのにコミットするって、お前何か企んでるのか?」
監督は凛の変な提案に、疑わし気な顔をした。
「何も企んでませんよ。ただこれは、俺からのお願いです」
(後で先生には説明するから、今それを聞かないでくれ)
「この調子でいっても長引くだけやし、俺は賛成やな」
ゼルがいち早く賛成してくれた事により、他もみんな凛の提案ではなく、お願いは貴重だからと、賛成してくれた。
(ありがとう。みんなにも試合終わったらちゃんと説明するから)
ピー
タイムアウトが終わり、風狼が仕掛け、凛は丁度ベンチスタートだったため、そのまま監督に説明した。
「そういう事かよ。凛がそう思ったなら、きっと痛めてんだろうな。凛はそれを他の奴等、特にトシには気づかせたくなかった訳だ」
「そうですね。みんなの集中が途切れても嫌ですし、多分誰も気づいてないから、菱洋も1番を下げる事は無いと思います」
「お前は……はぁ。本当にスパイカーを大事にするんだな。気づかなければいい事も、気付いちまうのは仕方ないか。分かったよ。試合が終わったらあっちの監督にも話しておくわ」
「ありがとうございます!!」
凛は監督にお礼だけ言うと、交代の為に立ち上がって、コートへ走った。
ーーーーーーーー
分かりづらいかと思い、軽くスターティングオーダーを載せておきます。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
220
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる